未来へ続くクリスマス
― つぎはぎだらけのLoveSong ―
＜11＞・最終話
イブが明けてクリスマスの朝。眠りの余韻を引きずったままのろりと目を開ければ、部屋はほどよく暖まって冬の朝とは思えぬ柔らかな空気に満たされていた。
あまりの心地よさに優は再び目を閉じようとしたが、人工的な暖かさでは誤魔化せぬ温もりの欠如を察知し、ぐるりと頭を巡らせた。
「柚ちゃん……？」
欠如の原因は明らかだった。柚葉がいるはずの場所に広がるのは冷たいシーツ。優は慌てて下着を付けてシャツを羽織り、寝室を出た。すると、キッチンからしゅんしゅんとお湯の沸く音が聞こえ、優はリビングからひょいと顔を出してみた。
案の定、キッチンには柚葉が立って、忙しく動いている。きっと朝食の仕度をしているのだろう。優はおはよう、と声を掛けようとして、口を開けたまま固まった。
鍋を探そうとしているのか、柚葉が腰を屈めてシンク下の棚を漁り始めたのだ。優に向かって突き出された尻は、下着代わりの短パンに覆われて無邪気な丸みを晒している。
短い裾から今にもはみ出そうな尻たぶ、そしてそれに続く白い太ももは、女性のものほど肉づきはよくないが、滑らかな肌の質感やほどよい輪郭は申し分なく、オスの原始的な欲求を駆り立てるのに十分すぎる魅力を湛えていた。
「あ、優くん、起きたんだ。おはよ」
優の気配に気付いた柚葉は、鍋を持ったまま振り向いてにこっと笑った。優はかすれ声で挨拶を返すと、早足で近づいて後ろからぎゅっと抱き締めた。
「ゆ、優くん？ どしたの？」
「ああ……駄目だよ柚ちゃん。太もも眩しすぎ」
「なっ、なに言って……」
唐突な抱擁と言葉に狼狽える柚葉には構わず、優は鍋を奪い取って無雑作に仕舞い、ガスコンロの火を消して、食事の仕度は後回し、と無言のうちに宣告した。そして短パンの裾から手を潜り込ませ、ぷりんとした尻肉に五指を沈めて激しく揉みしだく。
「う…わっ、やわらかっ……」
指先や手のひらに伝わる極上の感触や弾力性に、優は思わず声を上げた。柚葉の尻はほんのり温かくて、しっとりみずみずしい肌が手に吸い付いて離れない。
「ゆ…くん、やだぁ、そんなむにむにしちゃ……」
甘えた抗議とともに、駄々を捏ねるように腰を振る。その仕草のほとんど犯罪的な可愛さに、優は思い詰めたような濃い溜め息をついた。
「だから柚ちゃん、可愛すぎだって」
「んっ、知らな…い、も……あ、あっ、やあっ」
いたずらな指先が、谷間の奥にひっそり息づく窄まりをあやすようにつつく。柚葉の反応は見事で、シンクの縁に掴まったままひくんひくんと腰をはね上げた。優は、羞恥に上気した薔薇色の耳たぶを優しく食みながら、
「ね、ここ、舐めていい？」
「い、やっ。ぜったいにいや！」
すると優は、ククッと邪な笑いを転がし、
「ん、でも舐める」
言うが早いか、下穿きを一気にずり下ろした。そしてその場に膝立ちになり、美しい起伏を描く双つの山を左右に裂いた。
「やっぱりまだ、ちょっと充血してる。でも腫れはひいたみたいだね。よかった」
何度も身体を繋げては精を迸らせ、声が嗄れるまで喘ぎ泣いた昨夜の乱れようを言外にほのめかすと、その部分が恥ずかしそうにきゅうっと収縮した。
優は思わずこぼれる笑みを唇に乗せたまま、ちゅっと吸い付いた。そして舌先で襞を弾くように舐め回すと、手の中の柔らかな肉がたまらないと言わんばかりに痙攣した。
「あ…ああ、ん、やぁ、だ……」
蜜状の喘ぎに耳を傾けつつ、今度は舌を尖らせてぬちょ、と中に押し込んだ。途端に入り口付近の粘膜が締め付けてきて、優はたまらず舌を抜いた。
陰部が痛いほど勃って下着を押し上げている状態で、この粘膜の媚態は拷問に近い。早めに挿入の準備をしないと暴発してしまうと思い、立ち上がろうとすると、眼前で震える太ももが粘液に濡れているのに気付いた。内股を透明の細い筋が伝う。優はそれを指ですくって立ち上がり、柚葉の視界に翳し、
「柚ちゃん、お漏らししてる。ほら」
「し、知らないっ、そんなの」
大きくかぶりを振る柚葉の耳にしっかり届くよう、優はわざと音を出して濡れた指をしゃぶった。そして神妙な声で、
「ん、甘い」
柚葉は首まで真っ赤になりながらも、キッと目尻を吊り上げて睨み、
「優くんやっぱり意地悪だ。ゆうべだって、だめって言ったのに……」
「中にたっぷり出されちゃったね」
楽しげな声で後を引き取って、優は再び柚葉の蜜で指を濡らした。そして狭間に滑らせ、人差し指と中指をまとめてつぷりと入れる。柚葉は「はぅっ」と喘いで背中を反らせた。
「ああ、すごく綺麗だ、柚ちゃん」
優は率直な感嘆を捧げると、指を上下左右に揺らして、これから侵入してくるものの大きさを予告するかのように蜜壺を広げた。そうしながらも、空いた手をシャツの下に滑り込ませ、脇腹からへその周りを撫でる。
さらに上へ進んで広げた手のひらで胸をこするように撫で上げると、ぷちっと硬いものがかすめた。
「あっ、ああん」
柚葉の反応はすこぶるよく、指を入れられた時以上の悶えを見せた。優は少し強めに手のひらを押し当て、円を描くように撫でてつんと尖った胸の果実を捏ね回す。
と同時に尻に沈めた指を激しく屈伸させて絡み付く筒肉を撹拌し、舌を耳の窪みに入れてねっとりなぶった。
「やぁっ、ん、も、だめぇ」
三箇所に与えられる刺激に、柚葉は呆気なく落ちた。甘い苦悶に満ちた嬌声とともに腰を突き出し、無言の催促をかける。優は素早く前を開放し、ぎらつく飢えをさらす赤黒いそれを、柚葉の狭間に押し付けた。そしてその大きさを知らしめるようにゆっくりと沈めていく。
ほとんど抵抗なくぬるっ、ぬるっ、と入ってゆくさまを、まるで吸い込まれるようだと表現すると、柚葉はさらなる羞恥にうなじを染めた。
「すごいよ、柚ちゃんの中。むっちりしてて、ぬるぬるで、奥まできゅうきゅうに締め付けて……」
優は恍惚とした口調で賛美しつつ、柚葉の中に深く沈めたままゆらゆら腰を回した。穂先が柚葉のいい場所をかすめるたび、優のものを食い締めている入り口が悶えるように痙攣する。無意識のうちに感じる場所を教えるように。
「柚ちゃん、気持ちいい？」
「んっ、いい、あ、ン、そこ、そこいいっ」
「ここ？ ここをどうしてほしい？」
柚葉ははっ、はっ、と苦しげに息をついてから、
「突き刺して、ぐちゃぐちゃに掻き回して……」
「それから？」
「それから……優くんの熱いの、奥まで注いで」
柚葉の返答にかぶせるように、優は腰を打ち付けた。力の加減も忘れ、目の前の獲物をより深く味わわんとするぎらついた動きには、『犯す』という物騒な言葉が相応しい。
「あっ……ひ……ひぃ、ん………」
引きつった喘ぎを絞り出しながらも、従順に腰を突き出す柚葉に愛しさが湧く。が、それは嗜虐への志向性を孕んだ愛しさだった。
めちゃくちゃに泣かせて乱れさせて、ひぃひぃ言いながら腰を振るさまが見たい。どろどろになったあそこに熱い精液をぶちまけて、内側から溶かしてやりたい。そんな鬼畜めいたことを考えていると、腰の動きがさらにエスカレートしていった。
「やっ、やぁっ、あ、もうっ、ゆるしてぇぇ……」
柚葉の哀訴は、濡れた肌と肌がぶつかり合う卑猥な破裂音に掻き消されてしまう。柚葉は尚もゆるして、ゆるしてと繰り返したが、腰は逃げるどころかさらなる陵辱を誘うようにくいっくいっと淫らなダンスを見せた。
「あっ、あ、ああっ、いくっ、いくぅ……」
絶頂を訴えるとともに、柚葉の下肢にさざ波のような引きつりが走った。さらに、優の陰茎にまとわりつく柔肉が、尋常でない収縮を始めた。
「柚葉っ……」
下腹部に滞留していた熱い塊が一気に弾け、すごい勢いで柚葉の奥を目指す。気が付けば優は、柚葉の尻が潰れて凹むほどの強さで股間を押し付け、がくがく腰を揺らしながら放っていた。
星がちらつきそうなほどの快感に耐え、ようやく全て出し切った優が我に返れば、手の中で柚葉の細い腰が痙攣していた。
「柚ちゃん……？」
「ど、どうしよ、優くん、止まらないの。腰が、あ、ああん」
優のものをずっぷり咥え込んだままひくつく腰は、眩暈がするほど淫らだった。本人に誘惑の意図はないのだろうが、それが余計に快楽に翻弄される姿態を刺激的なものに見せた。
「や、やだ、優くん、また膨らんで……」
もちろん、柚葉に指摘されるまでもなく分かっている。昨夜から数えて片手に足りないほどの放出を遂げたというのに、優の半身は柚葉の中ですでに臨戦体勢だった。蛮刀のように反り返って、達ったばかりで敏感な柚葉の粘膜とぬるぬるこすれ合う。
「ごめん、もう一回だけ………いい？」
先端まで陵辱の意志を漲らせたものの所有者とは思えないほど、おそるおそる伺う優に、柚葉は真っ赤になりつつぽそっと答えた。
「今度はベッドがいいな」
優は自分でも呆れるほど浮かれた声で「了解」と応じると、自身をずるずると引き抜いて甘く弛緩した柚葉の身体を抱き上げ、寝室へ向かったのだった。
「うん、これで荷造りオッケー」
柚葉はスーツケースのお腹をぽん、と叩いて立ち上がった。そして、約ひと月の間過ごした部屋をぐるりと見回す。
「ほんとに、運ぶの手伝わなくて大丈夫？」
心配そうに訊ねる優に、ちょんと胸を張って、
「だぁいじょうぶ。だって、ここに来る時は全部自分で運んだんだよ」
「それはそうだけど……ほら、今日は腰が、さ」
優の含蓄ある指摘に、柚葉の頬はぽおっと赤らむ。そんな甘やかな表情の変化とは対照的に、じろ、と冷たい横目で睨んで、
「誰のせい？」
「俺のせいです。すいません」
蓄積された飢えを満たすような優の“食欲”に翻弄されたせいで、柚葉の腰はふらふらだったのだ。昨夜はもちろん、今朝もキッチンでベッドでと場所を変え、熱い精を何度も注ぎ込まれた。
柚葉の冷ややかな視線を浴びた優は、首を縮めつつもふにゃ、と笑って、
「最高のクリスマスだったなあ。柚ちゃんはどこもかしこもとろってしてて甘くて……」
飾り気のないストレートな表現は妙に艶めいて、そういう意図はないと分かっていながら柚葉は煽られてしまう。そんな感情の危うい高揚を隠すため、わざと強い口調で、
「優くん、なんかキャラ変わった？ 今までは、どちらかといえば恥ずかしがりやの乙女キャラだったのに。どんどんエロおやじになってる」
「んん〜、だって柚ちゃんのカレシだからね。えっちじゃないと務まりません」
「ちょ、どういう意味？ それっ」
さらに顔を上気させて詰め寄る柚葉を「はいはい」と軽く宥め、優はスーツケースを持ち上げた。
「せめて、外まで運ぶよ」
柚葉は顔を赤くしたまま、「ありがと」と不貞腐れた子供みたいな声でお礼を言う。そして、
「時間は大丈夫？」
「ん、リハは３時からだから。今日はどんなに遅くなっても家に帰るよ」
「うん、寝ないで待ってる……」
二人は軽く唇を重ね、その甘い余韻をまとわせたまま玄関を出た。すると、部屋の前に長身の男性が。
「あ、先輩っ……」
その声は紛れもなく達哉だったが、柚葉は一瞬誰だか分からなかった。
「皆川……くん？」
達哉は照れくさそうに頭を掻いて、「はい」と答える。長めの茶色い髪は耳が見えるまで短くカットされ、さらに黒く染められていた。
「その頭……」
あまりに大胆なイメチェンに柚葉が驚きを露わにすれば、達哉は優しく目を細め、
「さっき、切ってきたんです。思い出してみると、先輩は俺を見る時いつもつらそうな顔してたなあって。だから、なるべく似ないようにしようと思って。どうです？ これならあんまり似てないでしょう？」
「皆川くん……」
「これからも、ゼミの先輩として指導よろしくお願いします」
柚葉は込み上げる熱い塊を必死に呑み込んで、「ありがとう」と応えた。これしか、言葉が出てこなかった。達哉はにっこり笑って柚葉の隣にいる優に視線を送り、
「よかった。心配で来てみたのですが、仲直りしたんですね……なんて、ちょっとカッコつけすぎか。悔しいけど、でも……幸せになってください。絶対に」
一方的に告げると、答えを聞かぬまま「それじゃ」と言って背中を向けた。やはり、まだ心から祝福するのは難しいようだったが、それでも十分だった。優は遠ざかる背中を見送りながら、複雑な溜め息をつき、
「外見が似てると、中身まで似るのかな。よかった、クリスマス一緒にいれて。柚ちゃん取られるとこだった……」
馬鹿っ正直な感慨を呟く。柚葉はその頬をむにーっとつねって、
「こらっ、もうちょっと自信持ちなさい！」
「ゆ、ゆずひゃん、いひゃいれす」
「だいたい、クリスマス一緒に過ごせないぐらいで、僕の気持ちが揺らぐはずないだろ」
そう言って、ぱっと手を離す。優は赤くなった頬をさすり、
「でもさ、そういうのってやっぱり大事だと思うんだ。クリスチャンでもないのに、って言う人もいるけど、特別な日に一緒にいるってすごく……大事なんだ」
優の言葉をじっくり反芻した柚葉は、「そうだね」と神妙に返して、
「そういえば、たっちゃんもそうだった。クリスマス当日にゼミの合宿が入って、一応参加したんだけど、途中で抜け出して帰ってきてくれたんだよ。柚に逢いたかった、って言って……」
そしてくすんと鼻をすすり、
「……あれが、最後のクリスマスになっちゃったけど」
優は「たっちゃんらしいな」と言って柚葉の肩を抱き、
「俺たちのクリスマスは、これからだよ。何回、何十回と未来へ続いていく」
「ん、そうだね。来年も再来年も、ずっとずっと一緒だよ」
「ああ。ずっとずっと……」
龍逸が敷いてくれたこの道は、未来へ続いていくのだ。これから、ずっと。
（Fin）
※最後までお付き合い下さいまして、ありがとうございました！
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