未来へ続くクリスマス
― つぎはぎだらけのLoveSong ―
＜10＞
ちゃぷん、と音をたてて湯を弾くと、水面に浮かんだ丸いキャンドルがゆらゆら揺れた。それに合わせて、まろやかな杏色の燭影が躍る。
いつものバスルーム、いつもの浴槽にもかかわらず、電気を消してキャンドルを灯しただけで別世界だった。
神秘というものは日常の彼方にあるのではなく、日常のすぐ傍に息を潜めているのではないか、そんなことをぼんやり考えながら、柚葉は背後の優に背中を預けた。
「なんか……世界に二人しかいないみたいだね」
優の言葉に夢見心地で頷いた柚葉は、首をひねって後ろを向いた。するとすぐさま優しいキスが降ってくる。湿（しとり）を帯びた唇は文字通り溶け合って、舌を絡めなくても十分濃密な交わりとなった。
それでも優は律儀に腰を引いて、湯の中で獣じみた飢えを主張する自身が柚葉の腰に触れないよう気を使っていた。
闇と湯気に閉ざされた密な空間、妖しく揺れる火影、触れ合う素肌。どんな聖人君主だってエロティックな気分になって当然だろうに。ほんとに優くんてば真面目なんだからと嘆息しつつも、柚葉は尻を押し付けて煽るようなことはしなかった。今のこの、おままごとみたいな戯れを楽しみたかったから。
「ね、優くん。クリスマスソング歌って。何でもいいから」
「え、ここで？」
「うん。聴きたぁい」
野外イベントなどで何万人もの観客を前に歌ったこともあるくせに、優はこのテのお願いをされるとあわあわしてしまうのだ。そのたびに柚葉に、優くんてほんとに歌手なの？ と揶揄されるのだが。
「えと、じゃ、じゃあ歌います。せーのっ……♪真っ赤なおっはなの〜〜、トナカイさんは〜〜、いつもみんなの〜〜、わっらいもっの〜〜〜」
「ぶはっ」
優の渾身のクリスマスソングは、柚葉の豪快な笑いに遮られた。
「ゆっ、優くんてば……ムードぶち壊し……」
ひーひー声を上げて笑う柚葉に、さすがの優も「何だよっ」と声を荒げて、
「柚ちゃんがクリスマスソング歌えっていうからっ」
「だ、だってこのシチュエーションだったらもっとロマンチックな、せめて『ホワイトクリスマス』歌うとかさあ。赤鼻のトナカイって……あー、もう、優くんかわいいっ」
「可愛いって言うな！」
「あ〜、かわいいかわいい。ほんと可愛い………」
わざと『可愛い』を連発する柚葉の口を優が手で塞ごうとすれば、柚葉ははむっと噛みついて抵抗する。
そうやって湯舟でばしゃばしゃ攻防戦を繰り広げていると、突然柚葉が「ふぁっ…ン」と艶めかしい声を上げた。と同時に、優もカチンと固まる。二人がじゃれ合っているうちに、優の逸物が柚葉の敏感な谷間をぬるぬるっとこすり上げたのだ。
「柚ちゃ……今の声、反則」
「し、知らない、そんなの……」
甘ったれた声で喘いでしまったという自覚は十分あったから、柚葉は照れ隠しでつんとそっぽを向いた。すると上向きに尖った唇に、柔らかく湿ったものが押し付けられた。
それは取り澄ました柚葉の唇をあやすように、まずは上唇、そして下唇と順番に優しく食んでくる。すっかりとろかされた柚葉は、意識せぬまま誘うように口を開いた。そのわずかな隙間をぬって濡れた舌がとろりと入り込み、口内を泳ぐように優雅に掻き回した。
柚葉も応えて舌を差し出すと、やわやわ甘噛みされた挙げ句ねっとりと啜られ、たまらず腰を揺らした。
「……柚ちゃん、誘ってる？」
口づけをほどいた優は、嬉しいような困ったような声で訊ねつつ、柚葉の答えを勝手に先取りして指を谷間に滑らせた。
「やっ……だめ、優くん、ゆび……」
入浴剤でとろみを帯びた湯は、ローションほどではないものの潤滑油の代わりにはなった。
湯に浸かっているせいでかすかにふやけたそこは、優の指を拒絶するように窄まっていたが、襞のあわいに指先が埋め込まれると、一転して奥へ誘い込むようにきゅ、きゅ、と蠕動を始めた。
「あ…ん、いや、やっ、ぁ……」
「いや、って、柚ちゃんが俺の指を吸い込んでるんだよ」
分かってる？ と意地悪く念押しされ、柚葉は官能に濡れた瞳でキッと見返した。すると目尻を優しく吸われ、と同時に根元まで沈められた長い指がうねうねと動いた。
柚葉の淫らな奥に張り巡らされた神秘の弦を弾くような指の動きに、身体の火照りが激しくなる。これから当分の間はギターを弾く優の指をまともに見られないだろうなと、熱を帯びた頭でぼんやり考えているうちに、奥処（おくか）をえぐる動きが激しさを増していった。
柚葉は浴槽の縁にしがみついていやいやと首を振り、
「だめぇ……中にお湯が入っちゃう……」
柚葉としてはただ事実を述べただけだったのだが、優の情慾を煽ってしまったようだ。背後から聞こえた呟きは、熱っぽくかすれていた。
「柚ちゃん、今のすっげえやらしい。ちょっと……ヤバい」
優はつるりと指を引き抜くと、柚葉の腰を抱えてせかせかと立ち上がり、
「簡単に身体を流して出よう。やっぱ柚ちゃんの中に入れるのはお湯じゃなくて―――」
顔を真っ赤にした柚葉は、続く言葉をキスで塞いだ。
「ん……も、やぁ、それ、いやぁ………」
誰が聞いてもねだっているとしか思えない甘ったれた抗議は、優の耳に届く前にシーツの襞に吸い込まれてしまう。
うつ伏せで膝をつき、背中を大胆かつ優雅に反らせた柚葉は、一向に抗議が聞き入れられないことに癇癪を起こし、「優くんのばか、ばかばか……」と子供じみた声を上げた。
柚葉の秘花を指と舌でひたすら愛玩していた優は、ようやく気付いたのかゆるりと顔を上げ、
「だって久しぶりだろ？ 焦って大事なところ傷つけたら大変だから」
それとも、久しぶりって思い込んでるの俺だけ？ と続けて訊ねてくる声にうっすら嗜虐の陰翳を感じ取った柚葉は、怒るより先にぞくりと慄え、そんな自分の慎みのなさに羞恥を覚えた。
「優くんの、いじわる」
「んん？ 何が？ どこが？」
「そうゆうとこっ」
羞恥を掻き消すため必要以上に尖った声で答えた柚葉だったが、そういった私的な事情は全て優にはお見通しだったようだ。
優は欲望にたわむ声で「もうちょっと意地悪していい？」と囁くと、許可を待たずに柚葉の柔らかな丸みを両手で掴んで左右に広げ、長時間の前戯でとろりと濡れて膨らんだような粘膜の花を露わにした。そして腹筋にぴったり沿うようにして勃ち上がった自身を、その艶めく部分に挟み込む。
「んッ……」
そのかすかな触れ合いだけで、優の雄々しい部分が今どれほどの熱と陵辱の欲望を蓄えているか柚葉は感じた。そして、それがゆっくりと襞を掻き分け、肉を裂くように奥へ這い入ってくる瞬間の疼くような悦びを想うと、尻の奥が物欲しげにうねった。
しかし、そんな柚葉の高揚に気付いているのかいないのか、優は先走りに塗れ溶けたキャンディのようにどろどろになった竿を谷間に挟み、強く押し付けながらぬるぬるとこすり上げた。
「やっ、あ、んっ、あ、ああっ」
とろとろにほぐされ、吐息にすら感じてしまうほど敏感になったその部分には、たまらない刺激だった。ぐちゅっ、ぐちゅっと音をたてて粘膜同士が絡み合うたびに、尾てい骨からうなじまでピリッと甘痒い電流が駆け上がる。
「いれてよぉ、いれてってばぁ……」
もはや、はしたないとか恥ずかしいとか考える余裕もなかった。誘うように腰を揺らめかせて挿入をねだる。そして、凶暴なほどの膨張を見せる優の尖端が入り口をぐにゅぐにゅと抉った瞬間、柚葉の中で肉への欲望が飽和状態となった。
「早く犯してぇっ」
柚葉はすがるような涙声で叫ぶと、自ら両手を後ろに回して尻たぶを掴み、谷間の奥の熟した部分を優の熱塊にぐりぐり押し付けた。
すると背後から「くッ…」とこもった呻きが聞こえ、と同時にミリミリッと身体が裂かれる衝撃が甘い悪寒とともに走った。
「あ、ああっ、すごっ……入って、きたよぉ……」
嬉しくて後ろをきゅぅ、と窄めると、腰を掴んでいた優の五指がびくっと強張った。
「くそっ……ああ、やっぱり君には敵わない……」
「んっ、うそばっかり………あっ、ん、優くんのおっきい……おっきくて熱ぅい……」
「気持ち……いい？」
「ん、きもちいい……奥がずんずんして、途中がぬるぬるして……」
舌足らずな口調で告げられる拙い擬音語は、妙に生々しく淫らだった。その自覚がないまま口にした柚葉だったから、全て収まったはずの優のものが内部でさらに容積を増したことに驚きを隠せない。
「あ、あっ、ん。優くんの……またビクビクってしておっきくなったよぉ……」
「柚ちゃん……そんな可愛い声で実況報告しなくていいから」
優はいかにも降参、といった風に弱々しくそう言うと、まだ律儀に尻を割っている柚葉の両手を取り、シーツに誘導した。そしてそのまま覆いかぶさるようにして身体を重ねると、耳元で「こっち向いて」と囁く。
柚葉は言われた通り首をひねって、優の方へ顔を向けた。すると唇に熱い吐息がかかり、それから一拍おいて湿ったものが触れてきた。
体勢が体勢だけに、隙間なくぴったり唇を重ね合わせることはできない。しかしそんなもどかしさを補うように、優は濡れた舌先で柚葉の唇を丁寧に舐め始めた。と同時に腰をゆらゆらさせて、奥をいやらしく撹拌する。
―――ああ、どうしよう、どうしよう、こんな……
決して激しい動きではないのに、骨まで溶けてしまうような恐るべき快感がじゅわっと湧き上がる。柚葉は戦きながらも応えて舌を差し出し、クチュクチュと水音を弾かせながら先端を絡め合った。
やがてどちらからともなく舌をほどくと、優は感じ入ったような声で、
「すげえいやらしい顔。こういうの、エロ可愛いっていうんだろうな」
「ん、も……バカ……」
「こっちの方もすごいよ。奥までとろんとぬかるんで、俺のに吸い付いてくる。ちょっと突いただけで、腰ごと持ってかれそうになる」
「嘘つき。余裕のくせに」
柚葉の愛らしい抗議に、優は嘘じゃないよと返して腰を抱え直した。先刻より強い力で掴まれ、本格的な抽挿の訪いを予感した柚葉は、忘我の快楽への期待と不安にぶるっと総身をふるわせた。次の瞬間、
「きゃあっ、あっ、ああ、いいっ、そこ、いいっ」
硬く反り返ったものが、柚葉の筒肉を掻き出すように激しく出し入れされる。一回のストロークは重く深く、突かれるたびに脳天がずぅんと鈍く鳴り、その残響が消える前に新たな快感がもたらされる。
何重にも重なったそれは四肢の隅々にまで行き渡り、爪先に滞留してじんじんと痺れさせた。
「きも…ちいい……きもちいいよぉ……」
「柚っ……」
優の切羽詰まった声にときめくものを感じながら、柚葉はシーツにしがみついた。そうしないと、悦楽に惑うままふわふわと浮き上がってしまいそうで。
「あっ、も、もおいくっ、いくぅ……」
舌足らずな口調で絶頂の予感を告げる柚葉に、優は俺も、と短く答え、
「中に……いい？」
「やっ、だ。だって、きっと量……すごい……」
体内に射精されることにそれほど抵抗はない柚葉だったが、尻の奥に収まったものの内臓を押し上げんばかりの巨きさから、放出されるものの量に不安を覚え弱々しい声で訴えた。しかし、
「ごめん、駄目でも出すっ」
だったら訊くなっ、と言おうとした柚葉の唇からこぼれたのは、言葉であることを放棄した爛れた母音だった。優が送り込むものの激しさに翻弄され、唾液とともにシーツを濡らした瞬間、奥処で優のものがぐん、と膨張したような気がした。
「やっ、あ、あっ、奥っ、やあああッ」
「ぅっ……」
どろりと粘度の高い液体が、柚葉の内奥めがけてびゅっ、びゅっ、と吐き出される。その凄まじい勢いには、自身では届かない柚葉の深部まで犯してやろうという意志の宿りが感じられて、柚葉は畏れと悦びに震えた。
柚葉自身もしっかり達していたのだが、放出する快感はあっという間に注がれる快感に駆逐され、下腹部に広がる熱と重量をただうっとりと反芻した。
「あ……ん、すごい……まだ、出てる……」
徐々に勢いは衰えてきたものの、放出は延々と続いていた。すでに柚葉の中は優のもので満たされ、収まりきらぬ種たちがどろりどろりと溢れ出る。
生ぬるいそれが触手めいた動きで内股を伝う感触にぞくりと身震いしたが、嫌悪ではなくふしだらな悦びゆえであることに柚葉は気付いていた。
ようやく出しきった優が、ふっと身体を緩めるのを気配で覚った。柚葉は四つん這いのまま振り返り、
「優くぅん、いっぱい出たね」
すると優は艶っぽく目を細め、
「うん。でも、まだ……」
呟きながら、ゆったりと腰を揺らし始めた。
「えっ？ あ、やっ、やん、うそぉ……」
いったん萎えたはずのものが、ビクビク痙攣しながら柚葉の中で膨張していく。再び内部から広げられた柚葉の蜜壺は、達ったばかりで敏感になっており、たちまち淫らな蠕動を始めた。
「柚ちゃん、気付いてる？ あそこ、すごいひくひくしてるよ。絡み付いて……たまんないよ」
「んっ、やっ、や、あっ」
先刻より滑りのいいそこは、続けざまの抽挿を滑らかに受け入れた。すっかり硬起した優の雄がぬるっぬるっと入り込むたびに、鳩尾の奥がずくずく疼く。注がれたばかりの精液が圧し出され、柚葉の尻も太股もべとべとになり、そこへ優の股間がぶつけられる。
びちゃ、べちゃ、と耳を塞ぎたくなるような卑猥な音に重なって、優の荒い呼吸が聞こえた時、柚葉はこれからの夜の長さを覚悟した。
「優くん、クリスマスのごちそう、ひと晩かけて味わってね」
柚葉の囁きが性感を煽ったのか、それからほどなくして優は二度目の精を柚葉の中に放ったのだった。
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