雪華鬼―耀月縁起―
第六話
「んっ………んふぅ……ン………ぅっ………」
僅かな隙間も許さぬとばかりに裸の四肢を密に絡め合い、深い口付けに没頭する。上から唇を塞いだ耀月は、舌を嫌らしくうねらせてはぬぷぬぷ音をたて、芙蓉の口腔をたっぷり舐め回した。
喉の奥まで犯されるかのような激しさも芙蓉は嬉々として受け入れ、注がれる唾液を残らず飲み干す。そうしながらも、耀月の腰に脚を巻き付けて、股間の膨らみを硬く締まった腹にこすり付けた。
そこは自分でも驚くほど熱く火照って、とろりとした蜜状の粘液が次から次へと溢れ出た。これまでも、耀月のことを考えると濡れてしまうことはあったが、ここまでどろどろになることはなかった。
どうしようもなく恥ずかしい、でも、その羞恥の彼方に背徳的な官能が息づいていることを、芙蓉は知り始めていた。
「んっ……んぁ…ン………ふ、ぅん…………」
微かに隆起した腹筋の割れ目に当たってこすれるたびに、下肢全体が痺れるような快楽の漣が伝わる。芙蓉は己れの浅ましさに恥じ入りつつも、揺れる腰を止めることができなかった。
「何て淫らな……ほら、芙蓉の蜜で私の腹がこんなにどろどろに………」
いったん唇を離した耀月は、耳たぶを優しく食みはながらねっとりと囁く。そして腹に付着した粘液を指ですくい、芙蓉の眼前に披露する。
「や…ぁん……見せないで………」
「自分のなのに、恥ずかしいのですか？」
芙蓉が頬を赤らめてこっくり頷くと、「ではこうしましょう」と言って愛液滴る指を口の中へ。わざと音をたてて舐める耀月を直視できず、芙蓉は「いやっ」と叫んで両手で顔を覆ってしまった。
耀月は手首を掴んでそっと引き剥がし、散々吸われ嬲られたせいで紅く綻んだ唇に再び口付ける。そして舌先を挿し込んで芙蓉の舌をちろりと舐めた。案の定、芙蓉は嫌そうに顔をしかめる。
「美味しくないですか？ あなたの蜜ですよ」
「おいしくないもん………耀月のがいい。耀月のが味わいたいの」
「私のは、こんなに甘くありません。あなたへの欲望でどろどろに煮詰まっていますから」
顔をしかめていた芙蓉は一転、嬉しそうにふふ、と笑って、
「でも、欲しいの。お尻の奥でいっぱい味わいたい………」
耀月は慎みも忘れてごくりと喉を鳴らし、ゆっくり躰を起こした。そして腰に巻き付いたすべらかな脚をやんわりほどき、そのまま膝裏を抱えて大きく開かせた。
「やッ………」
突然恥ずかしい格好を強制されて、芙蓉は訳も分からずとにかく膝を閉じようとする。しかし耀月の力に敵うはずもなく、濡れそぼった性器を熱い視線に晒した。
耀月はさらに脚を持ち上げ、白い谷間の奥でひくつく薄桃色の淫唇をうっとりと眺めた。
「いや……見ないでっ………」
「まさに、夜に色付く酔芙蓉だ。何て愛らしい………」
耀月は吸い寄せられるように顔を近付け、繊細な襞を舌先でぬるりと舐めた。
「ひぃッ………いや、やめてぇ………」
芙蓉の必死の懇願にも聞く耳持たず、今度は舌でトントン叩く。が、さすがに下半身の催促に耐えられなくなってきたのか、顔を上げて蕾を咲かせることに専念し始めた。指の腹でぬるぬると撫でながら、襞を掻き分けて一本挿入する。
「んっ……んぅっ………」
芙蓉は眉根を寄せて、初めての異物感に耐える。耀月は、つい動きが性急になりそうな自身を制して、初心な粘膜を労るようにそおっと掻き回し始めた。
「ぁっ………はぁ…ぁン………あんっ………」
最初は嫌悪をにじませていた芙蓉だったが、徐々に唇は綻び、官能に撓む喘ぎがこぼれ出す。耀月は指を増やし、巧みに揺り動かしては蕾を大きく、柔らかく開かせた。
指を埋め込んだまま小刻みに揺らすと、奥からくぷくぷと熟れた肉が騒ぐ音が聞こえる。と思ったら蜜壺全体がきゅっきゅっと蠕動して、指にとろりと絡み付く。
耀月は大きく息を吐いて、胸腔に溜まった熱い塊を吐き出した。そうしないと、躰の芯が沸騰してしまいそうだった。
「限界です。これ以上は……もう………」
誰にともなく呟くと、指をズルリと引き抜いて重い腰を上げた。腰が重いのはもちろん面倒だからではなく、股間で隆々と存在を誇示する陰物の重量がためだった。
動くたびにずしりと腰に響く。根元を握ると、手の皮がじゅっと音をたてそうなほど熱かった。これを芙蓉の中に押し込むのかと思うと、申し訳ない気持ちが湧き上がるが、しかしもう引き返すことなどできないことは重々分かっていた。
欲望の先触れが際限なく溢れる先端に、念のため香油を塗り付ける。てらてらと光ってさらに怪物じみた様相を呈する陰物を、芙蓉の柔らんだ蕾にそっと宛てがった。
「んッ……」
芙蓉はきゅっと目をつぶって小さく喘ぐ。これから何をされるか分かってはいるが、やはり怯えと不安から逃れることは難しいのだろう。
「芙蓉、力を抜いて………そう………」
耀月は一気に貫きたい衝動を抑え、張り詰めた切っ先で花びらをこすり上げた。むず痒い快感は確実に芙蓉の強張りを融かし、窄まった蕾はふぅっと綻んだ。その隙を狙い、耀月は少しずつ呑み込ませてゆく。
芙蓉の秘孔は徐々に大きく広がり、引き攣れながらも巨大な逸物を受け入れていった。しかしそれは芙蓉にとって未知の感触、未知の熱。もちろん相応の痛みも伴うもので、徐々に恐慌をきたしていった。
目尻から涙の筋を流し、すがるように敷布を掴んではいやいやと首を振る。その健気な風情に胸を痛めると同時に、獣慾の高まりを感じてしまう己れに嫌悪を覚えつつ、耀月はゆっくりと芙蓉の花蕊を犯していった。
「ぃっ………ぃ、ァ、ァッ………ゃぁぁぁ…………」
半開きの唇から漏れるのは、せめぎ合う苦痛と快楽の喘ぎ。未知の恐怖から逃避せんと、涙の菲膜で濁った瞳を中空に彷徨わせた。
「んぁ……ぁ、ぁぁぁぁーーーーーっ」
灼ける楔はさらに奥へと侵入し、芙蓉の柔らかな尻を容赦なく裂く。芙蓉はたまらず悲鳴を上げたが、視界に入った耀月が優しく微笑むのを見て、我を取り戻した。
「よう……げつぅ………」
敷布を掴んでいた手を離し、愛しい男に差し伸べる。幼き頃からずっと変わらぬ無私の愛を捧げてくれた、耀く月に。その手をしっかと受け止めた耀月は敬虔なる想いを込めて、
「芙蓉様、愛しております。昔も、今も、これから先も、永遠に……」
「ああ……」
躰も魂もひとつになれた無上の悦び。それが快楽の焔へと変ずるのに、時間はかからなかった。
「んふっ……ぅ……ぁぁン………よう…げつぅ……もっとふかく…ぅ……」
自ら腰を浮かせて奥へ誘い込もうとする芙蓉を、耀月は低く呻きながら窘める。
「いけませんっ……芙蓉様………お躰が………」
「へいき……ねえ、もっと奥ぅ……んぁっ、ぁン」
挿入時の痛みや違和感もかなり薄れてきたのか、芙蓉はうっとりと目を細めては甘えたおねだりを繰り返す。その可憐にして妖艶な媚態に、耀月はすでに陥落寸前だった。
それだけではない。当初は猛る異物に恐れをなして頑なだった蜜壺も、今ではとろりと蕩けて耀月の竿に絡み付く。ゆったりとした注挿で徐々に馴らしてゆこうと考えていた耀月だったが、少し動かしただけで下腹部が沸騰せんほどの快感が沸き上がるのだ。
このままでは我を忘れてのめりこみ、開花したばかりの柔らかな花びらを虐め抜いてしまうに違いない。そんな葛藤に耀月が苛まれているとは知るはずもない芙蓉は、腰をふるふると揺らしながら「んふっ」とこもった笑いを漏らし、
「耀月の……鼓動を感じるよ。どくん、どくんてゆってるの」
「芙蓉様……」
「すごく、うれしい。うれしくて、泣いてしまいそう……」
その言葉通り、清らかな笑顔を保ったまま双眸から涙をこぼした。耀月は感動に震える指先ではらはらと転がる雫をすくい、
「私も……幸せです。しかし恐ろしくもあります。あなたの躰を欲望の赴くまま喰い尽くしてしまいそうで……」
芙蓉は耀月の背中にしがみ付き、
「大丈夫だから……。食べられたいの。耀月という美しい獣に………」
媚薬の如き囁きを注いでお尻をきゅっと窄めた。その瞬間、耀月の脳裏に霞みがかかり、気が付けば膝を抱えて上からガツガツと打ち込んでいた。
「ひぃぃッ………ぃっ………」
芙蓉の痛ましい悲鳴と、濡れた皮膚が激しくぶつかり合う音、そして耀月の熱く湿った呼吸が混じり合い、雪夜の静寂に沈む閨房を官能の色に染め上げた。
「ゃぁっ………ぁっ、ぁぁっ…………あああああ…………」
耀月の激しさにただ翻弄されるだけで、無意識の奈落に落とされぬよう堪えるので精一杯だった芙蓉だが、次第に躰が熱くなり―――
「んっ………イイ………きもち……いいのぉ………」
「芙蓉っ…………」
耀月の逸物に奥を抉られるたびにズゥンと熱い衝撃が灯り、それが得も言われぬ微電流となって皮膚の上を滑ってゆく。躰中の毛穴がざわざわ音をたて、官能の喘ぎを漏らす。
「ああッ、あッ、あッ………あああああーーーーっ」
ついに快楽は限界点を超え、嬌然と悲鳴を上げた芙蓉は下肢をぶるぶる震わせながら白い精を飛ばした。
「ぁ………ぁ、ぁ…ふ…………」
それとほぼ同時に、あれほど激しかった耀月の動きもぴたりと止まった。いや、微かに腰を揺らしている。芙蓉のすぐ目の前で、逞しい喉仏がせわしなく上下していた。
「ぐっ………ぅ、ぅぅ…………」
射精を終えた芙蓉はすぐに、自分の奥へ熱いものが注がれているのに気付いた。愛しい耀月の、愛しい種たち。
ああもっと、もっといっぱい出して、僕を満たして―――芙蓉は言葉に出さず念じながら、注がれるものを反芻しようとお尻に力を込めたのだった。
長い放出を終えた耀月は、興奮のため盛り上がっていた肩をかくんと落とし、深く息を吐いた。そして先刻の荒々しさからは考えられないほどそろそろと引き抜くと、散々責め抜いた愛しい躰を労り込めて抱き締めた。
余りの心地よさに芙蓉はほぅ、と吐息を漏らし、もっと密着したいと腰をくねらせる。しかし耀月は何を誤解したのか力なく声を落とし、
「申し訳ありません。つい、中に出してしまいました……。気持ち悪いでしょう？」
言っている意味がすぐに理解できず、芙蓉は不思議そうに見上げてぱたぱたと瞬きを繰り返す。が、やがて憂いを帯びた小さな声で、
「どうして……そんな悲しいこと言うの？ 気持ち悪いわけないのに。僕の中が耀月で満たされて、すごくすごく幸せなのに………」
「芙蓉様……」
「耀月は嬉しくないの？ 幸せじゃないの？ 喜んでいるのは僕だけ……なの？」
耀月は何度も何度も首を振り、
「幸せすぎて、今の自分が信じられないほどです。あなたとひとつになれたなんて……」
芙蓉は「ふふっ」と秘めやかに笑い、腕を伸ばして再び抱擁をねだった。耀月は飛び付かんばかりに腕を取り、四肢を濃厚に絡めてきつく抱き締めた。
「芙蓉様……お躰はつらくありませんか？ 初めてだというのについ……」
「んっ……へいき………最初は少し痛かったけど、でも……とっても気持ちよかった」
耀月はゆるりと腕を解いて躰を起こし、
「たくさん出してくださいましたね。白くて熱い糖蜜を……」
陶然と呟きつつ、芙蓉の腹や胸に顔を寄せて舌を伸ばし、飛び散って付着した精の残滓を丁寧に舐め始めた。
芙蓉は「ひゃっ」と悲鳴を上げ、躰をよじって逃れようとする。しかし腰をがっしりと掴まれ、身動きを封じられてしまう。そうする間にも耀月はぬるぬると舌を這わせ、臍の窪みに溜まった芙蓉の精液を綺麗に吸い取って味わった。
「や、やめて、耀月ぅ……」
膝から下をぱたぱたさせて抵抗しても耀月は知らぬ振り。下腹部を舐めると当然とばかりに柔らかな性器へ口を寄せ、根元まで一気に含んでくちゅくちゅと味わった。
「あああーーっ、いやっ、だめ、だめぇ………」
熱くぬめる口腔に包まれ、やわやわと甘咬みされては吸い上げられる。まだまだ初心な芙蓉の芯棒は巧みな愛撫に弱く、あっという間に膨張して耀月の口内でぴちぴちと跳ねた。
それと同時に、つい先刻執拗に抉られた尻の奥が疼き出し、恥ずかしいほどくにゅくにゅと悶え始めた。
「耀月っ、お願い、おねがぁい………」
芙蓉の“お願い”に切実なものを感じた耀月は、いったん口の中のものを解放して躰を起こした。
「芙蓉様、どうされました？」
芙蓉はくしゅくしゅと啜り泣きを漏らしつつ起き上がったが、耀月の股間を目にして思わず硬直した。
「耀月……つ、つらくないの？」
灼けた鋼の如く赤黒い艶を帯び、天を睨んで垂直に勃ち上がる陰茎は、悲壮感すら漂わせていた。先端まで漲った獣慾が、先走りの濃密な液体となってとろりとろりと溢れ出す。
しかし当の耀月は、下半身とは別の意志を持っているのか或いは単に我慢強いだけなのか、春風のような笑みを湛えて「ご心配は要りませんよ」と答えた。芙蓉はくすんと鼻をすすってからちらと見上げ、
「ね、もう一回………して？」
耀月な複雑な表情を浮かべ、それでもはっきり首を振り、
「いけません。負担が大きすぎます。私のことは気になさらずに。芙蓉様は何も考えず委ねてください。気持ちよくして差し上げますので」
「ヤダッ、僕だけ気持ちいいなんてやだもの！ 耀月も一緒に……ね？」
しかし耀月はなおも首を振り、めっと叱って芙蓉の躰を抱き上げようとした。が、それに先んじて芙蓉はくるりと背中を向け、素早く四つん這いになった。そしてくいっとお尻を突き出し、戸惑う耀月の股間にふにふにと押し付ける。
「えい、えいっ。………ね、気持ちいい？」
「ふ、芙蓉様っ」
「耀月の………すごく熱ぅい。僕にもその熱さを分けて……」
芙蓉の容赦ない誘惑に固まりつつ、何とか理性を保とうとする耀月。対して芙蓉は手を後ろに回して自ら尻たぶを掴み、左右にぐいと割り開いた。
紅く充血し微かに腫れた肉厚の花唇がはらりと開き、つい先刻注ぎ込まれた耀月の精液がとぷとぷと染み出てくる。何と淫らな排泄。耀月は言葉も忘れて眺め入り、濡紅の襞にぬるりと指を這わせた。
「ふぁ……ン………」
芙蓉は愛らしい喘ぎを漏らし、腰を上下に揺らして快感を訴える。が、まだ耀月が挿れる気配がないと覚ると、谷間を大きく割り開いたままぐいと押し付け、どろどろに蕩けた秘部をじかにこすり付けた。
ぬちゅぬちゅと控え目ながらも淫猥な音が漏れ、芙蓉の花びらは嬉々として耀月の陰茎にまとわり付く。
「ぁッ……ぁッ………はぁ…ぁ……ん………」
大胆且つ淫らな行為は、芙蓉に背徳的な官能をもたらした。恥ずかしい、けれどゾクゾクするほど気持ちいい。
しかし、そんなささやかな悦びは長続きしなかった。突然、灼けた太い棒に串刺しにされ、それを待ち望んでいたにもかかわらず、余りの衝撃に甲高い悲鳴を上げて激しく悶えた。
「きゃあああッ、あっ、ああっ、あっ………やッ…ぁぁ………」
救いを求めるように柔らかな布団にしがみ付くと、さらに腰を持ち上げられ深く犯された。ほとんど膝は浮いた状態で、がっしり掴まれた腰は容赦なく揺さぶられる。
「ああっ……すごいっ、すごいぃ………ようげつぅ…………」
「あなたの……せいですっ………覚悟なさいっ」
愛しい陵辱者は低く吼えると、煮え滾る精をどくどくと送り込んだ。もちろん一度で済むはずもなく、耀月は抱えた腰を離そうとせずすぐに抽挿を再開する。
離れから嬌声や悲鳴、濡れた睦言が聞こえなくなったのは、空が漸う白み始めた頃だった―――
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