Loveless ―狂熱の時間―
10話
時には絢爛、時には残酷で難解、時には切なくも美しい物語を紡ぐ長い指は、今は二階堂の奥深くをまさぐっていた。
七年間もの空白があったとは思えないほど、黒崎は的確に二階堂の感所を攻める。その指使いは貪欲で荒々しい反面、強張った内襞をあやすような繊細な優しさも備えていた。
ゆっくりと、内側から溶かされてゆく感覚は久しぶりだ。それには確かに、射精という終着点に向かって一気に駆け上がる加速度的な快感とはまた別種の、全身が甘い蜜に浸されるような艶めかしい陶酔があった。
「うっ……ん……」
二階堂は従順に両脚を広げ秘部をさらし黒崎の好きなようにさせていたが、唇は頑なに閉じて、喘ぎも甘い吐息も漏らすまいと押し込めていた。
プライドなのか反射的なものなのか、もはや自分でもよく分からない。しかし黒崎の目には“意地を張っている”と映ったようで、時折きつく唇を吸われた。強情も大概にしろと言わんばかりに。
そしてまた、唇をこじ開けるような口づけを仕掛けてきた。
「ん、くっ……ぅ……」
執拗に唇を吸われ、噛まれながらも、二階堂は無視し続けた。すると黒崎の指がなかで跳ね上がり、すっかりとろかされ感度のいい粘膜と化した筒肉を刺激した。
背筋をビンッと弾かれたような電流が走り、二階堂はたまらず声を上げる。当然ながら頑なな唇は緩み、黒崎は待ち構えていたとばかりに舌をぬるりと滑り込ませ、熱くぬめった口内を好きなように掻き回す。ここでも、黒崎の記憶は確かだった。
二階堂は感じやすい舌の付け根をちろちろと舐められ、反射的に腰を揺らした。その反応に黒崎は満足したのか、唾液の糸を引き伸ばしながら口づけをほどき、端整な唇をいやらしく吊り上げた。
「その反応なら大丈夫だろう。挿れるぞ」
「……どうぞ、お好きなように」
皮肉で返したつもりだったが、声は冷ややかな皮肉にはおよそふさわしくない官能の色で染まっていた。黒崎も気付いたようで、喉の奥で低い笑いを転がすと、指を抜いて脚を抱え上げた。
ローションと愛液で濡れた内股が外気に触れてひやりとする。間接照明がもたらす淫靡な陰翳の中、ぬめぬめとした白い輝きを放つ己の足を、二階堂は他人のもののようにぼんやり眺めた。
しかし、その中心に今まさに突き立てられんとしているものを目にした瞬間、首の後ろに甘痒い戦慄が走り、敗北の予感に囚われた。
ああ、駄目だ。自分はこれのもたらす快楽を、この青筋立ったグロテスクな逸物に身体の奥処を暴かれる悦楽を知っている。それが、プライドとか立場とか理性とか、そういった人間的なものを麻痺させるほどの毒性を有していることを。
黒崎の張り詰めた先端が、二階堂の入り口に押し当てられた。しかしすぐに挿入はせず、襞のぬめりや凹凸を愉しむかのようにこすり合わせる。黒崎のものも先走った粘液でしとどに濡れていたから、こするたびにチュクチュクと蜜音が漏れた。
やがて黒崎はぐっと押し付け、腰を小さく左右に揺らしながらねじ込んできた。
「はっ、ぅ……」
二階堂は無意識のうちにシーツを掴み、唇を噛み締め、下腹部にじわじわと広がりつつある圧迫感や熱、疼きに耐えた。そんな姿態が黒崎を悦ばせ、さらなる嗜虐欲を煽ることになると分かってはいたが。
案の定、黒崎は「ひどく色っぽいじゃないか」と浮ついた声で囁いて、腰をぐっと推し進めた。狭い器官がぬくっと広がり、内膜が蠕動しつつ黒崎のものに吸い付くのが分かる。
「う…るせ……デカすぎるんだよ、ったく……」
か細い声で悪態をつくと、黒崎はうっすら目を細めて笑い、
「私のせいじゃない。亜紀のここが凄いんだ」
そう言って、極太のものを引きつりながらもぎっちり食い締めている入り口を指で愛おしげに撫でた。ぴりっとした刺激がうなじに走り、二階堂は思わず声を上げる。
「やめっ…ろ……」
「おや、そんなに感じたのか？ 暫くされないだけでずいぶんとうぶになるものだな」
黒崎は言いながら、挿入したまま性器に添わせるように指を一本忍び込ませた。そして入り口近くの浅い部分を内側からぐにゅぐにゅ捏ねる。
「うあっ、あ…ッ……」
もう、“やめろ”という言葉は出てこなかった。それとは対照的な、官能という酸がじわじわ侵蝕し始めていることが分かる爛れた母音がこぼれる。
「気持ちよさそうだな、亜紀」
からかうような指摘に対し、二階堂はふいと顔を背けることで何とか否定の意を表した。もちろん、ただの強情だと自分でも分かっている。黒崎は、目の縁に唇を押し付けてちゅっと音をたて、
「涙に曇った瞳が、暈をまとった月のように妖しく美しい。亜紀、お前は確かにあの頃より歳をとったが、あの頃より美貌はさらに磨かれ艶めいて、螺鈿の輝きを放っている。さらに、当時はなかった実績に裏打ちされた自信、プライドによって、輝きが何倍にも増している」
熱っぽくもありまた冷静でもあるような不思議な言葉だった。黒崎は指を抜いて脚を抱え直し、同じ口調で続ける。
「そんなお前を手酷く犯して狂わすことができるなんて、私は幸せだ」
言い終わると同時に、黒崎は宣告通り容赦も加減もない抽挿に没頭した。まだ半分くらいまでしか入れていなかったものを、一気に根元まで突き入れて、股間をぐりっぐりっと押し付ける。
「くっ、ぅ、ぅぅっ……」
暴力的に含まされたものの重量感たるや凄まじく、その脈動が内臓にも伝わりそうなほどだった。二階堂はシーツをぎりぎりと握り締め、浅い呼吸を繰り返す。しかし黒崎はそんな二階堂を労わるどころか、そこで己の性器をズリズリと扱くような激しい腰使いを始めた。
ベッドのスプリングも利用して、実際の大きさを超える深みまで穿とうとする黒崎は、まさに情欲の虜囚。飢えた猛禽そのものだった。
「あ、ああっ、くっそ……このッ……」
二階堂の口からあえかな嬌声と悪態がこぼれたが、その唇が官能にとろけた半開きになっていることからも、すでに快感が優勢になっているのは間違いなかった。
「気持ち…いいだろう？ 亜紀。中が、もうとろとろだ」
目いっぱい押し込んで内部のぬめりを絡め取るように腰を揺らしながら、黒崎が確信犯的に淫靡な声で囁く。
いや、黒崎の声以上に淫らなのは、自身の中から聞こえてくるヌチャ、チュプ、という生々しい性交の音だった。
「う…るせ……」
「まだ意地を張る気か？ だったらこれでどうだ」
黒崎は咎めるようにそこを強く抉った。二階堂の奥深くでずくずく疼きながら陵辱を待つ、かすかなしこりを。
「あああーーッ、いい、いいっ！」
がくんがくんと全身を跳ね上げて快感を謳う二階堂。その性器もビチビチと跳ね、淡く濁った粘液の飛沫をまき散らす。胸にかかったそれを黒崎は指先ですくい、口に含んで味わいながら、そのコリコリした深みを執拗に攻めた。
「ああっ、や、やめっ、あああ！」
もはや恥だのプライドだの言っていられる状況ではなかった。背中は自然と弓なりになり、宙に浮いた爪先は丸まったり反り返ったりを繰り返す。平らですべらかな胸は激しく上下し、白い絖のような素肌はしっとり汗ばんで淫靡な光沢を帯びる。
そんな二階堂の艶美極まる変容を、黒崎は網膜に灼き付けるように見つめたが、当然ながら彼を酔わせ高ぶらせたのはそういった“外側”だけではない。
「すごいな……まるで咀嚼するかのように奥までうねっている。おまけにねっとりと熱くて……」
荒い息の合間から漏れ出る呟きは、情欲の熱で炙られたかのようにざらざらと毛羽立っていた。それを耳から注ぎ込まれ、二階堂は思わず甘い声を上げてしまう。が、そんな自分が許せないとばかりに、すぐに唇を噛み締めて顔を背けた。
すると黒崎は、乱暴にあごを掴んで自分の方へ向き直らせ、低い声で命じる。
「亜紀、現実から顔を背けることは許さん。私に尻の穴を犯され、恥ずかしげもなく声を上げ乱れて、何度も射精する。それが今のお前だ」
「んぅっ、く、うっ……」
「ああ…収縮が激しくなってきた。そろそろだな」
黒崎はそう言うと、二階堂の片脚を肩の上に担ぎ上げ、ほぼ真上からぶちゅぶちゅとはしたない汁音を弾かせつつ何度も突き立てた。
「あ…ひっ……」
今や危険な媚薬と化した血液が全身を巡り、指先までじんじん痺れる。と同時に、身体の奥処から骨まで溶かしてしまうような灼熱の快感が湧き上がり、わずかに残っていた二階堂の理性は吹き飛んだ。
「んあっ！ あ、ああッ、いい、もっと、もっとそこっ……！」
自ら腰をバウンドさせ、蛮刀のごとく反り返った黒崎の剛直をさらなる深みへと誘い込む。互いを貪り合うようなまぐわいはあっという間に絶頂を呼び込み、まずは二階堂が、そして数秒後に黒崎が極めた。
「はあっ、はっ、あ、ああ……」
ベッドから浮き上がった下腹部がうねうねと波打ち、それと連動するようにぱんぱんに張り詰めた紅い先端がびゅっびゅっと白い放物線を吐き出す。
二階堂はそんな己の射精をぼんやり眺めながら、繋がった腰の奥が凄い勢いで潤ってゆくのを感じた。敏感な粘膜は、放たれたもののとろりとした動きすら感知してしまう。
「いいかげんに……しろよ……」
延々と出し続ける黒崎に、二階堂は久々の悪態をついた。しかし黒崎は構うことなく、股間をぎっちりかみ合わせたまま腰を小刻みに揺らし射精を続けた。
狭い器官から溢れた白い液体は腹に滴り、二階堂が放出したものと混ざり合って胸にまで到達した。そこでようやく黒崎の放埓は終わり、深い満足感を匂わせる溜め息をついた。しかし、
「亜紀、これじゃ抜くに抜けん」
黒崎がそう言うのも尤もだった。二階堂の筒肉は黒崎をきゅぅっと締め付けたまま、もっともっととねだるように奥に向かって収縮と弛緩を繰り返す。
「いいから抜けよっ」
「いや、こんな悩ましい誘いを拒絶するなんて私にはできない」
黒崎は真面目ぶった口調で返すと、繋がったまま腰をゆったり回した。すると中からとぷ、とぷ、とクリームを攪拌するような水音が漏れ聞こえた。
「やめっ……ん、あッ」
甘やかな悲鳴も、ひくひくと卑猥に跳ねる腰の動きも、意思で制御できる範疇をはみ出た本能的なものだった。
「これは……凄い。まるで食われているようだ」
黒崎が言う通り、二階堂の肉壁は含まされた性器や精液を味わうかのように複雑な動きを見せた。
射精直後で萎えかけていた黒崎のものはみるみるうちに蘇り、再び内側からぐんと圧迫してきた。それに呼応するように、下腹部の疼きが激しさを増す。
「抜かずにもう一発なんて冗談じゃな………んッ」
胸まで到達していた白い触手が首筋を舐めた。絶頂を味わったばかりで感じやすくなっている身体には、予期せぬ愛撫と同じだった。二階堂はびくりと震え、悶え、無意識のうちに尻の筋肉をきゅっと締める。
「淫乱な身体だ」
黒崎の声は、あからさまな情欲で煮えたぎっていた。美しい弧を描く二階堂の背中に腕を差し入れて起こし、繋がったまま自分の上に座らせた。そして腰を上下に揺らしながら、二階堂の首筋に舌を這わせ白いものを舐め取る。
「二人分の精だ。二人で味わおう」
黒崎はそう言って唇を塞ぎ、粘液でコーティングされた舌を二階堂のそれにこすり付けた。
「うっ……ん、んんっ！」
二階堂は眉をしかめ抵抗を試みたが、純粋な腕力では敵わない。うなじを掴んだ手はびくともせず、頭はがっちり固定されてしまう。さらに黒崎は片方の手を広げ、手のひらで尖った乳首を押し潰すようにして胸を撫で回した。
痛い、けれど感じてしまう絶妙の力加減に煽られ、二階堂の腰も自然と揺れる。黒崎は腹筋の力とベッドのスプリングを利用して突き上げ、奥まった過敏な場所をぐちゅぐちゅと捏ねた。
「ああ……いい……いいっ……」
気が付けば二階堂は黒崎の背中に腕を回して爪を立て、自ら尻を上下に振っていた。性器はとうに張り詰めて、先端の窪みから白濁した液体がたらたら滴っている。
「火がついたな、亜紀。まだまだこれからだぞ」
黒崎は耳たぶを舐めながら淫蕩に囁いて、二度目の熱塊を二階堂の中に放った。
「い……く…ッ……」
二階堂もそれに続いて、黒崎の上で腰や下肢をびくびく痙攣させながら二度目の射精を終えた。全て出し切っても腰の震えは収まらず、黒崎の言葉通り身体に“火がついた”ことを認めないわけにはいかなかった。
「さあ、次は獣のように交わろうか」
黒崎はそう言うと、二階堂の中から自身をずるりと引き抜いた。そして、熱で溶けた飴のように弛緩した二階堂の身体をうつ伏せにさせると、ぐしょぐしょに濡れた尻の谷間に半勃ちのものを挟んで扱き始めた。
「あ、あ……」
二階堂はもはや抵抗する気力もなく、ただされるがまま黒崎の執拗な陵辱を受け入れたのだった。
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