３.
「純、これ着ろ」
ようやく戻ってきた尭村の手には、さっき純が着ていた白いエプロン。
「え？え？ エプロンを、ここで？」
どうしてこんな所でエプロンを着用するのか、純は戸惑うばかり。しかし尭村の表情がだんだん険しくなってくるのを見て、大人しく従うことにした。
「き、着ました……」
尭村は満足そうに頷いて、
「うん、やっぱり似合うな。色がお前のイメージにぴったりだ。でも、もっと似合う着方がある」
尭村は純を背中から抱きしめると、エプロンの脇から手を入れてシャツのボタンを外し始めた。
「あっ、あきむらさん？ 何するの………」
「病人の言うことは大人しく聞く。それが看病の基本だ。純、俺の言う通りにしろ……」
「は、はい………んんっ……っあ」
ボタンを全て外し終わると、そのままするすると滑らせるようにシャツを落とす。そして今度はベルトに手をかけて外し、ジッパーを下ろしてズボンを脱がせる。
「やっ……待って、あの……」
「聞こえなかったのか？ 俺に逆らうな」
いつの間にか尭村の息は荒くなり、服を脱がせる手つきは性急さを帯びてきた。そしてとうとう、下着までも脱がせてしまった。純が今身につけているのは、ひらひらフリルのエプロンと、白い靴下だけ。
「やだ……やだぁ……も………」
自分の格好に思い当たったのか、純はベッドの端に逃げて小さくなっている。しかし尭村は容赦なく追い詰めて、力づくで抱き寄せる。
「あっ……お願い、見ないで……」
純は真っ赤になりながら、エプロンの裾を必死で引っ張って白い太ももを隠そうとする。
「無駄だ、純。そんなことしたってこの格好のいやらしさが際立つだけだぜ」
そして腕の中でもじもじしている純を後ろから抱え直すと、小花の刺繍のある胸当ての上から乳首を弄り始めた。あっという間につんと尖った部分をコリコリと擦りながら、
「ほうら、布の上からでも勃ってるのが分かるぜ。お花よりずっと可愛いな……」
「あっ、あっ、やっん………いじっちゃいや………」
純はたまらず身体をよじった。するとエプロンが少しずれて、やんわりと勃ち上がり始めたペニスがちらと顔を覗かせる。尭村は思わず喉を鳴らした。
「純……見えてるぜ。お前のピンク色のアレが」
ねっとりとした声でそう囁くと、下から手を差し込んでゆったりと扱き始めた。
「ひゃっ……ぁん、だっ、だめ……汚しちゃうよぉ………」
尭村の胸に身体を凭せかけたままシーツをぎゅっと掴んで、いやいやと首を振る。しかも、素肌にエプロンを付けただけの格好で。
大仰なフリルのせいで華奢な身体が余計に際立って、嗜虐欲をぎりぎりと刺激する。このまま、純白のエプロンごとめちゃくちゃに陵辱してやりたい。
―――これは、かなりヤバいな……抑えがきかねー
だったらいつもは抑えられてるのか、という素朴なギモンはこの際封じておこう。尭村は、自分でも呆れるほど荒く乱れた呼吸を何とか整えて、純の身体を蕩かすことに専念した。
すでに溢れ始めてる先走りのせいで、エプロンにはまあるい染みができている。尭村はそれを布の上からぬるぬると撫でると、
「透けて見えてきたぜ。ほら、色も、割れ目もくっきりと」
「やぁだぁ……もぅ……あぁ………」
さっきまでは脚を閉じようと何度か試みていたものの、今はもう、尭村を誘うように膝を開いて、時折ぴくん、ぴくんと腰を揺らす。
「本当に、俺の新妻はいやらしいな」
尭村は精一杯のやせ我慢で嗤いながらそう言うと、純を押し倒して両手をシーツに縫いつけた。潤んだ紫の眼を上から見つめながら、
「新婚当初からこんなに煽られたら、旦那の方はもたないぜ。ん？」
ずれた胸当ての横からぴょこん、と飛び出した紅い突起に軽く歯を立てる。すると純は「あぁん」と喘いで、
「あっ……アナタぁ……」
思いもよらなかった甘い呼びかけに硬直する尭村。ほんのおふざけで始めた“新婚ごっこ”だったのに、自分の方がどうしようもないほどのめり込んでいる。
「純っ、純っ……」
尭村は荒々しく膝を割って脚を持ち上げると、痛いほど反り返った陰茎を慌ただしく解放した。そして自分のと純の、二人分の蜜をすくって蕾に塗りこめると、ゆっくりと入口を犯し始めた。
「ひゃんっ……やあっ……あ、つい……すごい…あきむらさんの……あつい」
指でほぐしていないから、性急に突き入れるのは堪えねばならない。じっくりと入口を広げなければ。しかし純の貪欲な襞は、奥へ奥へと誘うように蠕動を繰り返す。
「……ったく、少しは手加減してくれよ」
情けない呟きを漏らし、それでも純を傷つけてはいけないと自分を諫めて、小さく出し入れしながら少しずつ奥へ進んでゆく。
「あ、ふっ……ぅん、あっ、あっん……もっと、もっとぉ……」
ようやく根元まで咥え込んだ純の秘孔は、見ただけでもうとろとろに熟していると分かる。しかも、何とか堪えていた尭村の努力を嗤うかのように、内壁はびくびくと締め付けてくる。
「純っ、もう容赦しねえぞっ」
言うが早いか、腰が浮くほど脚を高く持ち上げて、何かに憑かれたかのように激しく打ち込み始めた。
「きゃあぁぁっ……ああっ、あぁぁっ、ソコぉ……やあぁっ、いっ、イイ……きもちいい……もっと、あぁっ……あきむらさぁんっ」
尭村は言葉すら忘れて、ただひたすら自らの飢えを満たす。
純はほんの一瞬、乱れた前髪の隙間から尭村の眼を見た。昏く剣呑な輝きを放つ猛禽の眼。情欲に支配された雄の凶気が閃く。
「ああっ、も……もうイクぅ……ああっ、あぅ……う…あっ、あああぁっ」
「う……くぅっ………」
純の奥に熱い、熱い精液が注ぎ込まれるのとほぼ同時に、エプロンにびしゃっ、と大きな染みが広がった。
「あ……ふ、んんっ……」
紅い舌を覗かせながら、艶かしい吐息を漏らす純。真っ白だったエプロンはぐちょぐちょにめくれ上がって、溢れた尭村のモノで濡れた股間は剥き出しのままだ。
尭村は無言のまま、ぐったりした純の身体を抱き起こして脚の間に挟んだ。
「あ……あきむらさ……もう、僕……」
「一回で収まるわけねえだろ。純、上に乗れ。さすがに身体が動かねー。俺をイかせてくれ」
「え……で、でも……」
再び小さくなって、エプロンの裾を掴んでもじもじしている純に、尭村は甘い声で囁いた。
「可愛い新妻なら、そのくらいやってくれるぜ、ほら、来いよ……」
どさりと枕に背を預けて、ゆったり手招きをする。純は誘われるがままに取り敢えず尭村の上に跨った。
「あ、あの………」
それからどうしてよいか分からず、戸惑いを露わにして視線を送る。しかし、
「俺もう動けねえ。自分でやれよ、純」
「は、はい……えと………っん」
ぬめぬめと光って反り返っている尭村自身をそっと掴むと、少し考えてからそれに唇を付けた。そしてそのまま先端を咥える。
―――えっ？………えええっ？
まさかここまでしてくれるとは思わなかった。いつかは口で……と密かな願望は持っていたし、強要すればたぶんやってはくれただろうが、グロテスクなモノを苦しそうに頬張る純の顔を見るのが恐くて言えなかったのだ。
しかし純は嫌そうな顔はしておらず、寧ろうっとりと目を閉じて、先端をちゅ、ちゅ、と吸っている。かと思えば、咽ない程度の深さまで咥え込んで、舌を絡めてねっとりとしゃぶる。涎と先走りの液が口の端からだらだらとこぼれるのも構わず、ぴちゃぴちゃと音をたてて舌による愛撫を続ける。
「……ううっ………く、……純、もういい………」
堪らず漏らした呻きと制止。純は尭村を掴んだまま顔を上げると、哀しそうに瞳を潤ませて、
「ご…めんなさい……ぼく、うまくできなくて………」
そして俯いて、目をこしこしと擦る。尭村は「そうじゃねえっ」と叫ぼうとした。が、その前に限界が来た。無言のまま純の腕を引き寄せると、空いた片手で自分のモノを扱き、純の首から胸を目がけて勢いよく射精した。
「ふ…わっ、尭村さ………」
湯気が出そうなほど熱く濁った液体が、エプロンの唯一汚れていなかった胸当てにどろどろとかかって、滴る。顔に掛けなかったのは、ぎりぎりに保てた理性の賜物。いきなり掛けて目に入ったら大変だ。
「……悪い。もたなかった。いきなりフェラは反則だぞ」
「気持ち……よかったの？」
「三途の川が見えた」
尭村は真面目な顔でそう答えると、「ご褒美やるから来い」と純を抱こうとした。が、
「ダメ。尭村さん動けないんでしょ？ だから……僕がやるから………」
純は再び尭村の上に跨って脚を大きく開き、自分の蕾にそっと指を這わせた。
「尭村さん……今だけ、見ないで………」
小さな声で懇願すると、ほぐれ具合を確かめるように指を第二関節の辺りまで挿し入れて少し動かす。
「はっ……ぁん……、んんっ」
「純……すげえ色っぽい………」
「やぁっ、見ないでってばぁ……」
うぶな表情を見せつつも、蕾を自ら広げて尭村の熱い陰茎を挿し込み、嬌声をあげながら腰を落としていった。そのまま根元まで咥え込むと、熱い息を漏らしながら尭村の肩に掴まって、腰を上下に振る。
「はぅっ……ん…ああっ……ああぁっ」
「純……いいぜ……最高だ」
純の肩越しに見える光景。しなやかに反り返った背中の中央でクロスしている紐、腰で揺れている蝶結びのリボン、その向こうで上下している薄桃色のお尻。何もかもが、尭村の情欲を刺激する。
「純……純、さっきの……もう一度言えよ………」
「なぁ……に？ あぁっ、ん……さっき、の……って…あっ、ん」
「言ってくれただろ、俺に……ほら………」
「はぁっ……ん、……あ、アナタぁ………あっ、あっ」
「駄目だっ」
尭村は叫ぶと同時に身体を起こして純の双丘を鷲掴みすると、激しく上下に揺らした。それに合わせて腰も突き上げ、ガツガツと最奥部を抉る。脳天まで貫かれたような錯覚に純は思わず悲鳴をあげ、そして呆気なく尭村の胸に精をまき散らした。
その温かくぬめりを帯びた感触に酔いながら、尭村もまた純の奥に、沸騰寸前の液体をどくどくと注ぎこんだ。
「うっ……ひっく……うう……あきむらさん、死んじゃいやぁ………」
「……誰が死ぬかよ」
力ない声で呆れたように答える尭村。しかし純の嗚咽は止まず、苦しそうにしゃくりあげている。
「心配すんな、純。こいつが死んだら立派な墓建てるから。そんで俺たち二人、こいつの思い出を胸に仲良く暮らしていこうな」
貴仁はしんみりとした口調でそう言うと、純の頬をそっと撫でた。
「やだっ、やだぁ……あきむらさぁん………」
「……おい、いい加減にしろっ」
怒鳴りながら起き上がろうとするが、すぐにへなへなと倒れこんでしまう。純は真っ青な顔で縋りついて、「無理しちゃだめっ、ホントに死んじゃうよぉ」と叫ぶ。
実はあの後も、尭村は純を組み敷いて何度も犯し、深い満足とへろへろの身体を抱えてシャワールームへ行った。そこで思いっ切りぶっ倒れたのだ。
驚いて恐慌をきたした純は、裸に薄い毛布を巻きつけただけで泣きながら貴仁を呼びに行ったせいで、「純っ、あのエロガキに何されたんだっ」との誤解をまず解かねばならなかった。
「いい加減にすんのはてめえの方だろ。見舞いに行っちゃあヤる、見舞いに来てくれてもヤる。ちったあ節制しろっ」
反論する気力もないのか、尭村はぐったりと枕にうずめた頭を微かに振るだけ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……僕があ、あんな格好してふざけるから……」
まるで自分が責められているかのように縮こまって泣きじゃくる純。こういう時、「お前が悪いんじゃない」などと言ったら余計に萎縮させてしまうと二人とも分かっていたから、何も言わずただ優しく髪を撫でてやった。
「あんな格好、なあ……」
呆れたように呟く貴仁の視線の先には、くしゃくしゃに丸められた布切れが。嘗ては純白新品のエプロンだったが、今では―――
「無残だな」
貴仁が何を見て何を考えているのか察しがついた純は、首筋まで赤く染めて「すみません…」と項垂れた。貴仁は、その華奢なうなじに口づけると、後ろからぎゅっと抱きしめた。
いつもなら、「純から離れろっ」という怒声が飛んでくるはずだが、まさに精魂尽き果てた尭村は弱々しい声で、
「おい……親父。あのエプロン、なんであんなものがうちにあるんだ？」
ずっと気になっていたことだ。家政婦は６０前のばあさんだし、最近は女性の出入りもなかったはず。大体貴仁は、別れた女の持ち物を家に残すことは決してしなかった。ピアス１個でも嫌がった。
「あれか？ 俺が買ったんだよ。今度、京橋の組合連中がうちに来るんだけどな、その時純にアレを着せて、“幼妻”だ、って紹介しようと思っ―――」
「っざけんなぁっ！」
パワー・オブ・ラブ。尭村は飛び起きて貴仁に掴みかかった。どこにそんな余力が……
「おう、それはこっちの台詞だぜっ。せっかく純に似合いそうなのを探して買ってきたのに、性の道具にされた挙句精液でどろどろに―――」
「こいつに似合いそうなのを探してる時点でオカシイんだよっ、てめえはっ」
どうやら本気で喧嘩しているらしい父子を前に、純の涙はさーっと引いていった。
―――もしかしたら、僕は悪くないのかも
その通り。ようやく気付いた純。
そして、まだエプロンがどうだとか、フリル付き探すの苦労したんだとか、精液の染みは漂白剤で取れるとか取れないとか、そんなことを言い合っている二人からそおっと離れて、純は無言のまま帰り仕度を始めたのだった。（Fin）
＊読了ありがとうございました。記念ＳＳとか言いつつも、ただのエロコメディになってしまいましたが……。早く頭を切り換えないと、シリアス長編が書けなくなる〜
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