２.
「どくろ…どくろ……のタオルぅ」
純は、紫の地に、眼窩に薔薇の刺さった髑髏が描かれたタオルを探していた。
ちなみに、この今ドキこれかよ、な絵柄は、直が好きなメタルバンドの“紋章”なのだ。ライブに行ってようやくゲットした、直のお気に入り。
「あ、あったぁ、どくろっ」
異様な妖気を漂わせているタオルを見つけた純は、ぱたぱたと走り寄ってそれを取ろうとした。その時、
「ぶわっ……えっ？ えええっ？」
突然背後から上着をかぶせて抱きすくめられ、そのままもの凄い力で引きずられていった。
純は何がなんだか分からぬまま、その力に抗うこともできず大人しく従うしかなかった。
お姫さまが呆気なく拉致されてしまったすぐ後、秀が慌てた様子でグラウンドに現れた。
「おーい、沖秀ー」
「あっ、森下先輩っ。純は来ませんでしたかっ」
「安心しろ、尭村が捕獲に成功した」
「はあ〜、よかった……」
思わずベンチに座り込む秀。森下は同情を隠しきれない声で、「尭村もだけどお前も大変だな」と労いの言葉をかけた。
旧図書館の裏。いつもの場所。しかし漂う空気はいつもとは全く違っていた。
尭村は、抱えてきた身体を少し乱暴に芝生へ押し倒すと、腹の底から響く低音で、
「……何してんだ、おまえは………」
純は驚きの余り、自分を見下ろす尭村の顔をぽーっと眺めていたが、
「な、なにって……タオルを探しに………」
「そうじゃねえっ！ こんなエロい格好さらして何してんだって聞いてんだよっ」
激しい怒声、鬼の形相に怯えた純は、首を縮めて思わず目をつぶった。すると突然、胸の辺りに鋭い痛みが走った。
「あっ、いっ、いた……」
驚いて見れば、尭村の指が純の乳首を、濡れたシャツごとつまんで引っ張り、ぎゅっと押し潰している。
「い、いたいっ、尭村さん、やめっ……」
「形だけじゃなく、色まで透けてたぜ。水着なんかよりずっとイヤらしい。涎もんだったろうなあ……ああ？ ずい分とサービス精神旺盛じゃねえか」
口許はにやついているが、目は笑っていない。尭村は、こういう表情の時が一番危ないのだ。乳首を嬲る手つきも、徐々に変わってきた。痛みだけではなく、それ以外の刺激を与えようと、擦ったり、爪で引っ掻いたりしている。
「あっ、あぁっ……ご……めんなさ…い、尭村さん……ゆるして………」
「お前は何にも分かっちゃいねえ。俺がどれだけ―――」
尭村は苦しそうにそう言うと、絶句してしまった。
純は、自分がどれほど尭村に心配かけているかを思い知らされたような気がした。思わずじんわりと浮かんだ涙は、恐怖や痛みのせいばかりではない。
「尭村さんごめんなさい。も、心配かけないように気をつけます……だから、そんな苦しそうな顔しないで………」
「純……」
尭村は純の上に覆いかぶさると、そのまま唇を重ねた。暫く熱い舌を味わったのち、ゆっくり唇を離すと、唾液の細い糸が二人の唇を繋いできらきらと輝いた。
尭村はそのままの体勢で身体をずらし、シャツの上から純の可愛らしい突起に吸い付いた。
「やんっ……んっ…っふ」
布ごと優しく噛んでやると、みるみるうちに紅く膨らんできた。布ごしに透けて見える小さな果実は艶かしく、こみ上げてくる欲望は果たして性欲なのか食欲なのか、或いはその両方なのか尭村には分からない。
ただひとつ言えるのは、これを他の男に見られるぐらいなら喰ってしまった方がましだと思っていること。尭村はちらと唇を舐めると、
「そこまで言うなら許してやる、と言いたいところだが、やっぱりお仕置きしとかねえとな。今後のためにも」
言うが早いか、純のズボンに手を掛けて、下着ごとするすると脱がせてしまった。青々とした芝生に投げ出された白い無防備な脚は、余りに生々しく鮮やかに、尭村の網膜に灼きついた。
「ほら、このままじゃ芝生がちくちくして痛いだろ？ これ敷けよ」
そう言いながら、自分の上着を広げてその上に純を横たえる。妙なところで優しいのだ。もちろん純はそんな優しさに感動するどころではなく、膝をぴったりとくっ付けていやいやをする。
「あ、あきむらさん……僕の……服返して………」
「ああ、返してやるよ、一時間後にな」
妙に優しい声で答えると、その声とは裏腹に、無理やり膝に手を掛けてこじ開けた。
「いっ、いやいやいやぁ……」
「純……お前勃ってるじゃねえか。さっきので感じたんだな。いやらしい奴だ……」
全体は白っぽい肌色で、先にいくほど淡いピンク。そんな、所有者に負けないぐらい可愛らしいペニスが勃ち上がって自己主張している様を、尭村はうっとりと眺める。そしてそっと手を伸ばし、ゆるゆると扱き始めた。
「はぁっ、ん……やぁん……やめっ、あっ、あっ………」
宙に浮いた脚がびくびくと揺れる。白い太ももに映った木漏れ日のまだら模様は、異教の巫女か奴隷に施す化粧のように卑猥だ。
尭村は純の脚を自分の肩に乗せると、迷わずその部分に吸い付いて、滑らかな薄い皮膚を味わった。そして紅い痕を幾つも散らすと、溢れ始めた蜜をすくって指を濡らし、敏感な襞をからかいながらその奥へ突き入れた。
「ひぃっ、ん……んん………あん……あきむらさぁん、ほ、ほんとに……ここでするの？」
純が縋るような眼で見上げてくる。こういう顔をされたら、たとえする気がなくたって興奮してしまうのが男というもの。いや、する気は最初から満々なんだけど。
尭村は答える代わりに指をぐりぐりと中で回して、ぐちゅっぐちゅっと派手な音をたててみせた。そして片手でジッパーを下ろし、今にも咆哮を上げそうなほど昂ぶったモノを取り出した。
しかしすぐに挿入はせず、ポケットからコンドームを出して袋を口で破り、赤黒く怒張した自身に被せた。
「まだ授業があるからな……さすがに中出しはヤバい………」
自分に言い聞かせるように呟くと、今度こそひくつく秘孔にずぶずぶと埋め込んだ。
「ああっ、ああっ…ん、や、あぁ……」
「まだ……入るぞ、純……ほら」
「や、や……もう入らな……っああぁ」
ゴムのせいで、肉の絡みつく感じはいつもより少なかったが、尭村のリズムに合わせた激しい締め付けと中の熱はいつも以上で、純もこのシチュエーションに興奮していることが分かる。尭村の動きも、知らず知らず激しさを増す。
そして角度を変えて内壁を擦り上げるように突くと、純は掠れた嬌声と共に、先端の小さなくぼみから白い蜜を放った。尭村は、その艶かしい放出を見届けると、己れの情欲を解き放った。
「はあっ……ふぅ……ん」
荒く熱い息をこぼす純から、放出の余韻冷めやらぬ自身をずるりと引き抜くと、コンドームを外して中に溜まった精液ごと投げ捨てた。
そして取り敢えず中にしまってジッパーを上げ、気だるそうに四肢を投げ出している純の身体を抱えた。
「あっ、尭村さん……んんっ」
広げた脚の間に挟み込むようにして後ろ向きに抱き、腕を回して身体をぴったりと密着させる。
「お前ん中、相変わらずすごいよな……。ゴム着けてたのに秒殺だったぜ。淫乱な粘膜………」
耳に触れるくらい唇を寄せて、甘い声で淫らな言葉を囁く。
「やっ、いやっ、尭村さん、そんなこと……」
尭村は、真っ赤に染まった耳たぶを強く吸うと、手を股間に伸ばして再び純のペニスを扱き始めた。
純は尭村の腕の中でびくんと跳ね上がり、「いやあぁ…」と喘ぎながら、柔らかく勃ち上がったペニスを掴んでいる尭村の手に爪を立てて、必死で引き剥がそうとする。
しかし手の中にあるモノの方が素直で、それはぐんぐんと形を変えていった。
「そう……そういう素直なところが好きだぜ」
尭村は嬉しそうにそう言うと、親指の腹で先端に円を描くように撫で始めた。すると、先端の小さな穴からぷうっと透明な雫が膨らんで、とろとろとこぼれ落ちた。
「何から何まで可愛いな、お前は」
尭村は感じ入ったようにそう言うと、もう片方の手を股の奥に伸ばして、今さっき犯したばかりの小さな蕾を弄り始めた。
「きゃあぁんっ……やあっ、ああっ、ああぁぁ」
中に入れた指を鉤状に曲げて奥を探ると、指先にぷくりと膨れた肉を感じた。そこをツンツンとつついてやると、艶かしい悲鳴をあげて腰をびくびくと跳ね上げた。
「純……ここ、イイんだろ？ もっと苛めて欲しいんだろ？」
「いやあああぁっ、だめぇっ…ソコだめぇっ………おねが、い……も、ゆるして……」
涙でくしゃくしゃの顔で、必死に哀願する純。愛情とは表裏一体の嗜虐心が頭をもたげてくる。尭村は指を抜くと、冷たい声で、
「だめって言うから抜いたぞ。ん？ 純、もういいんだな」
純は快感の余韻で暫し腰を揺らめかせていたが、一度火を付けられた部分の疼きに翻弄されて、たまらず尭村におねだりした。
「あ、尭村さん、お願い………して」
「なんだ？ 何をして欲しいんだ？ また嫌とか駄目とか言われたくねえしな」
「い、入れて……ください」
「どこに？」
純は恨めしそうに尭村を見上げたが、観念したのか小さな声で、
「僕、の……後ろのお口に入れてください」
「後ろのお口ってどこだ？ 俺に教えてくれよ」
笑いを含んだ声でそう囁かれて、純は泣きそうになった。しかし、その甘い声でますます奥が疼き出したのも事実。
純は尭村の拘束をやんわりと振りほどいて、その目の前で四つん這いになった。そして腕を下からお尻の方に回すと、指で割れ目をぐっと開いて濡れた紅い蕾を晒し、
「ココ……ココに尭村さんのおっきいの挿れて………」
―――ぷつん、
と、実際に音がしたかどうかは分からない。が、音がしてもおかしくないぐらい、尭村の理性（のようなもの）は完璧に弾け跳んだ。
ジッパーを下げるのももどかしく、さっき仕舞ったばかりの凶器を取り出して、細い指で押し広げられた可愛い孔に勢いよく突き刺した。
「ひぁっん……あぁっ、あぁっ、あぁぅっ……あぁぁ」
白い双丘を鷲掴みにして乱暴に打ち付ける。そのたびに、肉色に潤んだ襞がめくれ返るのを見ていると、自分が凶暴で貪婪な猛禽になったような錯覚をおぼえる。
この身体を味わい尽くしたい。めちゃくちゃに犯してやりたい。
尭村は、片手を純のペニスに伸ばして上下に激しく扱いた。すると純は「くぅっん……」と鳴いて呆気なく放った。手の中に溜まったなめらかな液体を結合部分にとろとろと垂らすと、さらに滑りがよくなり、打ち付けるたびにぐちゃっ、ぐちゃっ、という濡れた艶音がこぼれて鼓膜までも煽る。
「いやらしい音出しやがって……くそぉ……」
余りの快楽に、怒りすら湧いてくる。限界を悟った尭村は、潔く抜いて根元を扱いた。すると、尋常じゃない大きさに膨れ上がった陰茎は、別の意志が宿っているかのようにびちびちと跳ねながら、白く濁った精液の糸を吐き出した。
「っくぅ……」
思わず漏れる呻き声。我ながら、よく中で出さずに堪えたものだと、朦朧とした頭で自画自賛する。見れば、純の腰のくぼみに今放ったものが溜まって、白濁の海ができている。
―――これはこれで、いやらしいな
そんなことを考えながら、上着で丁寧に拭いてやり、純の身体をそっと起こして膝の上に抱き上げた。
「尭村さん……」
非難がましい眼で見つめてくる純に、「たまには外もいいだろ？」と囁いて、にやりと笑う。純は真っ赤になりながらも、尭村の胸に抱きついて、
「あの…さっきはごめんなさい。も、怒ってない……？」
「ああ。いい子でお仕置き受けたからな。許してやる。でも純、これからも、お前の裸を見て、肌に触れて、口付けることができるのは俺だけだ。プールも水着も許さん」
純は小声で「はい」と答えたが、すかさず「学校以外でもだめ？」と甘えてみせる。
「そんなに泳ぎたいのか、お前は。……そうだな、俺ん家の敷地内にプール作るか。うん、それがいい。これなら誰にも………って冗談じゃねえっ」
一人で納得して一人で突っ込む尭村を、純はぽかんとして見上げている。
「親父がぜっったい覗くに決まってるっ。……っそお、見られてたまるかぁっ。やっぱ駄目だ。プールは却下っ。純、お前は俺ん家の風呂場で泳いでろっ」
拳を握り締めて喚き散らす尭村を眺めながら、今度環お姉ちゃんに頼んで、庭にビニールプールを作ってもらおうかなあ、などと本気で考える純だった。
こうして二人の甘い時間はエンドレスに続くのだ―――
ちなみに２−Ａの教室では、
「おいっ、尭村はまた授業ほっぽってどこ行ったんだっ」
「尭村くんは今、お仕置き中でぇーす」
「お仕置きぃ？ 何のことだ？」
「きゃあ〜、そんなの恥ずかしくて、乙女の口からは言えませーん」
勝手に盛り上がる（腐）女子たち。そのピンク色な空気の中で森下は、
―――秋原、すまん……
一人後悔の嵐だった。（Fin）
BACK TOP INDEX