―７０万ヒット記念ＳＳ―
２.
あの遠乗りの日以来、成仁の態度はすっかりよそよそしくなってしまいました。
公務の合間に純を連れて庭を散策することも、就寝前に純を傍に呼んで本を読み聞かせてやることもしなくなったのです。ただ冷たい声で、仕事を事務的に言い付けるだけでした。
時折、傍に呼び寄せることもありましたが、そんな時は純の頬に手を当てて、何も言わずじっと見つめるだけでした。
何か深い思索に囚われているのか、黒い瞳は微動だにしません。純はどうしてよいか分からず、その場でじっとしているしかありませんでした。
そんな時、成仁の許にある知らせが届いたのです。派遣していた従者からの、喜ばしい報告でした。何と、成仁が探していた人物が見つかったというのです。そう、浜辺で彼を介抱した命の恩人です。
成仁は半ば諦めていた、というより純のことで頭がいっぱいだったので忘れかけていました。すぐに連れて帰るように返信を送ると、迎えるための準備に取り掛かりました。
城内が急に慌ただしくなったのを不思議に思った純は、成仁に訊ねました。
“成仁様、どなたがお見えになるのですか？”
「ああ、お前は知らないだろうが、俺は一度死にかけているんだ。船が難破して海に放り出されてな。しかし誰だか分からないが、意識のないまま海岸に漂着した俺を介抱してくれたお陰で命を取り留めたんだ」
純はそっと頷いた。それはもちろん知っています、何故ならあなたを介抱したのは、この僕なのですから―――
「そいつにひと言礼が言いたくて、ずっと探していたんだ。が、どうやら見つかったようだ」
純は耳を疑いました。その人物とは、紛れもなく自分のこと。
なのに―――
「丁重にもてなさねば。純も頼んだぞ」
成仁はそう言って純の肩を叩くと、さっさと部屋を出ていってしまいました。一人残された純は疲れたように項垂れながらも、客人をもてなすための花を摘みに庭へ向かったのでした。
「驚きましたわ。まさか王子様だったなんて。もちろん王子だろうが物乞いだろうが、倒れている人を助けるのは当然の行いですが」
そう言って甲高い哄笑をまき散らす女性を見つめる成仁の眼は、明らかに曇っておりました。しかし仮にも命の恩人に対して、余り無礼な真似はできません。ただ黙って頷くに留めました。
彼女は大地主の一人娘で、毎朝の習慣にしている海岸の散策中、倒れている成仁を見つけて介抱したということでした。
そして彼女曰く、呼吸が安定してきたためその場を離れ、医者を呼びに行った。しかし戻ってみたら、すでに成仁は別の人間によって運ばれた後だったというのです。
「どうかご無事で、と祈りを捧げましたわ。あたくしの祈りが届いたのでございますね」
確かに、彼女の言葉に疑いを挟む余地はありませんでした。彼女が語った状況も、成仁が後で医者から聞いた話と合致しておりました。しかし、どうしても納得できない。記憶に刻み込まれた声と差がありすぎるのです。
―――どうか死なないで
その悲愴な囁きには、溢れんばかりの愛情と思い遣りが詰まっておりました。
もちろん、生と死、夢とうつつの境を彷徨っていた意識に届いた声なのですから、その信憑性は不確かでしょう。そんなあやふやな記憶よりも、今目の前にいる女性を信じるべきなのかもしれません。しかし、しかし―――
「純………」
軽く頭を振った成仁の眼に、傍らに控えている純の姿が映りました。淋しそうにぽつんと立ち尽くす純は、置き去りにされた子供のようでした。
成仁はいたたまれず立ち上がると、純の肩を抱いて「もう下がっていいぞ」と優しく囁きました。純は驚いたように目を見開きましたが、力なく頷いて部屋から出ていきました。
そう、成仁が労わりから発した言葉を、純は拒絶と受け取ってしまったのでした。あの女性と二人きりになりたいから、部屋から出ていってくれ、と。
純はそのまま自分の部屋に駆け込むと、寝台に倒れ込んで泣き続けました。いくら泣いても声が嗄れることはないからと、自分を嗤いながら。
その後も娘は城に滞在し続け、丁重なもてなしを受けました。しかし彼女は不満でした。
聞いていた話では、王子は自分を助けてくれた娘を妻として迎えるつもりとのことだったのに、そんな申し出は疎か、優しい言葉のひとつも掛けてくれないのです。
そんな時、彼女の頭にある人物の姿が浮かんできました。それは、王子の身の回りの世話をしている美しい少年。もしかしたら、彼のせいで………
「冗談じゃないわ」
娘は腹立ちまぎれに吐き棄てると、荒々しい歩みで部屋を出ました。すると折悪く、純にばったり遭遇してしまったのです。
彼女は咄嗟に怒りを押し隠し、少し困惑したような笑みを浮かべて純にそっと囁きかけました。
「ねえ、あなた。確か成仁様の小間使いよね。実はね、私、成仁様から結婚を申し込まれてしまったの」
純はショックを隠すことができませんでした。蒼褪めた顔で、虚ろな視線を彷徨わせるばかり。これで終わった、何もかも―――
娘は純の落胆を存分に堪能すると、猫なで声で続けます。
「まだ誰にも言わないで欲しいと頼まれたのだけど、あなたならいいわよね。だって口が利けないのですもの。ああ、でもどうしよう。国のお父様に何て伝えたらいいのかしら」
娘は胸の前で手を組んで、うっとりとした眼差しで宙を見据えます。会心の演技です。
純は耐え切れず、そっとお辞儀をすると娘の前から逃げ出しました。これ以上彼女の傍にいたらきっと、彼女を怨んでしまう。祝福してあげるべきなのでしょうが、自分はそこまで強くはないと純は知っていました。
そして気が付けば、純は暗い海岸で一人、温かな海風に身を浸して泣いておりました。
―――もしその男が他の女に誓いをたてたら、お前は海の泡となって死ぬしかないのだぞ
海の国の最果てに棲む魔女から言われた言葉を、忘れたわけではありません。でも純は、死ぬのは恐くありませんでした。
あの方の愛を喪ってしまうのは、死ぬことと変わりない。いえ、死ぬことより辛い。だから純の心を支配しているのは、恐怖ではなく純粋な悲しみでした。
もうあの方の黒い瞳を覗き込むことも、温かな胸に頬を寄せることも、甘く低い声で名を呼んでもらうこともできないのかと思うと、純の胸は悲しみの凍土で覆われて、呼吸すらままならなくなりました。
純は自分の足をそっと撫でました。声と引き換えに足を得て、地上は危険だからと必死に引き止めてくれた優しい姉たちを振り切ってきたことが思い出されます。
そう、純は海の国に棲む人魚だったのです。但し、嘗ては。
―――ごめんなさい、お姉様
末っ子で甘えん坊のくせに好奇心だけは旺盛な純を、いつも優しく時には厳しく守り導いてくれた姉たちへの謝罪を喉の奥で繰り返して、純は暗い海面を見つめました。
闇が支配するという死の国へそのまま続いているかのように、不気味なほど静かで黒い海。が、その時どこからか歌声が聞こえてきました。
それは人間の耳では容易に捉えられないほどの微かな響き。すると海面から白い泡が立ち、そこから懐かしい顔が幾つも現れたのです。
「純、諦めるのはまだ早いわ。さあ、これを受け取りなさい」
たった今心の中で別れを告げた姉たちが、純が立つ岩を取り囲むように姿を現しました。
そして最も年長の姉が渡してきたのは、暗闇の中でも重苦しい存在感を放つ短剣でした。純は恐怖の余り震えて、思わず後ずさりします。
「純、よくお聞きなさい。この剣であの男の胸を突き刺すの。そうすればお前は海の泡にならず、人魚に戻ることができます」
純は激しく首を振って拒絶を表します。そんな、そんな恐ろしいことは―――
「純っ、あの男はお前の愛を踏みにじり、他の女に誓いをたてたのでしょう？ そんな男に情をかけることはありません。さあ、剣を取りなさい。そしてまた、私たちのところへ戻ってきて、お願い………」
純は岩の上からそっと手を伸ばして、剣を受け取ります。手のひらにずしりと感じる重みは、姉たちの想いがゆえなのか、それとも、これまでこの剣が吸ってきた血の重さなのか―――
「ためらわずにやるのよ。分かったわね」
姉たちの言葉を背負って、純はふらふらと城に戻ったのでした。
城内はすでに寝静まっておりました。純は懐に短剣を忍ばせて、成仁の部屋に向かいます。
そっと扉を開けると、彼が好んで身に付けている香料が闇と混じり合って、純の鼻孔を優しく慰撫しました。それだけでもう、切なくて泣き出したくなってしまいます。
それでも純は懐から剣を取り出すと、両手で握って胸の前に翳しました。
―――成仁様……
他を圧倒する威厳に満ちた物腰からは想像もつかないほどの、安らかな寝顔。窓から射し込む月明かりが、すっと通った鼻筋や凛々しい眉、少し長めの前髪などに蒼い陰翳を投げかけます。
その妖しいまでの美しさにうっとりと見惚れていた純は、やがて肩を震わせて笑い始めました。
ああ可笑しい、可笑しくてたまらない。こんな短剣を持って部屋に忍び込んだりして。自分に、この愛しい人を殺めるなんてできはずもないのに。
姉たちの想いを無下にすることはできなかったから剣だけは受け取ったけれど、その剣を胸に突き立てるなどできないとは百も承知。
そんなことをするくらいなら、彼と過ごした短い間の煌く記憶を胸に留め、海に飛び込んだ方がどれだけ幸せか………
純は零れる涙を拭おうともせず、ただ成仁の頬に柔らかな口付けを落としてその場を去ったのでした。
―――ごめんなさい、お姉様。僕は我がままな悪い子でした。これからは海の泡となって、お姉様たちをお守りいたします……
そして純は、暗黒の海に身を躍らせ―――――――
「だ、だめえっ。だめだよぅッ」
「ゆ、雪仁くん？ どうしたの？」
「にんぎょひめ死んじゃだめだもん。かわいそうだよぉ………」
「そうだね……でも、仕方ないんだよ……」
純の言葉に、雪仁はぶんぶん首を振って抵抗し、
「純たんっ、王子さまはね、ぜんぶ知ってるよ、きっと」
「全部、って？」
「ぜんぶ、だよぅ。助けてくれたのがほんとはにんぎょひめだ、とか。そうだよ、命のおんじんをまちがえるはずないもん」
雪仁があんまり必死に訴えるから、純もつい想像してしまった。王子は何もかも気付いていた。そして―――
「待て」
背後から鋭く制止され、純の身体は硬直しました。振り返らなくても分かる。この声は―――
「純、そのままでいい。俺の話を聞いてくれ。瀕死の状態で浜辺に漂着した俺を介抱してくれた人は、呼吸や体温が戻り始めたのを確かめると、温かな口付けを残して去っていった…………海の方へ」
純の身体はカタカタ震え始めました。もう止めて、それ以上言わないで――
「顔は覚えていない。しかし、その唇の感触と“どうか死なないで”という囁きだけは記憶に刻まれている。そして俺は、あの時の唇と同じ感触を知るに至った………」
成仁はゆっくりと近付いて、驚かさないよう声を掛けながら純の肩を抱きました。
「お前の唇は、俺を救ってくれた人と同じ愛情と温もりに溢れていた………純、俺はこんな言い伝えを聞いたことがあるんだ。人魚は、自分の声と引き換えに足を得ることができる。さらにこんな言い伝えもある。地上の男を愛した人魚は、愛が成就しなかった時には海の泡となって消滅せねばならない………」
純は両手で顔を覆って小さく頷きました。もう、隠すことはできません。全てを正直に打ち明けた上で、海の泡になろう―――
「………っ」
純は驚いて息を呑みました。成仁にふわりと抱き上げられたのです。成仁はそのまま、暗い海に向かって誓いをたてました。
「母なる海よ。俺はこの、無垢なる魂を持った穢れなき人を、あなたに代わって一生愛し続けることを誓う」
そして確かな足取りで城へ戻っていったのでした。
成仁の寝台の上に裸で寝かされた純は、羞恥と怯えに絡め取られてどうしてよいか分からず、身体を小さく丸めてぶるぶる震えておりました。
「初めてだから恐いのは当然かもしれない。が、俺を信じろ。お前と……愛し合いたい」
純はそっと顔を上げると、成仁に向かって腕を伸ばしました。僕もあなたを愛しております――言葉で伝えられない分、純は身体全体で表現しようと、羞恥を押し殺して全てをさらけ出したのでした。
「純っ……」
すでに息が上がっていた成仁は、掠れ声で名を叫んでその真珠の肌に吸い付きました。慣れない刺激に、純は敏感に反応します。四肢を緩やかに波打たせ、唇から濡れた溜め息を漏らし、そして股間の宝物から甘い蜜を滴らせます。
純をなるべく恐がらせないようにという初心はどこへやら、成仁は濡れた半身にかぶりついて舌を巻き付けつつ、じゅるじゅると音をたてて蜜を吸い上げました。
純は驚きの余り喉をひくっと震わせて、声にならない悲鳴を上げます。しかし成仁は構わずうっとりと味わい、そして誰も触れたことのない秘密の場所に指を滑らせたのでした。
そこはまだ固く閉じておりましたが、滴る唾液と蜜でぬるぬるに濡れそぼり、指の腹で撫でてやるとひくひくと嬉しそうに蠕動しました。
とはいえ、自分ですら触ったことのない場所への愛撫に純は恐慌をきたし、成仁の頭を押さえて激しく首を振りました。水晶のような涙がぱらぱらとシーツの上に降り注ぎます。
しかし成仁は止めるどころか、そこに指をつぷりとねじ込んで掻き回し始めたのです。まずは１本、そして２本。骨太の逞しい指が、絡み付く内壁を弄びながら根元まで埋め込まれました。
成仁は、口腔にとろとろと流れ込んだ甘露を全て呑み込むと、口を離して身体を起こしました。もちろん、指は埋め込んだまま。
「純……まだ恐いか？」
純は涙の菲膜に覆われた瞳をゆらゆら揺らめかせて、そして小さく頷きました。しかし恐怖の奥で官能の熾火がじわじわ広がり始めているのは、薔薇色に潤み始めた頬や喘ぎの形に綻んだ唇などからも分かります。
指を鉤状に曲げた状態で内壁をこすり上げてやると、純は背中を反らせて悶えました。その艶めかしさ、指をきゅうきゅうに締め付ける肉の蠢きに成仁は自身の限界を覚り、じゅぷっと蜜を弾かせて指を引き抜くと、今にも咆哮を上げそうな雄の象徴を取り出しました。
冴えた外気を貫いてそそり立つそれは、逸る欲望を隠しきれないのかビク、ビク、と揺れております。何と淫らで獣めいた景色でしょう。
「純、力を抜いて、深呼吸するんだ」
成仁の言い付けに従って、純はふぅっと大きく息を吸いました。その時、お尻にこれまで経験したことのない熱を感じて、喉の奥で悲鳴を上げました。
「クッ………純、すまない………少しだけ、こらえてくれ…………」
初めての痛み、初めての異物感、初めての恐怖に絡め取られて、純は瞬きすらせず虚空を凝視するばかり。しかし、
―――ああ、僕の中で……成仁様が…………
お尻の奥に成仁の鼓動を感じて、恐怖は徐々に退いてゆきました。代わってじわじわ湧き上がるのは、ひとつになっているという悦びと、そして疼くような快感。
「純……愛している。今度は俺が、お前の命を救う番だ。死なないでくれ。そしてずっと傍にいてくれ……」
その時、微かにわなないた純の唇から小さな蒼白い珠がひとつ、こぼれ落ちました。
それはシーツの上をころころと転がり、床にぶつかって粉々に砕けてしまいました。すると―――
「……るひとさま、ずっとお傍に…………」
何ということでしょう。純の唇からこの上なく愛らしい声が。そしてその声は紛れもなく、瀕死の成仁が聞いたあの声でした。
「純っ、やはり、やはりお前だったんだな………ああ…………」
「はい……どうしてもあなたにお会いしたくて………ぼく…………っぁ、ぁぁ……ん」
成仁は緩やかに腰を使い始めました。純はもはや、この快楽の虜となりつつありました。腰をくねらせて蕩ける媚態を振りまきます。
「ふぁっ、あっ、あぁん………なるひと…さまぁ…………あっ、あっ………」
「純、もっと、もっとお前の声を聞かせろ……」
「やっ、やあぁ………ヘンなのぅ……お尻が………ああ……あつくて…………」
成仁はニヤリと笑うと、腰をひねって奥を抉りました。すると望み通り、純は「きゃふっ」と嬌声を上げていやいやと首を振りました。
「純、どうだ？ 気持ちいいのか悪いのか、どっちなんだ。正直に言ってみろ」
「あ、ああ………きもち…いい……きもちいいの………なるひとさま……」
「では、もっと欲しいのか、もういらないのかどっちなんだ？」
純は細い脚を成仁の腰に巻き付けて、
「ほしい……もっとほしいの。もっとして…………」
その瞬間、最後の防波堤が崩れ去りました。成仁はいったん身体を起こして純の腰を抱え直すと、勢いよく奥を穿ち始めました。グプッ、グプッ、という生々しい注挿音が、冴えた闇に獣の興趣をまとわせます。
純は余りの激しさに喘ぎも悲鳴も上げられず、ただ華奢な身体を成仁に揺さぶられるまま。しかし―――
「キャアッ、ァッ………ソコいやっ、だめ、だめぇッ…………いやああああーーーーッ」
奥の玉座を攻め抜かれて、純はついに、絶叫と共に初めての射精を経験しました。胸に飛び散った見たこともない白い液体をぼんやり眺めつつ、お尻の奥にたっぷりと注がれた熱を反芻していると、再びずん、ずん、と疼きが灯ります。
「なるひと………さま…………」
抜く間もなく注挿を再開した成仁に少し休ませてくださいと懇願しようとした純でしたが、巧みな突き上げに翻弄されてあっという間に高められ、結局、濡れた唇から甘い催促を繰り返すばかり。
そうして覚えたての快楽に戸惑いつつも溺れゆく純を、成仁はひと晩かけて愛し抜いたのでした。
愛する人の胸は余りに心地よく、純は蕩けそうな意識を叱咤して目を開けました。
「純、もう少し寝てていいんだぞ」
「いいえ、大丈夫です。成仁様のお着物を用意しなければ」
成仁は額をぴん、と小突いて、
「馬鹿だな。お前はもう俺の世話係ではない。俺の大事な伴侶だ。そんなことしなくていい」
純は大きく瞬きすると、真剣な眼差しを注いで、
「でも……あの方が、成仁様に結婚を申し込まれた、と」
成仁は思い切り眉をひそめて、派手な舌打ちを鳴らしました。
「あの女……ふざけたこと言いやがって。誰があんな大嘘吐きの自己中女に結婚を申し込むかよ。
あの女はな、俺が派遣した従者とつるんでやがったんだ。違う家来を派遣して調査に当たらせていたが、俺が浜辺に流れ着いた時、そもそもあの女は旅行に出かけていて国にいなかったんだぜ。証拠を揃えて突きつけてやるつもりだったんだ」
「そう……だったのですか………」
成仁は純の髪を優しく撫で、
「済まなかったな。ショックだったろう。でもこれで全てカタが付いた。あとは、俺とお前が夫婦の契りを交わせば………」
「ぁ……ぁん、も、だめ…………」
何やら布団の中がもぞもぞ動いています。が、確かめるまでもないでしょう。この純の可愛い抗議。淫らな触手と化した成仁の手は、純の股間に伸びて柔らかな半身をくにくにと揉みしだきます。
「そういや、もうひとつ言い伝えを聞いたことがあるな」
先端から溢れ始めた愛液ごとクチュクチュ扱きながら、
「人魚は多淫な種族である―――純、安心しろ。俺が全身全霊をかけて満足させてやるからな」
誇らしげにそう宣言すると、成仁は純の上に覆いかぶさって愉しそうに口許を緩めたのでした。
めでたし、めでたし。
「ねっ？ ぜったいそうだよぉ」
「う、うん、そうだねえ………確かに、ハッピーエンドの方がいいもんね」
「うんっ」
丸い頬をほんのり赤らめて、嬉しそうに頷く雪仁。純は“子供の想像力ってすごいなあ”と感心しつつ、
「雪仁くんのお陰で、人魚姫も幸せになれたんだ。すごいすごい」
褒められたのが嬉しくて、雪仁は純にぎゅっと抱き付いた。純もにこにこ笑いながら抱き返す。そこへ―――
「お前ら…………何やってんだ、ああっ？」
「あ、あきむらさん………」
不機嫌絶好調の尭村がどかどかと割り込んで、二人の熱い抱擁を力づくで引き剥がす。しかし雪仁は足をばたばたさせて抵抗し、
「やだやだッ、はっぴーえんどだもんっ」
「何だとぅ？ ハッピーエンドっつうのはこういうのを言うんだッ」
尭村は純の唇を上から塞ぎ、ねっとりと舌を絡める。
「あーーッ、おにいたんばっかりずるいっ、ぼくもちゅーするっ。はっぴーえんどするのっ」
きゃんきゃん喚く雪仁を無視して、深いキスを堪能する尭村。どさくさに紛れてあんなとこやこんなとこも触ってくる。
もしかして、またあのパターンかも。そう、雪仁の目の前で…………
純は軽い眩暈に襲われた。
―――僕に本当のハッピーエンドは訪れるのかな………
それは作者にも分かりません（汗）
＊しょーもないラストですみません……
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