＜檻＞・２
―――あれが、姉上の慢性ヒステリーの原因か
ラルフレッドは一人部屋に佇んで、一向に収まる気配のない甘い疼きを反芻していた。まさかこの田舎で、こんな昂ぶりを経験することになろうとは、さすがに予想していなかった。
獣の本能そのままに勃ち上がった股間のモノにちらと一瞥をくれる。そしてもう少しの辛抱だぞと宥めながら、図書室での光景を思い出した。
恐らく、勝手に部屋から出歩いてはいけないときつく言われているのだろう、見つかった途端、明らさまな恐怖に顔を歪めて「お許しをっ」と小さく叫び、違う扉から逃げ出てしまった。
「うぅ……」
その時の彼の表情、怯えた眼差しはラルフレッドの性的嗜好を激しく揺さぶり、今思い出しただけで喘ぎが漏れるほどの興奮が湧き上がる。
あの硝子細工のように華奢な身体を組み敷いて、繊弱な心ごとめちゃくちゃに陵辱してやりたい。征服してやりたい。
ラルフレッドはちらと時計を見た。今から街へ出かけて、取り敢えず差し迫った性欲を解放してくるか。この田舎では、自分の性的嗜好を満足させるような場所は望めないだろうが、街角に立っているような女なら多少の無理はきくだろう。
しかし暫し考えてやめた。どんな高い金を払って買った女でも、あの少年を見た瞬間に感じた喜悦と高揚に敵うような快感を与えてはくれないだろう。それに、あの美貌を凌ぐ傾城がいるとも思えない。
今は我慢するのだ。その方が、反動の悦びや快楽も大きいというもの。ラルフレッドはそっと股間に手を伸ばしてにやりと笑った。
―――楽しい田舎暮らしになりそうだ
コン、コン、と扉がノックされて、純は何の迷いもなく開けに行った。自分の部屋のドアをちゃんとノックしてから入室してくれる人は、ここにはリズを含めて数名のメイドしかいない。
礼儀に厳格なはずの執事でさえも、何の挨拶もなく勝手に開けて、さっさと用件だけを告げて無言で出て行く。まるで、こんな所には１秒でも長居したくないと言わんばかりに。
しかし、そこにいたのはリズでもメイドでもなかった。
「あ、あなたは……」
「はじめまして、純。中に入れてもらっていいかな」
みるみるうちに蒼褪めた純は、それでも何とか「どうぞ…」と答えて中へ招き入れた。
「改めて自己紹介させてもらおう。私はラルフレッド・ランカスター。アグネスの弟だ。つまり君の叔父に当たる」
「叔父…様……」
「左様。おや、どうしたのかな？ そんなに震えて」
すがるように自分を見上げてくる純。ラルフレッドの背筋を、甘い電流のようなものが走った。思わず、口許がだらしなく緩む。
「おゆるしを……叔父様、もう二度と………」
勝手に図書室に入っていたことへの罰を与えにきたのだと思った純は、必死に許しを乞うた。しかしラルフレッドは笑って首を振り、
「最初に言っておく。私は君の味方だ。姉上のやり方には納得がいかん。まあ、彼女は昔から冷たい人間だった。自分の思い通りにならないとすぐ癇癪を起こして……。だからそんなに怯えることはない。図書室ぐらい、好きな時に使うといい」
しかし純は強張った表情を緩めようとはせず、信じられないといった風に息を詰めて彼を見上げた。まさか、ランカスター家の人間が自分の味方だなんて、そんなことあるはずがない、と。
そんな純の反応に、ラルフレッドは頷いて理解を示した。
「すぐに信じられないのも無理はない。君とは徐々に打ち解けていければと思っている。私は暫くここに滞在する予定だ。仲良くしよう、純……」
そして右手を差し出す。純は驚いた様子でそれをじっと見つめていたが、やがておそるおそる右手を出して、握手を交わした。
「私は、君のことが大好きだよ……」
その言葉とは裏腹に、叔父の瞳は冷たく鉱物的な輝きを帯びていた。これは紛れもなくランカスター家の眼。しかも握った手はじっとり湿っていて、純はいけないと思いながらも生理的な嫌悪感を抑えることができなかった。
それからラルフレッドは、様々な贈り物を純の許へ届けた。豪華な革装丁の図鑑、ピアノの楽譜、大理石のチェスボード、美しい蝶の標本……。
しかしどれを受け取った時も、喜びより戸惑いの方が勝っているようで、純は頬を引きつらして「ありがとうございます…」と囁くのが精一杯だった。
この贈り物に対する純の反応は、ラルフレッドを大いに悦ばせた。ちょっと餌を与えただけで容易に懐いてくるような獲物では、征服のし甲斐がない。
この臆病で頑なな表皮をばりばりと突き破って力で屈服させる、その瞬間こそが快楽なのだ。彼が次々と贈り物を届けたのは、それを確かめるためだったともいえる。そして紛れもなく、純は極上の獲物だった。
―――そろそろ、俺も限界だ
ラルフレッドは温室の鍵を握って、その時を待った。
月の美しい夜だった。純は一人、部屋の窓から、闇を凛と照らす銀色の月を眺めていた。その時、扉が二度鳴った。
「あ…叔父様……」
扉を開けると、そこにはラルフレッドが立っていた。こんな時間に珍しいなと思いつつも、中に招き入れる。月明かりに照破されたその顔には、どこか焦燥が感じられた。
「どうされたのですか……？」
純の直感を裏付けるように、いつもとは違うせかせかした口調で、
「ちょっと純に頼みたいことがあるんだ。実は、温室で大事なカレッジリングを失くしてしまってね。一緒に探してくれないか？ 他の者に頼もうと思ったのだが、みんな忙しそうでな。それに私は居候の身だから、頼みづらいというのもある」
純に断る理由などなかった。一緒に部屋を出て温室へ向かい、ためらうことなく中へ入った。
「うわ……」
夜の温室は、昼とは全く異なる表情で純を迎えた。ガラス・ドーム越しの月光は微かに蒼みを帯びて、繚乱たる南国の花々に秘めやかな輝きを降らせていた。
艶かしく秘密めいた夜。気のせいか、花々が放つ芳香も昼間よりきつく感じられ、純は思わずほぅ、と息を深く吐いた。
「純は、あの奥の辺りを探してくれ。私はこちらを見てみる」
ラルフレッドに指示された通り、純は奥へ進んだ。そこは、純にとって馴染みの深い場所だった。ゆったりと大きな長椅子が置いてあり、たまにその上でうとうととすることがあったから。
純は屈んで、椅子の周辺などを探し始めた。それから５分も経っていないだろう、人の気配を感じて振り返ると、叔父がすぐ後ろに立って自分を見下ろしていた。
「叔父様……？」
「純……指輪は見つかった………」
感情のこもらない平坦な声でそう言うと、純に立つように促した。純はその様子に不審を感じながらも、「見つかってよかったですね」と答えて部屋へ戻ろうとした。
その時、強く腕を引かれて抱きすくめられた。
「お、叔父様っ」
そして何がなんだか分からないまま、長椅子の上に横たえられる。純はこわごわ顔を上げて叔父の顔を見た。
俯き加減のため、表情は暗くて分からない。しかし微かに肩が震えているのは分かった。一瞬、泣いているのかと思った。指輪が見つかって、そんなに嬉しいのかなと。しかしすぐに自分の間違いに気付いた。彼は笑っているのだ。
「指輪は…見つかった……が、本当に欲しいものはそれではない………」
そしてぬっと両腕を伸ばすと、純のシャツに手をかけてぶちぶちとボタンを飛ばしながら二つに裂いた。
「ひっ……」
余りの出来事に純はただ呆然とするばかりで、裸に剥かれた自分の白い胸をきょとんとした表情で見下ろした。その隙にラルフレッドは腰へ手を伸ばし、ジッパーを下ろして七分丈のズボンを下着ごと素早く脱がせてしまった。
「い、いやああぁぁ」
ようやく拒絶の叫びを絞り出した時には、純が身に着けているのはくるぶしまでの白い靴下だけだった。
純は裸の身体を隠すように背中を丸め、消え入りそうな声で「叔父様、服を返して…」と懇願した。ラルフレッドはその隣に腰を下ろし、震える背中を撫でると、
「返してあげるよ。ちゃんと言うことを聞いたらな。純、こちらを向きなさい」
その声に促されて、純はゆるゆると顔を上げる。羞恥と未知の恐怖に歪んだ表情を目の当たりにして、ラルフレッドの雄はどくどくと尋常でない脈動を始めた。
ごくりと唾液を嚥下してから、優しい声で恐ろしい宣告を下した。
「純よ、お前の母親は我がランカスター家に泥を塗った。そしてその償いもしないまま死んでしまった。今ごろは地獄の底で苦しんでいることだろう」
「あ…ぁ………」
「故に、彼女の血を継ぐお前に償ってもらわねばならぬ。分かるな？」
純に何と答えることができただろう。あの優しかった母が地獄の底で苦しんでいる、それだけでもう、純の小さな胸は苦悶で張り裂けんばかりだった。
しかしラルフレッドは純の返答など初めから期待していなかったのか、返事を聞くまでもなく言葉を続ける。
「よいか。今から、お前の飼い主は私だ。私の命令は絶対。もし抗えばそれだけ、お前の母親が地獄で苦しむことになるのだぞ」
純は半開きの唇から言葉ではない言葉を、悲しみの呻きを漏らす。瞬きを忘れた両の瞳からは、熱く濃い涙。
ラルフレッドは、自分の宣告が純にもたらした衝撃、絶望をうっとりと味わってから、厳しい声で「脚を開け」と命令した。しかし純は何の反応も示さない。まだ呆然と宙空を見据えている。
業を煮やしたラルフレッドは、純の足首を掴むと上へ持ち上げ、大きく開かせた。
「やッ、やだああっ」
腰を浮かせて抵抗しようとする純を冷えた眼差しで突き刺して、
「私の言ったことを聞いていなかったのか。お前の飼い主はこの私。お前に抵抗する権利などない」
純は涙を振り撒いて哀願する。
「お、叔父様、恥ずかしいの……」
その言葉を聞いた途端、ラルフレッドは相好を崩し、
「そうかそうか、恥ずかしいのか。それなら仕方がない」
粘ついた口調で宥めると、上着のポケットから何やら取り出した。暗くてよく見えないが、ジャラジャラという音から金属製のものだということは分かる。
「なら、これを嵌めてあげよう」
それは金属の輪と輪を繋いだ、手錠のような拘束具だった。ラルフレッドはそれをまず純の左足首に嵌め、もう片方を左手首に嵌めた。これで純は、容易に脚を下ろすことができなくなった。
「どうだ、これでもっと恥ずかしくなっただろう」
言葉を失った純に優しく語りかけると、自由な方の右足を押さえつけて秘孔を露わにした。それは頼りない月明かりの下でも、薄いピンク色をしており、鑑賞を拒むように固く閉じられたままだというのが判る。
「色は綺麗だが、まだ可愛げがないな」
楽しそうに呟きながら、ラルフレッドはそこにざらりと舌を這わせた。
「ひぃっ…ぃ……」
自分でさえじかに触れたことのない場所。そこを舐められてると思っただけで、燃えるような羞恥と嫌悪感が込み上げてきて身体中の筋肉が萎縮する。そのせいで、蕾はますます頑なになってしまった。
「当然の反応か。しかしいずれ、私を誘ってくるようになる。それも、近いうちに」
ラルフレッドは嗤いを含んだ声で囁きかけると、身体を起こして純の上にのしかかった。そして蒼白く滑らかな喉に噛み付く。すると仄かな石鹸の香りに混じって、子どもの肌特有の、甘ったるいミルクのような匂いが鼻孔に流れ込んできた。
その文字通り甘い肌を削り取るかのように強く舐め上げてから、胸にぽつりと灯ったあどけない果実にかじり付いた。
小さいながらも弾力のある肉の実を唇で強く挟んでぐりぐりと揉む。最後に強く吸い上げてから口を離すと、真っ赤に充血した艶かしい突起に変化していた。
「お…じさま……やぁぁ………」
純はすでに息も絶え絶えで、荒い呼吸と共に激しく上下する胸の動きに合わせて、膨らんだ乳首がぷるぷると揺れた。まるで、早く食べてと誘うかのように。
ラルフレッドはそれに応えるように歯をかちかちと鳴らしたが、下の方で揺れるもう一つの果実に今度は狙いを定めた。太ももの内側に手をかけてぐっと開き、まだ無毛の艶やかな股間を月明かりに晒す。
そして、ちっちゃくて桃色の皮に包まれたペニスをうっとりと鑑賞してから、顔をうずめてむしゃぶりついた。
「ぅ……ぁぁ……叔父さまぁ……やだぁぁ………」
純は自由な右手でラルフレッドの頭を押し返そうとしたが、それはびくともしない。
この行為の意味など分からないが、これが途轍もなく恥ずかしいことであること、そして受けるべき正当な罰であることは、純の胸にじくじくと刻み込まれていった。
「あぁ……ごめ…なさい……ゆるし…て………」
涙声の切々たる訴えは、ラルフレッドの耳を陶然と酔わせた。舌の動きも、自ずと激しさを増す。唇で強く挟んで上下に扱きながら舌を絡めてやると、びくんびくんと二度腰を跳ね上げた。
口の中の半身はすでにむくむくと膨らんでおり、舌で先端を強めにこすると、控え目ながらも愛液をとろりと溢れさせた。
「お…じさま……も、いや、いやあぁ……」
「嫌か、そうかそうか。もっと嫌がってごらん」
唇を離したラルフレッドは優しく言うと、先刻は固く閉じて接触を拒んだ後孔に、今度は有無を言わせず舌をねじ込んだ。
「ひっ…ぃ…ゃぁ………」
薄い襞の引きつれを舌で味わいながら、入口付近を丹念に犯した。そして舌を引き抜くと、蕾が閉じる前に指を突き入れた。
「いっ、いたい、いたいよぉ………おじさま、いたいのぉ………」
「痛いか？ これならどうだ……？」
指先を曲げて、絡み付く熱い粘膜を内側からこすった。すると涙混じりの悲鳴を上げて、入口の筋肉がきゅ、とすぼまった。
「うん？ まだ痛いのか。それならこうしてやろう」
ラルフレッドは嬉々として指を１本増やした。
純の秘孔に埋め込んでいない方の手を添えて入口を無理やりこじ開け、隙間からねじ込む。そしてさらに締め付けが激しくなった肉壁を力任せにこすり上げると、純は腰を弾ませて、幼さを残しつつも勃ち上がった先端から、生温かい蜜を溢れさせた。
「きゃあぁぁん」と仔犬のような鳴き声を上げたが、今までの痛みと羞恥が吐き出した悲鳴とは明らかに異なる淫らな熱を、僅かではあるが含んでいた。
「そろそろ…行けそうだな」
その冷静な口調とは裏腹にラルフレッドの双眸は血走って、微細な血管が眼球中を乱れ走っていた。
片手でベルトを外して前を寛げると、涎に塗れてぬらぬらと反り返る巨大な陰茎を無造作に取り出す。そしてずちゅっと蜜音を弾かせつつ指を引き抜くと、まだ何も知らない初心で可憐な花びらにあてがってからかうように先端をぐりぐりとこすり付けた。
溢れる粘液のせいで滑りはよく、くすぐったいような快感を覚え始めた純は微かな喘ぎを漏らして腰をくねらせた。しかも、固かった花びらは徐々に充血して紅の蠢きを見せる。
ラルフレッドの呼吸は発情期の獣めいて短く鋭くなり、そしてついに、凶器と変貌した自身を突き刺した。
「ヒッ、ぃぃぃ……ぃっ」
純は、呼吸が止まったのではと思わせるような喘鳴を気管支から絞り出し、恐怖と痛みと驚きで瞳孔が縮んだ双眸で叔父を見つめる。いや、それは叔父ではなかった。それは人としての理性を獣性と情欲に侵された、飢える猛禽だった。
「く…そ……キツすぎる………」
もちろん根元まで入るはずがない。何とかくびれの部分まで押し込んだが、しかし、それだけでも内部の熱さ柔らかさを堪能するに十分だった。
それに、手錠で拘束されつつ犯されている純の恐怖に凍った顔は神々しいほどに美しく、陵辱の悦びを何倍にも膨れ上がらせた。
ラルフレッドは、萎えかけている純のペニスに指を絡めて扱き、先端を押し潰すようにこすった。するとほんの少しだが入口が緩んだ。その瞬間を逃さず、ずいっ、ずいっ、と腰を進める。
彼が何をしようとしているのか漠然とながら覚った純は、声を嗄らして叫んだ。
「いやああぁッ、痛い痛いいたいっ、たすけてっ、おしり痛い、おしりこわれちゃう……」
しかし、純の悲鳴は叔父を余計に昂ぶらせるだけだった。口許をだらしなく緩めると、容赦なく奥を穿つ。その時、純の唇から「ヒィィ……」という悲愴な嗚咽が漏れた。と同時に急に滑りがよくなる。
「はッ、は……裂けたか。そりゃあいい………」
結合部分に血が滲み、ぬちゃぬちゃと音を立てて拡がり始めた。その光景に嗜虐欲を刺激されたラルフレッドは一気に奥まで貫くと、激しい注挿を始めた。
南国の花が放つ、年増娼婦の体臭のような匂いに混じって、仄かな血臭がぷん、と立ちのぼる。
ラルフレッドは興奮に我を忘れて突きまくり、そして「ぐぉ……」という人のものとは思えぬ野卑な唸り声を上げると、血に塗れた粘膜の奥に沸騰寸前の精液を叩き付けた。
「はッ、ははははは………」
そして、疾うに意識を失ってぐったりと弛緩している純の白い肢体にねっとりと視線を這わせながら、昏い狂笑をいつまでもいつまでも垂れ流し続けた。
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