３.
「それじゃ、僕はこれで帰りまーす。佐倉先輩、受験勉強がんばって下さいねっ」
「あ、ああ。ありがとよ」
笑顔全開で手を振る瑞樹に、佐倉も笑顔で返した。とはいえ、口許はかなり引きつっていたが。
「おい西園寺、瑞樹ちゃんずいぶんゴキゲンだけど、なんかあったわけ？」
「さあ。ああいう人間の考えてることは僕には分かりかねますので」
佐倉は「ふーん」と気のない返事をかえすと、意味ありげに会長室を見て、
「それに引きかえ日向の暗いこと。どうしたんだ。投資してた株が暴落したか」
「さあ。ああいう人間の考えてることは僕には分かりかねますので」
お前の考えてることが一番分かんねぇよ、と佐倉は独りごちた。
「あ、秋原くん。あのう、ちょっと頼んでいいかな？」
次は体育だからと、更衣室へ向かおうとした純を呼びとめたのはクラスメートの高木だった。おずおずと、申し訳なさそうにこちらを見ている。
「うん、いいよ。なになに？」
純は大袈裟に頷いて、にっこりと笑ってみせた。高木は気が弱く、中等部の頃からずっといじめられてきたせいで、人に何かを頼むのが下手なのだ。
「あの…次の体育で使う器具が旧校舎に保管してあるから、取りに行ってくれって先生に頼まれたんだけど、あ、あそこってほら、暗いし、何か出るって噂があるから恐くって。……一緒に行ってもらえないかなぁ」
高木は肩を竦めて俯いた。笑われたり断られたりするのを恐れているのだ。
「なあんだ、そんなこと。いいよ、もちろん。遅れるといけないから今すぐ行こう。あ、直にひとこと言っておいた方がいいかな」
「あっ、えと、直くんはもう更衣室に行っちゃったよ。だから」
「そっか。じゃあいいや。行こう」
「……うん」
二人は連れ立って旧校舎へ向かった。
「うわあ、僕こんな方まで来たの初めてだよ」
旧校舎は、広大な敷地内の端にひっそりと建っていた。純はこれじゃ遅刻は確実だなと思ったが、口には出さなかった。隣を歩く高木は、明らかにびくついていたから。
「これが旧校舎かあ……。建築探偵が喜びそうな感じ」
昭和初期に建てられたという木造の旧校舎は、和洋折衷の様式で、今見てもモダンな感じがする。東京都の指定文化財らしいという噂も頷ける。
「こっちだよ」
「うん」
恐がっていた割にはさっさと中へ入っていく高木の後について、純も足も踏み入れた。埃の匂いさえ懐かしく感じられる。今度直を誘って探検してみよう。
ステンドグラスの窓が美しい廊下を進むと、奥に扉が見えた。“視聴覚準備室”と彫られた木のプレートが貼ってある。
「ここなんだけどさ。ごめん、先に入ってもらっていい？」
「あ、うん、いいよ。それじゃあ」
ここがきっと“出る”という噂の場所なんだろうと思い、純は素直に従った。が、中に入った途端いきなり扉を閉められて、慌てて振り返った。
「え？ 高木くん？」
「あ、秋原くん、ごめんっ。許してっ！」
ばたばたと騒々しい足音が遠のくのを、純はぼうっと聞いていた。しかし、
「やっと掴まえた」
背後から声がして初めて、この部屋に他の人間がいることに気付いた。
「ねぇねぇ、覚えてる？ 俺のこと」
声を掛けながら近づいてくる男には見覚えがあった。そう、学食で純を攫おうとして尭村に締め上げられた３年生。名前は確か、桜小路……。
「な、なんですか、あなたたちは」
そう、近づいてきた桜小路の他に、４人の男がいた。計５人。みんな、にやにや笑いながら純を眺めている。品定めするような粘着質の視線に晒されて、純は冷たい不快感に襲われた。
「ほんとに綺麗だよな。見てるだけで勃ってくる。ほら」
桜小路は明らさまに膨らんだ自分の股間を指差して、へらへらと笑った。彼らが何をしようとしているか覚った純は怯えた表情で、
「い、いやぁ……」
桜小路の喉がこくり、と鳴る。
「大丈夫だよ。大人しくしてくれりゃあ酷いことはしねえから。俺はね。他の奴らは知らねーけど」
そう言って純の腕を掴んで引き寄せ、慌ただしく抱きしめた。
「はぁっ、……すげえいい匂い……」
純は身体では抵抗せず、声を甘く撓めて「やめて…」と囁いた。その声に一瞬でへろへろになった桜小路は、抱きしめる力を弱めて代わりに腰や尻を撫でさすった。
その瞬間をすかさず捉えて、純は膝で思いっ切り股間を蹴り上げた。
「ぅぐぅっ………」
うめきつつその場にうずくまった男に「ふざけるな」と短い罵声を浴びせ、そのまま扉に手を掛けて開けようとした。予想外の反撃に、他の男たちはぽかんと口を開けて突っ立っていることしかできず、純はやすやすと外に出た。が、
「なかなかやるな。でも、残念」
そこには長身の男が一人、立っていた。あっという間に身体を抱えられて、あっけなく部屋に戻される。
「油断すんじゃねえよ。こいつだって男なんだぜ。ま、だからこそヤリ甲斐があるってな」
「すみません、京極さん」
京極（きょうごく）と呼ばれた男を、純は初めて見た。切れ長で色素の薄い眼、能面のような表情に乏しい顔は、酷薄な印象を与える。とはいえ、文句なく美形の部類に入るだろう。
尭村と同種の物騒な美しさを備えてはいたが、尭村の持つ結晶のような透明感はない。瞳もまとっている空気も腐爛したように濁っている。あえて形容詞をつけるとしたら、自堕落なニヒリスト。
純は直感的にこの人はやばい、と思った。
「情けねえな、桜小路よ。ヤる前から使い物にならなくなったって？」
「……ぅるせえ………」
「ほら立てよ。ってソッチじゃねえぞ。立って手伝え。お前らも」
それを合図に、カメラを持った二人以外が純に飛び掛って、身体を床に倒した。
「いった……はっ、はなせ、はなせぇ！」
さっきの純の反撃を見たせいで、男たちは手加減することなく力いっぱい床に押し付けた。
「あれえ？ さっきみたいに可愛らしくいや…、とか言ってくれねえの？」
京極は笑いながら、上着のポケットから手錠を取り出して純の両手にはめた。カチャリ、という冷たい金属音に淫らな妄想を刺激された男たちは、皆一様ににだらしなく口許を緩めた。
「やだぁっ…やめろよおっ………ぁあっ」
復活した桜小路がのしかかって抵抗を押さえ、その隙に京極がズボンのベルトを外した。そして下着ごと一気に下ろしてあっという間に脱がせてしまった。
「やっ、やだぁ……。はなしてぇ………」
純の下半身は、片足に脱げかかった靴下が引っかかっているだけで、あとは全て晒け出された。
「す、すっげぇ……真っ白だ」
白鳥の頸のように白くしなやかな脚が、男たちの眼に灼きついた。最後の抵抗とばかりに膝をぴったり合わせているにもかかわらず、いやだからこそ、この脚に噛み付いて陵辱したいという欲望に突き上げられない者はいなかった。
ここまで比較的冷静に行動してきた京極でさえ、切羽詰ったような表情で呼吸を荒くしている。
「おい…新聞部。でれでれ眺めてねえでちゃんと仕事しろよ」
「わ、わかってますよ」
一人はパシャパシャとシャッターを切り、もう一人はカメラを回し始めた。
「さあて、まずはココを開いてもらわねぇとな」
言うが早いか、京極は純の膝に手を掛けた。
「いっ、いやいやいやぁ………」
抵抗するため膝に力を入れ、腰をひねった。途端に男たちは喉を鳴らし、
「おい、これじゃまるで誘ってるみたいだぜ。身体くねらせて。めちゃくちゃ色っぽい」
京極は暫し純の嬌態に見惚れた後、容赦なく膝を開いた。そして自分の脚で押さえると、股間にそっと手を伸ばしてペニスを掴み、ゆるゆると扱き始めた。
「っ……あっ、や、やめっ」
「すげぇ……見ろよ、先っぽなんてピンク色してるぜ。おんなじ男とは思えねえな」
言いながら京極は、桜小路とその隣にいる永沼という２年生をちらと見た。二人ともすでに自分のモノを取り出して自分で扱き始めていたのだ。二人の黒ずんだグロテスクなモノとは比べものにならない、ということだろう。
京極は片手で純を弄びながら、空いた手で器用にベルトを外してジッパーを下ろし、自分のペニスを取り出した。それはほとんど垂直に勃ちあがっていた。
「安心しろよ。まだ挿れねぇから」
そして自分のモノと純のモノをまとめて手で包むと、こすり合わせるように腰を揺らしながら一緒に扱き始めた。
「くっ、ふぅん………はぁっ、あ……」
絶対に声を出すまいと決めたのに、絶対に泣くまいと決めたのに、その決意は簡単に破られてしまった。しかも、ペニスまでもが意志に反して勃ち上がり始めている。
すぐ近くでうっという低い呻き声が聞こえ、と同時に生温かい飛沫が耳の辺りにかかった。それが何なのか、確かめる気すら起こらない。
「おい永沼、あれ貸せ、はやくっ」
京極が叫んだ。とろんとした眼で純の嬌態を眺めていた永沼は、赤紫色の怪しげな瓶を慌てて差し出した。中身をじかに純の身体の上に垂らして指を滑らせると、抱えていた膝をさらに高く持ち上げて大きく広げ、秘部を露わにした。
「すげ……ここもピンク色だ………」
「やっ、やめっ…ぅっく」
突然、桜小路が唇に吸い付いてきた。それとほぼ同時に京極の指が潤滑油を伴って襞を掻き分け、秘部に侵入する。塞がれた唇の端から唾液と湿った喘ぎ声がこぼれる。
「くぅん……んっ」
京極は挿入した２本の指をバラバラに動かして、内部の粘膜を容赦なく刺激する。ぬちゅ、ぬちゅという淫猥な音と共に秘口の襞がひくひくと蠢いた。
「はぁっ、あんっ………あぁ………」
「……気持ちよくなってきただろ？………なぁ」
涙と唾液に濡れた顔を薔薇色に染めて、それでもいやいやと首を振るその姿態はあまりに艶かしい。カメラを抱えた男は、二度目の射精で放心状態の永沼を突き飛ばして近寄り、至近距離で何度もシャッターを押した。
「お前ら、ちょっと脚押さえてろ」
京極の命令に従って、永沼ともう一人柴田という男が、純の脚を持ち上げた。京極は身体をずらして股間に顔を近づけ、そのまま純のペニスを口に咥えた。
舌を絡めたり強く吸ったりしながら、挿れたままの指をさらに激しくぐりぐりと回し動かして内部の粘膜を引っ掻く。
「やぁっ、あぁん、やめてぇ………はぁっ…あん」
「やめて、じゃなくてもっと、だろ？」
桜小路がにやにや笑いながら、シャツの上から手を滑りこませてきた。そして固く尖った乳首を指先でぎゅっとつまんだり転がしたりしたが、もどかしくなってきたのか、シャツを力任せに引き裂いて胸を露わにし、紅く熟れた乳首に吸い付いた。
三箇所から与えられる刺激に耐え切れず、純はとうとう京極の口の中に放った。
「あっ、ふうううぅん……………ううっ」
京極はわざとのどを鳴らして飲み干すと、
「最初だからけっこう濃いな。でもいい味だ」
「おい、京極、そろそろ……。俺たちもいいかげん限界だ」
「そうだな、それじゃあ」
京極は淫笑を浮かべると、指を３本に増やしてさらに深く、勢いよく突き入れた。
「きゃああああっ、やあぁっん」
ずちゅっ、ずちゅっとさらに卑猥さを増した音が純の秘部から漏れる。
「とろとろじゃねぇか。指に絡みついて離れねえよ。ここに挿れたら……」
男たちは皆、自分の股間に手を伸ばした。
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