ハルとナツの奏鳴曲
―Sonata for HARU and NATSU―
１３.
紳士的な振る舞いは、春留の身体をベッドに横たえるまでだった。ひんやりしたシーツの感触に小さく身じろぎした瞬間、何の予告もなく春留は押さえ付けられ、身に付けている全てのものを剥ぎ取られた。
温室で一度交わっているとはいえ、照明をつけっぱなしの部屋は皓々と明るく、ここで生まれたままの姿を晒すのはさすがに恥ずかしい。
春留は思わず毛布を引き寄せようと手を伸ばしたが、素早く掴まれシーツに縫いつけられた。
「那津……待っ…………ん、んぅ……ぅぅ…………」
弱々しい抵抗は、荒い口付けで呆気なく封じられた。さらに那津は股間に手を伸ばし、まだ柔らかい春留の性器を熱い手のひらで包み込んだ。
「んッ、んんーーッ………んぅ、ぅぅっ…………」
春留はひくひくと腰を浮かせたが、抵抗しようとしているのかねだっているのか、自分でも分からなくなっていた。確かなのは、那津の手の中のものはとくとくと鼓動を早め、形を変えつつあるということだ。
那津は舌で口腔を掻き回しながら、指の腹で春留の先端にある小さな孔をプチュ、と押し潰した。途端に春留はぴちぴちと腰を跳ね上げ、生温かい蜜状のものを溢れさせた。
「ふぁっ……ぁ、はぁぁ…………」
ようやく激しいキスから解放された春留は、胸を波打たせて深く息をつく。窒息するかと思ったぞッ、と睨み付けてやろうと思ったが、それはできなかった。突然の未知なる刺激に襲われて、意図せず甘い喘ぎがこぼれてしまう。
「んあ………あぁん……んっ…………」
その正体を確かめようと視線を落とすと、ペニスを深く咥えている那津の姿が目に入った。咥えているだけでなく、時折じゅっじゅっと音をたてて吸い上げる。
そのたびに皮膚の上をぴりぴり痛痒い微電流が走り、底無しの奈落へ引き込まれるような錯覚に震えてしまう。
「那津っ……やっ、やめっ………ぁ、ぁぁっ……ん………」
涙混じりの訴えが聞こえているのかいないのか、那津の舌使いはますます激しく、容赦なく春留を揺さぶった。
「那津ッ、出るぅ、出るからぁ………ゃぁぁ………ぁ、ぁ、ぁ…………」
春留はしがみ付いたシーツに喘ぎを染み込ませつつ、那津の口内に呆気なく放った。もちろん那津は全て受け止め、喉の奥にまで届く熱い迸りを恍惚としながら飲み干した。
「はぁ……ぁ………那津ぅ…………てめえ〜〜〜なんであんなことをッ」
「あなたのが味わいたかったからです」
言い返す言葉もなく絶句する春留に微笑みかけ、「ごちそうさまでした」と手を合わせる。が、すぐに春留の脚を持ち上げて、
「次はここをいただきます」
脚の付け根、すでに濃厚な愛液でぐちょぐちょに濡れている秘部に指を這わせた。そして春留の返事も待たず、ぬぷぬぷと指を埋め込んでゆく。射精したばかりで敏感なソコは、侵入する異物に嬉々として絡み付いた。
「先輩……凄いです。指が抜けません」
「んっ……知るかっ。ていうかおまえ………豹変しすぎだぞ！」
「すみません。実は猫被ってました」
しゃあしゃあと答えて、指をさらに増やす。３本の指を呑み込んだ春留の秘孔は、蕩けるように綻んでクチャクチャと鳴いた。
那津は慈しむように目を細めて、
「あなたのココ……とても可愛いです。温室では暗くて見えなかったけど、今ならよく分かる。ほんのりピンクで、柔らかく蕩けて……」
指を挿れたままぐりぐり回すと、春留は甘えた嬌声を上げてお尻を震わせた。そして涙の菲膜に覆われた熱い瞳でキッと睨み、
「はやく脱げよッ。見てるだけでつらいんだよ！」
春留の指摘通り、那津の股間はパジャマのズボンを押し上げてテントを張ったような状態に。逸る情欲を抑え切れないのか、時折ビクビク動くのが布越しに分かる。
那津は「バレてましたか」と些か暢気なことを言って、下着ごとするすると脱いだ。さらに上も脱ぎ捨てて、再び春留の上に覆いかぶさる。
意識せずともソコに目がいってしまい、春留は思わず顔を赤らめて叫んだ。
「何だよその、無駄にデカいモノはっ」
「う〜ん、褒められてるのか貶されてるのか……。褒められてることにしときましょう」
那津は照れ臭そうにそう言って、春留の脚を抱え上げた。そしてとろとろに熟れた秘部に張り詰めた先端を宛がった。
ふっと息を吐き、襞を掻き分けるようにしてじゅぷじゅぷと押し込んでゆく。さっきまで威勢のいい言葉を吐き出していた春留の口は途端に喘ぎの形に綻び、「はぅ…ン」と甘い吐息をこぼした。
しかし那津は途中で止めると、焦らすように浅い所で抜き差しを始めた。大きく張り出したカリの部分を入口に引っかけてグリ、とこするたびに、奥を穿たれたのとはまた異質のむず痒い快感が湧き上がって、春留はシーツに爪立てて切なく悶えた。
「やッ………ぁ…ん……那津、那津ぅ………もっと……奥ぅ…………」
「まだ……もう少し、あなたの淫らな姿を観賞したい………」
根元まで突き刺したらきっと、あっという間に暴発するだろうと分かっていた。今、こうして先端を含ませているだけで、腹の底が沸騰するような快楽が湧き上がるのだ。
那津は脚を肩に乗せて腰を小刻みに揺らしながら、春留の胸に手を伸ばした。とろとろとひっきりなしに溢れる愛液に浸した指で、ぷっくりと盛り上がった乳頭を撫でる。
さらに乳輪ごと挟み込んで少し強めに揉むと、春留は「きゃふっ」と鳴いて腰を跳ね上げた。那津は目を細めてその姿態を賞翫しつつ、胸を撫で回して滑らかな感触を手のひらに刻み込む。
「んんっ………んふぅ……ん…………」
那津の手のひらは微かに湿って、熱かった。惣領に触られた時は吐き気がしたのに、何で那津の愛撫はこんなに気持ちがいいのだろう―――疾うに答えの出ている問いをくゆらせつつ、春留は那津が与えるあらゆる快楽に酔い痴れた。
「あ………ン、きもち…いい…………」
「素直な春留……いい子ですね………」
那津は愛しさを込めて囁きながら、徐々に腰を深く沈めていった。
「ああッ、あ……イイ……もっと深くぅ…………」
放置されたままの奥の柔肉が、熱い楔による陵辱を求めてくにゅくにゅ蠢いている。疼きはますます激しさを増し、春留はたまらず腰を振って那津のモノを奥へ呼び込もうとした。
「そんなに……欲しいですか？」
「んッ……欲し、ほし…い………」
那津はちらと唇を舐め、暴発しないよう腹の底に力を入れた。そして春留の脚を抱え直し、勢いつけて一気に貫いた。
「んああッ、あああっ、ああっ、あっ、ん………」
微かに白濁した先走りをとぷとぷと垂れ流し、シーツにしがみ付いて嬌声を上げる春留を、那津は飢えた眼差しで射抜いた。腰を激しく上下させ、ぐちゃぐちゃと淫らな音をたてて奥を掘り進めてゆく。
「先…輩っ……中に出していいですか……？」
那津の切羽詰った問いに何度も頷き、
「いい…からっ………いっぱい……出せよッ………」
その瞬間、春留の視界がハレーションを起こした。奥の敏感な膨らみを攻められたのだ。掠れた悲鳴と生理的な涙を振りまいて、びゅっびゅっと熱い飛沫を吹き上げる。
「ぅぁっ…………」
きゅぅっと収縮する媚肉に灼けるような快感を刻まれ、那津も思わず腰の動きを止める。と同時に先端が弾け、春留の中に沸騰寸前の精を吐き出した。
「ぅっ……ぅぅ…………」
股間をぎゅっと押し付けて最後の一滴まで搾り出すと、収まりきらなかった精液が結合部の隙間からじゅわりと溢れ出てきた。それは春留の柔らかな茂みに降りかかり、下腹を伝って小さな池を作った。
「おまえ……どんだけ出んだよ………」
「はは……そうですね。すみません……」
春留は「謝るな」と怒ったように言いつつも、両手を伸ばし甘えた仕草で抱擁をねだった。
那津は抱えていた脚をそっと下ろし、春留の背中に腕を回して抱き起こした。そして股間はしっかり繋がったまま、自分の上に座らせた。
「ぅっ………ン……ふぅ…ん…………」
溢れるほど放出したとは思えぬほど、那津の一物は変わらぬ硬度を保って春留の尻を串刺しにしていた。
角度が変わったせいで先刻とは異なる場所をこすられ、春留は喉を反らして喘ぎつつ、那津の上でびくんびくんと二度跳ねた。
「先輩……俺に、掴まって………」
「ん……」
那津の言葉にふわふわと頷いて、少し恥ずかしそうに身体を寄せる。肩に掴まって胸と胸を密着させると、那津の手が腰に巻き付けられぐいと引き寄せられた。
すると半勃ちの状態でゆらゆらしていたペニスが那津の硬い腹に挟まれ、グリッと揉まれる。
春留は思わず「んぁッ」と切ない声を上げ、自ら押し付けてぬるぬるとこすり付けた。那津はごくりと喉を鳴らし、
「そんなことしてっ………どうなっても知りませんよ………」
その言葉を裏付けるように、春留の中に収まったままの雄がぐんと質量を増した。脈動も一層激しくなり、蜜壷全体に雄々しいリズムを刻み込む。
「おまえっ……またデカくなりやがって………」
春留の悪態に「あなたのせいです」と正論を返し、何を思ったか春留の手を掴んだ。そしてそのまま背面へ導き、春留の指を伸ばして結合部へ。
「な、那津……何を―――」
「触ってみてください。あなたと俺がひとつになっているということが、また違った意味で実感できます」
春留は半信半疑でそっと触れてみる。指先に、灼けつくような熱が伝わった。
「すげ……熱い。これって………」
「はい。俺のアレです。そしてこれが―――」
春留の指を僅かに動かして、別の部分を触らせる。
「これがあなたの花びら。どうです？ 俺のモノをすっぽり呑み込んで、しかもいやらしくヒクついているでしょう？」
耳許で囁きつつ、春留の指を広がった秘孔に添わせてこすり付ける。
「やッ………やだ………ぁぁ…ん…………」
片手で那津の肩にしがみ付き、いやいやと首を振りながらも濡れた結合部を探るのを止めない。那津はいったん手を離し、両手で春留の尻たぶをぐいと左右に割り開いた。
「ほら、弄りやすくなったでしょう？ もっともっと強くこすって、中に指をめり込ませてもいいんですよ」
「ぁッ……ぁぁ………ン………イイ…………」
春留は自ら腰を上下に揺らして緩やかな注挿を始め、そうしながらも充血して腫れ上がった襞にぬるぬると指を這わせた。
その淫らこの上ない光景が春留の背中越しに見え、那津は眩暈にも似た感覚に襲われる。
「春留……俺に掴まって。もっと気持ちよくしてあげるから………」
春留は言われた通り結合部を弄っていた手を離し、那津の逞しい首に抱き付いた。
「ん、いい子……」
那津は耳許で囁くと、柔らかく張りのある双丘をがっしり掴んで上下へ揺らし、股間へ打ちつけ始めた。そうしながらも、自ら腰を突き上げてさらに交合を深く濃密なものにする。
じゅぷっ、じゅぷっ、と音をたてて、さっき注がれた種たちが飛沫を上げて圧し出された。
「ああーーーッ、那津、那津ぅっ………」
那津の先端が最奥部に届くたびに、春留の視界に細かな星々が飛び散る。
「春留、春留ッ………愛してる………あなたは……俺のものだ………」
いつも穏やかで飄々としている那津には不似合いな、昏い所有欲を秘めた宣告。もしかしたら、こちらの那津が本来の那津なのかもしれない。
「ぅっ……ぅぁっ、ぁっ………イ…クぅ……イクぅぅ…………」
春留が今日四度目の白濁を吹き上げるとほぼ同時に、お尻の奥に灼熱の迸りを感じた。下腹部にじわじわ浸透する熱気を追いながら、春留はゆるりと目を閉じて無意識の柔らかな闇に沈み込んでいった。
完全に落ちる寸前、倒れそうになる身体を那津の腕が支えてくれたのが分かった。
―――そう…か……もうこの腕に頼っていいんだ。委ねていいんだ……
春留の目尻に、快楽に由来するものとは異なる温かな涙が滲んで、きらりと瞬いた。
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