Real Gift

５.

「全部……入ったよ。合計四本だ」

速水はそう言って、その存在を知らしめるかのように指をくねらせた。すると指を包む熱い粘膜がざわざわと波打って、きゅっきゅっとリズミカルに締め付けてくる。それだけでもう、速水の呼吸は荒く乱れてしまう。

「すごいな……まさに花。蜜をたっぷり湛えた、南国の甘い花だ……」

両手の中指と人差し指をとっぷりと埋め込んで、入口を広げるようにしてほぐしてゆく。指を動かすたびにぬぷぬぷと重くこもった淫音が聞こえて、速水は思わず頭を振った。鼓膜にまとわりつく甘美な響きに融かされてしまいそうで。

十分に蕩けたと判断した速水は、指を引き抜いて麻生の膝を抱え上げた。そのまま膝が胸に付くほど折り曲げて、腰を浮き上がらせる。

「挿れるよ。いいね？」
「ん……きて………」

何の衒いもないごく自然な応えすら、麻生の唇からこぼれると艶めく誘惑の言葉に聞こえてしまう。速水は欲望に急かされ逸る身体を僅かな理性で宥めつつ、ずしりと重い股間の逸物を麻生の下唇に宛てがった。

「んぅっ………」

濡れた粘膜と粘膜が触れ合っただけなのに、麻生の身体は敏感に反応した。秘部に押し付けられた速水の先端。薄い皮膚越しに、限界まで溜め込まれた陵辱の意志を感じる。

この時初めて、麻生は敗北の予感を覚った。もしかしたら、狂わされてしまうかもしれない。この紳士の顔を持つ、優しい陵辱者に。

「ゃ……ぁ、ぁぁ………」

焦らそうというつもりなのか麻生の身体を思い遣ってなのか、速水はゆっくり腰を進めてゆく。しかし、それがどれほど辛く忍耐を要する行為なのかは、獣めいた荒い呼吸だけで分かった。

とはいえ、麻生にもそんな彼を思い遣る余裕などなかった。これまで数え切れないほどの男を受け入れ、目眩く快楽を与えてきた蜜花が、みしみしと裂かれて犯されてゆく。

侵入してきた異物の余りの大きさ、熱さに恐れ戦きつつも、次第にそれを快楽として認識し始めていた。

「ぁ、ぁ………ん……すご…ぉい……はやみ…さぁん………」
「晶っ……そんな…声で鳴かないでくれ………おかしくなりそうだ………」

腰を止めて弱々しい声で抗議する速水に、麻生は精一杯の作り笑いを見せて、

「んふっ……ね、もうぜんぶ入った……？」
「いや、まだだ。あと三分の一くらいかな……」
「う…そ……」

今度は麻生が弱々しい声を上げる番。しかし、もっと深い所を突かれるんだと思った途端、お尻の奥で熱いものがじゅわじゅわと疼き出したのも事実。

上から覗き込んで「大丈夫かい？」と訊ねる速水に、麻生は強がり半分、本音半分で「もっとちょうだい」とねだった。すると、

「分かった」

答えるや否や、速水はこれまでの慎重さをかなぐり捨てて勢いよく腰を進めた。ズブッと重くこもった音がして、二つの身体は最も深い部分で繋がり合った。

「ひ…ぃッ……」

麻生は痛ましい悲鳴を上げて、脚をびくん、びくんと二度蹴り上げた。まるで、月明かりの海で戯れるかのように。

「これ…で……全部入ったよ、晶………」
「ぁぁ……すご…ぃ……奥ま…で………」

まるで、お尻の奥にもうひとつ心臓があるみたいだった。どくんどくんと猛く脈打つものが愛しくて、その律動に合わせて後ろを締め付けてみせる。すると上から「うっ…」と悩ましげな呻きが振ってきた。

「晶……この状態でそれは残酷だ」
「何のこと？　僕知らないもん」
「全く、君って人は………」

速水は些か情けない声で呟くと、麻生の脚を抱え直した。そして口許に不敵な笑みを浮かべ、いつもの深い光沢を帯びた低音で、

「でも、もう容赦しないよ」

望むところだよ―――そう言おうとした麻生だったが、唇から出てきたのは爛れた母音だった。速水の宣告はハッタリではなかった。いきなり激しく打ち込まれ、麻生の四肢を淫らな電流が駆け巡る。

「んぁっ、ぁぁっ、ぁっ、ぁぁっ」

激しいとはいえ、無闇にガツガツ出し入れするようなことはしない。寧ろゆったりしたストロークで、確実にポイントを攻めてくる。

時折腰をグラインドさせると、速水の楔にぺったり絡み付いた粘膜がぐにゃぐにゃとねじれて掻き乱される。すると奥を攻められた時とはまた異質の快感が沸き上がって、麻生は声にならない悲鳴を上げた。

「晶、泣いてごらん。我慢しないで。ほら」

優しい口調の奥に嗜虐の熱を潜ませて囁く速水に、麻生は首を振って応える。すると速水はズンと腰を落として根元ぎりぎりまで埋め込んでから、腰を小刻みに揺らして奥を掻き回した。そうしながら、ぴちぴちに勃ち上がった麻生の性器に指を絡めて上下に扱く。

「やッ、ヤダ………それ、やだぁ…………」

シーツに爪を立ててしがみつき、掠れた声で訴える姿は処女めく風情で速水をさらに煽り、風前の灯火だった理性は呆気なく消え去った。

「強情な子だっ………」

速水は苛立たしげに呟いて、麻生の脚を高く持ち上げた。そして真上からほぼ垂直に灼けた楔を打ち込んでは引きずり出す。麻生はシーツを掴んだまま激しく首を振り、

「だめぇっ…………もぉ……がまんできないよぉっ………」
「晶っ」
「きもちいい………ぁぁ……はやみさぁん……もっと、もっとしてぇ………」

ついに涙を振りまいて求め悶える麻生を、速水は狂喜のうちに犯した。何かに突き動かされるように抽挿に没頭し、ふと我に返ると麻生の奥に射精していた。

「ぅっ……ぅ………」

自らの放出する勢いに翻弄されるかのように、腰ががくがくと揺れてしまう。それでも何とか全て出し切って、深い深い溜息をついた。

「晶……ああ、君もこんなにたくさん………」

麻生の胸に飛び散った白い飛沫を指ですくって愛おしげに眺め、そこに唇を押し付ける。そして麻生に由来するほろ苦さを味わった。

「はや…みさん……おなか、重ぉい………」
「あ、ああ……すまない………」

速水は腰を上へ浮かせて、挿れたままの自身をズルズルと引き抜いた。全て抜いた瞬間ぐぷっと音がして、白く濁った液体が小さな気泡を孕んで流れ出てきた。

速水はその淫らな排泄に我を忘れて見入る。しかし麻生の脚を持ち上げたままだったことに気付いて、そっと下ろしてやった。

「速水さぁん……きもち……よかった………」
「泣いてしまうほど？」
「……泣いてないもん」

甘えた声で否定してぷいっと横を向く麻生の顔に、速水はそっと手を伸ばした。そして目尻を拭って微かに光る指先を翳し、

「これは何かな？」
「知らないっ」

傍から見れば甘い睦言の延長だが、ともかく麻生は意地を張って泣いたことを否定する。すると速水は肩を竦め、意外にも麻生の言い分を受け入れた。

「分かったよ。まだまだ足りなかったということだね」

そして麻生の身体を軽々と持ち上げてひっくり返し、膝を立たせた。

「速水……さん？」

あっという間に四つん這いにさせられた麻生は、シーツに顔を押し付けたままぱちぱちと瞬きした。が、次の瞬間、スプリングが波打つとほぼ同時に熱い衝撃が下半身を襲った。

「ぁぁーーーッ」

散々蕩かされ、しかも絶頂を迎えたばかりで余韻に微睡んでいた秘孔を、速水の衰えを知らぬ陰物が再び犯す。

「ぃゃぁ………も、ゆる…してぇ………」

行き過ぎた快楽に怯え懇願する声は、無情にもシーツの襞に吸い込まれてゆく。その後も速水は欲望の触手を緩めることなく、愛しい生餌を容赦なく貪った。

ふと気付けば麻生は声を嗄らして喘ぎ、悦びの涙を振りまいて速水に全てを捧げていたのだった。




こうして、言い訳や誤魔化しができないほど豪快な敗北を喫してしまった麻生は、“仕方なく”速水の申し出を受け入れることにした。

それにしても、まさかここまで溺れてしまうとは思っていなかった。速水のことは嫌いではなかったし、どうせバイトを辞めるまでの期間限定なのだから、帰りに送ってもらう程度の付き合いなら受け入れてみようかなと思い始めていた。

そんな心境の変化から、速水の優しさに対する恐れはまだあったものの、途中でちらっと涙を見せてあげてもいいかなと思っていた。

その程度の演技はお手のものだし、これまでだって大して感じていないのに気持ちいい振りをしたことは何度もあったから。

しかし速水との交わりから生じる快楽は、そんな計算など吹き飛ばしてしまうほど凄まじく、麻薬的な陶酔そのものだった。

初めての夜、麻生は体位を変えて幾度も犯された。そのたびに我を忘れて泣き叫び、自ら腰を跳ね上げては、はしたないほど貪欲にねだったのだった。




そして約束通り、速水はバイトを終えた麻生を家まで送った。もちろん店から真直ぐ帰るはずもなく、速水は当然のように麻生の身体を求めた。そして麻生も積極的に応じ、濃厚な交わりに我を忘れてのめり込み、気が付けば夜が明けていたこともあった。

速水が仕事先から愛車で迎えに来ることもあり、夜道をドライブ中人気のない空き地で車を留め、車中での性戯にのめり込んだこともあった。

速水が所有する高級車、その皮張りのシートには麻生の喘ぎと悲鳴と精液がたっぷり染み付いて、車を降りた後でも濃厚な存在証明を残した。

速水は笑いながら、あと少し若かったらこれだけで抜けるなと言って、麻生の不興を買ったりもした。

普段は節度と常識を弁えた紳士なのに、ベッドの上では慢性的な飢えに苛まれた獣の如き荒々しさを見せる。

しかし麻生は、どちらが本当の速水なのだろうなどと悩むことはなかった。答えは分かりきっている。どちらも速水であり、このギャップ、目眩く落差が彼の魅力であることは間違いないのだから。

紳士であると同時に陵辱者であり、自信に溢れた実業家であると同時に繊細な感性を持つ青年である彼、速水竜司に、麻生は徐々に惹かれ始めていた。

とはいえ、店の中では今まで通り客とギャルソンの関係で通した。

速水は「麻生君」と呼び、麻生は「速水様」と呼ぶ。そして仕事が終わる時間を書いたメモをボトルの下に敷き、何食わぬ顔で速水のもとへ運ぶ。速水も「ありがとう」と穏やかに応じて、メモに書かれた時間を頭に留めるのだ。

たったこれだけの素っ気ないやり取りだったが、二人だけの秘密を共有しているという甘い連帯感、共犯者の心理に微かな高ぶりを覚えてしまうのも事実だった。

ある夜、速水が約束の時間からかなり遅れて店に現れたことがあった。少しむくれた麻生だったが、もちろんそういった感情を面てには出さず、表面的にはいつも通り応対して時間を書いたメモも渡した。

しかしそれからはいつものように速水と視線を合わせることはせず、わざと他の客に親切にしたり笑いかけたり、さらに速水の注文を後回しにしたりした。

すると速水は麻生の方を見向きもせず、黙って席を立った。さすがに不安になった麻生は、フロアを出て速水を探した。

クロークに預けたコートはなくなっていないから、店を出てはいないはず。そう思って客専用の豪奢なトイレを覗いた瞬間、凄い力で腕を引かれて個室に引きずり込まれた。

驚いて悲鳴を上げようとした口は、大きな手で塞がれた。

「静かに。誰もいないが大声を出したら外に聞こえる」

声の主は他ならぬ速水だった。麻生が小さく頷いて了承を伝えると、口を塞ぐ手は離れた。がすぐに身体を拘束され、壁に向かい合わせに押し付けられた。

「ゃっ………速水さん、なにするのっ………」
「僕以外の男に愛想を振りまく淫乱な子には、お仕置きが必要だ」

速水は普段の彼からは考えられない昏く淀んだ声でそう言って、麻生の前を素早く寛げた。そして下着の奥に躊躇なく手を突っ込む。麻生はいやいやと腰を振って、

「悪いのは速水さんだろっ。全然来ないから、何かあったのかと心配し…………ぁッ、ん………」

勇ましい抗議は濡れた喘ぎで遮られた。速水が手の中のモノをぎゅっと握り込むと、微かな浮遊感と共に甘痒い疼きが這い上がって麻生を酔わせた。

「仕事……だったんだよ。仕方ないだろう？」

だだっ子を窘めるように囁いて、さらに手を動かして揉みしだく。麻生は腰を悩ましげに揺らしつつも、

「分かっ…てる、そんなのっ……。でも…くやしかったんだもんっ……僕ばっかり……一方的に想ってるみたいでっ………だから………ちょっといじわるしてやろうと思っ……」

最後は消え入りそうな声で、それでも本心を隠さず伝えた麻生に、速水はこの上ない愛情を覚えてきつく抱き締めた。そして赤く染まった耳に唇を寄せ、

「バカな子だ……。誰が一方的に想ってるって？　僕の心の何割が、君で占められていると思っているんだ」
「しらない、しらなぁい……はやみさんのばかぁ………」

すでに速水の逸物は取り出され、先走り滴る臨戦体勢になっていた。濡らした指先は麻生の中に埋め込まれ、速水の感覚に馴染んで久しいぬめりや蠢きを味わっている。

「こういう分からず屋は、身体に教え込むしかないな」

速水は厳粛な声を演出して、重々しく言い置いた。そして指で蕩かした麻生の蜜花に、自身の張り詰めた先端を含ませる。

麻生は声を出すまいと唇を噛み締めて耐えたが、極太の熱い棒に尻を裂かれる感覚に早々に白旗を挙げた。

「だ…めっ……声、出ちゃ…う………」

速水は素早くネクタイを外して麻生の口に咬ませ、頭の後ろで結んだ。そして先端のほんの僅かだけめり込んだ陰茎を、容赦なくずぶずぶ沈めてゆく。

「んんーーッ、んっ、んぅ………」

鼻から抜ける喘ぎで貫かれた衝撃を伝え、がくがくと下肢を震わせる。根元まで埋め込んだ速水は、繋がったまま身体を倒して麻生の目尻に唇を付け、溢れる涙を吸い取った。

「もう、他の男に綺麗な笑顔を見せるんじゃないよ」

速水はそう言ってゆったりと腰を使い始めた。

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