５.
「遼牙さま、早くそちらに横になってください。今、お薬をお持ちしますから。あ、あと毛布も……」
蒼褪めた顔で部屋の中をぱたぱたと走り回る瑠羽。その動きに合わせて舞い散る花弁が、部屋の床を紅く染め上げた。
「瑠羽」
遼牙はちょこまかと動き回る瑠羽の腕を掴んで、強く引き寄せた。胸の中に勢いよく倒れ込み、抱き締められる。薔薇の余韻をまき散らしながら。
瑠羽は掠れ声で、
「遼牙さま…本当にごめんなさい。僕、自分のことばかりでお身体が悪いことに気付けなくて………」
「大丈夫だよ。瑠羽、私は―――」
遼牙の宥めを遮るように、瑠羽は激しく首を振る。
「だめですっ。そんなに僕を甘やかしては。叱ってください、怒ってください。でないと僕はいつまで経っても自分中心の子供のまま。もっともっと、遼牙さまのことを思い遣れる本物の酒姫になりたいの……」
目の縁を潤ませて真剣に訴える瑠羽が余りに愛しくて、遼牙は震える唇に噛み付いた。
「あ……んっ、ぅ……だ…めぇ………」
胸をぽかぽか叩いて抗議を示す。唾液が弾ける音と共にようやく唇が離された時には、遼牙の表情は一変していた。
酒宴で見せていた穏やかさや優しさは微塵もなく、眼球がこぼれ落ちそうなほど大きく見開いた双眸には、ほとんど攻撃的とさえ言える情欲が瞬いていた。眼差しに手を翳しただけで火傷しそうなほどに熱い情欲が。
「だ、だめです、遼牙さま………お疲れになっているのに………ああっ」
しかし遼牙は荒々しく瑠羽を抱き上げて、
「今夜我慢させられたら、本当に気が狂ってしまう」
荒い呼吸の下から本音を漏らして、そのまま寝室へ向かった。
「んっ、ふ…ぅ……ん、んっ………」
口腔に侵入してきた遼牙の舌は熱く、そしてあっという間に瑠羽の縮こまった舌を絡め取ってきつく吸い上げた。余りの激しさに呼吸すらままならず、頭の中に靄がかかる。意識が遠のきかけた時、やっと苦しい口付けから解放された。
瑠羽は思わずほう、と深く息をする。しかしほっとする間もなく、胸にちり、と痛痒い刺激が灯った。見れば遼牙が薔薇の隙間に指を差し込んで、乳首をぎゅっとつまんではコリコリと捏ね回している。
「あっ、りょ…きさま………あ、ぁんっ」
柔らかくぷにぷにしていた突起は刺激に素直な反応を示し、紅く充血してツンと尖った。遼牙は花びらを掻き分けてそれに吸い付き、優しく歯を立てて齧った。
「あっ、いや、りょうきさまぁ、かじっちゃいやぁぁ」
遼牙に与えられる痛みはそのまま快感へ直結していることは、すでに知っている。しかし荒い息を吐いて胸にかぶりつく遼牙の姿に恐れを抱いた瑠羽は、涙をこぼして「いや、いや」と抗った。
だが遼牙は意に介さず、両方の突起を執拗に舐め、歯を立て、真っ赤に膨れ上がらせた。花びらの隙間からちょこんと顔を出す二つの実は唾液で濡れ、瑠羽がしゃくり上げるたびにぷるぷると震える。
遼牙は軽く頭を振った。このままでは本当に喰いちぎってしまいかねない。
「や……だぁ……も、やあぁ………」
「瑠羽……なぜ泣く………？」
掠れた声で呻くように訊ねる。どんなに泣かれても嫌がられても止めることはできないと自覚しながら、やはり瑠羽の涙には弱いのだ。
「だって……ぇぇっ……いつものりょうきさまは…もっと優しくしてくださるもん………」
「そうか。では瑠羽、今ここにいるのは私ではなく、飢えた獣だと思いなさい」
言うが早いか、遼牙はドレスの裾に手をかけて、１本の糸を強く引いた。するとしゅるしゅる…と微かな音をたてて裾がほどけ、薔薇の花弁が白いシーツの上に広がった。
「……見事なものだ」
事前に鞘葉に教えられた通りだった。この裾の糸を引けば“脱がせる”ことができますよ、と。
遼牙は一心不乱に糸を手繰り寄せてドレスをほどく。可愛い膝が顔を出し、みずみずしい太ももが晒され、ついに股間まで露わになった。
「ぁ………いや、いやぁ……」
瑠羽は慌てて膝を閉じて手を添え、隠そうとする。まだお腹から胸までは薔薇で覆われ、羞恥のせいでほんのり色づいたたおやかな下半身を必死で隠そうとする姿は、媚態以外の何ものでもない。
遼牙は、酒宴の始めから勃ちっぱなしだった雄にさらなる熱と情欲が凝集するのを感じた。もう、瑠羽の涙にかまっている余裕はなかった。細い足首を掴んで腰が浮くほど高く持ち上げ、露わになった蕾に喰らいつく。
「ひゃぁ…ん、あん……あっ、ぁ………」
愛撫に慣らされた蕾はあっという間に艶かしく蕩け、ひくひくと蠢いて遼牙の陵辱を誘った。舌を根元まで押し込んで奥のうねりを堪能してからゆっくり引き抜くと、入口の襞がもっともっととおねだりするようにクチュ、と喘いだ。
「ああ……この花びらが一番綺麗で、一番愛しい」
遼牙は万感の想いを込めて囁いて、指による愛撫を始めた。脚を大きく広げて、その中心に指を３本呑み込ませる。内部でばらばらに動かしながら肉壁をやわやわとこすってやると、瑠羽の腰は跳ね上がり、勃ち上がってぷるんと震えるペニスの先端から勢いよく蜜が溢れ出た。
そして唇からは啜り泣きがこぼれる。余りの快感でどうしてよいか分からないのだ。
そう、飢えていたのは遼牙だけではない。瑠羽だって三晩も遼牙に愛してもらっていない上、自身で慰めるなんて思いもつかないのだから、その一見可愛い蜜壷の奥には欲望の熱がふつふつと溜まっていたのだ。
そこにいきなりこの激しい愛撫。壊れそうになるのも無理はない。
「すごい、すごいな、お前のココは………」
とめどなく溢れる蜜状の愛液が腹や太ももを伝い、さらに滴り落ちてシーツを覆う薔薇の花弁に降り注ぐ。もちろん遼牙の指をおいしそうに呑み込んでいるもうひとつの花びらにも。指を動かすたびに襞が蜜を弾いて、クチャクチャと淫音が漏れる。
「ぅ……ぇっ………りょ…きさま……も、イッちゃうぅ………おねがぁい………」
「瑠羽……欲しいのか………？」
「ほし…ほしいのぅ………りょうきさまぁ……犯してぇ………」
ほとんど暴力的とさえ言える誘い文句に、遼牙は返す言葉もない。ただはあはあと息を荒げて帯を解き、長衣を脱いで投げ捨て、そして雄々しく反り返る陰茎を綻びかけの花に突き刺した。
「きゃあッ、あっ…ふ……ん、んっ………あっ、あっ…………」
「くっ…ぅぅ………」
突き入れた途端に敗北を覚った遼牙は、そのまま奥を掻き回すように小刻みに揺らしつつ、あっという間に一度目の射精を遂げた。
しかしこれは始まりに過ぎなかった。抜くことなど考えられない。膝裏に手を添えて腰を持ち上げ、本格的な注挿の体勢になる。
「りょうき…さま………」
激しい突き上げを予感したのか、瑠羽はぎゅっとシーツを握って遼牙を見上げた。期待と怯えの混じった眼差しの揺らぎが、何とも言えない色香を漂わせている。遼牙はそのまま身体を倒して、涙の残滓で光る目尻に口付けた。
「瑠羽、許してくれ……今宵は………お前を壊してしまうかもしれぬ。この薔薇のように……」
無残に散った花弁を、ぎり、と握り潰す。しかし瑠羽は柔らかく微笑んで首を振り、
「いいの…。僕はこの花のように美しくはないけれど、でもこの花よりは強い。遼牙さまのためなら、何度でも咲いてみせます。だから………」
シーツを離して腕を遼牙の首に巻き付ける。そして喘ぐように綻んだ唇から囁きを零す。
「めちゃくちゃにして、散らして………」
「ああ……るう……るうッ」
遼牙は叫ぶと同時に身体を起こし、上から杭を打ち込むように激しく何度も突き刺した。そして時折、内壁を抉り取るように腰をひねる。肉の花びらは今や薔薇を凌ぐほど紅く艶めいて、突き入れるたびに白い泡がくぷくぷと立った。
「ひぃっ……ぁ………りょ…きさまぁ……ああっ、もっと、もっとしてぇ………」
「るう、るうッ」
「ああっ、ああっ、イイ……イクぅ……………りょうきさまっ、イッちゃうっ」
これがとどめだ、と言わんばかりに、遼牙は角度を付けて奥の膨らみをこすった。すると瑠羽は「キャアアッ」と甲高い悲鳴を上げて、白い雨を薔薇のビスチェの上にたっぷりと降らせた。
そして遼牙もまた、どくん、どくん、という脈動が瑠羽の腹を震わせるほどの勢いで、熱い迸りを注ぎ込んだ。
「ああ……まるで薔薇の精を犯しているようだ………」
うっとりと呟きながら、遼牙はさらに糸を手繰る。すると、瑠羽の白蜜に濡れて妖しい光沢を放つ薔薇が崩れ、眩しいほどの白さと滑らかさを誇る胸が露わになった。
きゅん、と勃ち上がった紅い果実の可愛らしさ。瑠羽の蜜で濡らした指先でその先端をぬるぬるとこすってやると、「ああぁん」いう甘い嬌声と共に内壁が蠢き、まだ挿れたままの雄にじれったい快感をもたらした。
しかも―――
「りょうきさま……まだ抜いちゃいやぁ………」
そして自ら腰を上下に振って注挿をおねだりする瑠羽。沈静しかけた劣情の荒熱が再び上昇を始め、遼牙の身体を突き動かした。
「ふぁっ……あっ、あん………んっ、もっと…………」
遼牙の熱い精を求める意志表示なのか、瑠羽は後孔をきゅっとすぼめて愛しい人の雄を締め付ける。愛しさと悦びと情欲で舞い上がった遼牙は、気が触れたかのように激しく腰を打ち付けた。そして弾ける寸前で引き抜き、瑠羽の白い胸に向けて吐き出した。
瑠羽は電流のような快感に翻弄されつつも、熱く濃密な液体が胸から首にかけて勢いよくかかり、とろとろと肌を滴り落ちてゆく感覚をうっとりと味わった。
「気持ち悪いだろう？ すぐに拭いてやるぞ」
射精の余韻で熱っぽく掠れた声で詫びる遼牙を、瑠羽は咎めるような眼差しで見詰めた。そして飛び散った白濁を拭ってくれた遼牙の手に、ちょんと唇を押し付けた。
「瑠羽……」
「きもちわるくなんか……ないもの」
瑠羽の想いを汲み取った遼牙は微笑みを返し、その頬を優しく撫でた。
「ありがとう、瑠羽。では今度は、お前のお尻を見せてくれ」
「はい」
瑠羽は自らうつ伏せになって膝を立て、珠のような双丘を差し出した。花びらが数枚付着して、真紅と雪白の鮮やかな対照を見せる。
遼牙はそれを暫し鑑賞していたが、やがて谷間に手を掛けてぐいと割り開いた。激しい行為を物語る生々しい充血を晒して、襞がひくひく蠢く。
「ああ……やはりこの花が一番美しい………」
遼牙が感慨を込めて囁くと、吐息がくすぐったかったのか、蕾がふぅっと緩んで白く濁った蜜がとろとろと溢れた。
「おや？ せっかく注ぎ込んだものが流れ出てしまったぞ。要らないのかな？」
「ち、違います……ごめんなさぁい、ちがうの………」
力を入れて緩んだ襞をすぼめる。
「おお、見事に閉じたな。瑠羽、いい子だ」
遼牙は褒めながら、きゅっと縮んだ花びらを舌でぬるぬると撫でてやった。すると、
「んぁ…ん、だ…めぇ………」
鼻にかかった喘ぎをこぼして、再び蕾が緩む。余りに淫らな排泄に、遼牙の内の獣性が再び目覚めた。
「褒めた途端にこれだ。こんなにお漏らしして。そういういけない子にはお仕置きだな」
そして瑠羽に弁解の隙も与えず、猛る楔を一気に奥まで突き刺した。内臓ごと押し上げるかのような衝撃に、瑠羽は喉の奥で悲鳴を上げる。
「ヒッ……ぃ…ぁ………ぁっ…………」
しかし遼牙は容赦せず、腰を抱え直すと勢いよく引き抜き、また突き入れた。充血した花びらがもつれながら押し込まれる光景、ぐじゅっ、という淫らこの上ない汁音がさらなる興奮を呼び起こし、いつの間にか遼牙は、瑠羽の身体を貪り喰らうだけのただの猛禽に成り下がっていた。
「はあっ、ああっ、ああっ…………やああああーーーーッ」
悲鳴と共に意識を失ってもなお、遼牙はその身体を解放しようとはしない。蜜壷の奥に一回、そして雪肌の上に一回放ってからようやく、己れの鬼畜な振る舞いを反省する余裕が生じた。
しかし遼牙の精を浴びた瑠羽の肌はぬめるように輝いて、ぐったりと弛緩した肢体も艶かしく、新たな欲望の沸騰を抑えるのに難儀したのだが。
「んん………」
身体がぽかぽかして、ふわふわして気持ちいい。そして、仄かに香る甘いミルクのような芳香。ちゃぷん、という心地よい水音。瑠羽はそれに誘われるようにゆっくり目を開けて、そしていつものように遼牙の姿を探した。
「瑠羽、気が付いたのだな。良かった………」
背後から愛しい人の声が聞こえて、ほっと息をつく。どうやら自分は気を失ったまま、遼牙にお風呂に入れてもらっていたらしい。
瑠羽は身体をひねって遼牙の方を向き、逞しい胸に抱きついた。
「りょうきさまぁ……」
うっとりと目を細めて甘える瑠羽に対し、遼牙は微かに眉根を寄せた厳しい表情で、
「瑠羽、済まなかった。お前の身体を労わるより、己れの欲望を優先させてしまった。許してくれ……」
瑠羽はきょとん、とした表情で小首を傾げたが、すぐに遼牙の言わんとしていることに気付いたのか、優しく目を細めて、
「何を仰るの。すごく、きもちよかったの……。それに、嬉しかった。だって遼牙さま、昨晩もその前も、僕に触れて下さらなかったから………」
身体を向かい合わせて胸と胸をぴったりくっつける。そしてほんの少し拗ねた口調で、
「だから、淋しかったの………」
その時遼牙は、無駄な禁欲は今後ぜったいにするものかと心に誓った。
「馬鹿者。何故言わなかった？ お前に誘われたら私はいつだって―――」
「だって、長旅でお疲れではないかと……」
「ああ…私も年寄り扱いされたものだ。よいか瑠羽、私がお前の誘いを拒むほど疲れることなんてあり得ない。その時は棺桶を用意してくれ」
「遼牙さまっ、もぅ……」
さすがに冗談だと分かっているが、不謹慎な言葉に頬を膨らませて抗議した。遼牙はそれをつんつんと指でつつき、
「分かったね？ 瑠羽」
「はい。それじゃあ……」
瑠羽は股間をこすり付けて、そっと遼牙を見上げる。
「もう一回、だめ……？」
「駄目、なわけなかろう」
遼牙は内心のガッツポーズを優雅な笑みで包み隠して、瑠羽の後孔に手を伸ばした。行為の余韻のせいか温かな湯に浸かっていたせいか、花びらはすでに柔らかくとろけている。
瑠羽の身体を少し持ち上げて、あっという間に勃ち上がった自身をそこへあてがうと、少しずつ身体を落として埋め込んでいった。
「ぁ………はぁ…ぁん…………」
ひくひくと蠕動しつつ絡み付く媚肉を堪能してから、腰を揺らして突き上げを始めた。
「きゃうっ、ふぅん………んぁっ、あっ、ああっ………きゃぁぁん…………」
天井の高い浴室には、瑠羽の細い悲鳴が幾度も反響して、白く甘い湯気を震わせた―――
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