４.
城に戻るとそのまま浴室に直行で、身体中の泥や汚れを丹念に落とされた。
そしていつものように香油で磨かれ、ひねった足首には薬草をすり下ろした湿布を貼って包帯で固定される。
「瑠羽様、痛くありませんか？」
鞘葉が心配そうに訊ねる。
「ううん、平気。ごめんね、心配かけて」
鞘葉はとんでもございません、と答えてにっこりと笑う。失踪騒ぎが収まったと思ったら、瑠羽はすっかり元気になって戻ってきた。いや、元気になったのは瑠羽だけではなかった。
「鞘葉、済んだか？」
「これは我が君、たった今終えたところでございます……あ、あら、まあまあ」
湯浴みを終えたばかりで、薄布で身体を覆っているだけの瑠羽を、遼牙は抱き上げて連れ出てしまった。鞘葉は苦笑を隠さず、若い侍女を呼んで、香油の瓶を遼牙の寝室に届けるよう命じた。
「瑠羽、足の具合はどうだ？」
「あ……痛みはそれほど……ご心配をおかけして申し訳―――」
「謝るなと言っておろうに」
瑠羽は落ち着かない様子でもぞもぞと動くと、「はい」と小さな声で返事をして俯いた。湯上りの火照った身体に薄布を巻いただけで、遼牙の寝台にいるのだ。何だか恥ずかしい。
遼牙の前で衣を脱ぎ、裸体を晒したのが夢の出来事のように思える。いくら酒姫としての使命に燃えていたとはいえ、よくもまああんなことができたものだと、我ながら感心してしまう。
「瑠羽、お前に訊きたいことがある」
怪我が大したことないと知って安心した遼牙は、瑠羽の傍へ寄るとその腰を抱き寄せた。
「あっ……は、はい、何なりと」
ついこの前までは、肌を寄せ合って眠っていたというのに、何故今はこんなに意識してしまうのだろう。触れ合った部分は特別な熱を帯びて、それがじんわりと身体中に拡がってゆく。
―――僕、どうしちゃったんだろう……
瑠羽は得体の知れない恐怖に囚われた。自分で自分が分からない。何故こんなにも身体が火照ってしまうのか………
「酒姫の夜の務めについてだが、お前はどういう風に教わったのだ？」
意外な問いに、瑠羽は首を傾げつつ答える。
「はい。えと、裸になって、遼牙さまの身体を温めて差し上げることだと―――」
遼牙は豪快な溜め息をついた。まあある意味間違っていないと言えなくもないが。恐らくこれを言葉通りに受け止めるのは、瑠羽ぐらいのものだろう。
「それだけではないのだよ。寧ろ、そこから先の方が大事なのだ」
「えっ、他にもあるんですか……？」
瑠羽は思いつめた表情で遼牙を見上げると、
「僕……ほんとに何にも知らなくて……。酒宴でのお務めもまだまだ未熟なのに、その上………」
瑠羽は言葉を詰まらせた。みるみるうちに大粒の涙が溢れ、オパールの煌きを湛えつつ頬を滑り落ちる。遼牙はさらに抱き寄せてその雫を唇ですくうと、
「知らなくて当然なのだ、瑠羽。それは、愛し合う者だけが行う秘密のお務めなのだから」
「あ………」
「私が拒んでいたのはな、お前が…私を愛してくれているという確信が持てなかったからだ。瑠羽、私も不安だったんだよ」
「遼牙さまっ……僕、僕………」
何か言わなければと焦りながら、言葉が出てこない。瑠羽は、身体を覆っている布が乱れるのも構わず、遼牙の胸に縋りついた。
「分かっている、お前の言いたいことは……」
遼牙は瑠羽の身体を横向きに抱き上げてひざの上に乗せた。そして耳に唇を寄せ、
「夜の務めは私が教えてあげよう。どうだ？ ちゃんと付いてこれるかな？」
「はい、遼牙さま」
瑠羽が答えるのとほぼ同時に、身体を覆っていた布が取り払われた。
「あっ、何を………っぅ……ん………ぁ」
驚きで無防備に開いた唇に喰らいつき、歯列を割って舌を奥深くまで侵入させる。そして一旦唇を離し、
「瑠羽、これがキスだ。今までお前と交わしていたのは挨拶に過ぎん」
瑠羽の返事も待たず再び舌を挿し込んだ。縮こまった可愛い舌を荒々しく絡め取ると、重なった唇の隙間から「は…ぁ、ん」と甘い喘ぎがこぼれた。遼牙はそれを吸い上げ、お返しに唾液を口腔へ注ぎ込む。瑠羽は喉を鳴らしてそれを飲み干した。
「いい子だ……瑠羽………」
濃厚なキスで半分蕩かされてしまった瑠羽は、うっとりと遼牙を見上げている。そのあやうい眼差しは、媚薬のように遼牙の頭を痺れさせた。
思わず性急になりそうな手の動きを何とか宥めて、背後から腕を回すと、胸にぽつりと灯ったあどけない果実を、やわやわと捏ね始めた。
「ぁっ……ん………やぁだぁ……」
「可愛い声だな……瑠羽………」
時折強く揉んだり爪で弾いたりされるたびに、腰がびくびくと揺れてしまう。もっとちょうだい、とねだるかのように。その求めに応じて、遼牙はすっかり勃ち上がった二つの実をさらに執拗に弄りつつ、耳たぶや首筋に舌を這わせた。
「はぁっ……いやぁ……へん、です……りょうきさまぁ………」
白い膝と膝をこすり合わせていやいやと振ってみせる。その、幼さと婀娜っぽさが共存する仕草に思わず遼牙は目を細め、膝に手を掛けてぐいと大きく広げた。
「やっ……」
余りの姿勢に瑠羽は本気で焦り、膝を掴んでいる手を剥がそうとした。しかしびくともしないのを覚ると、上からぺちぺちと叩き始めた。
「こらこら瑠羽。何をするんだ」
心なしか楽しそうに咎める遼牙。瑠羽は首筋まで真っ赤に染めて、
「いやいや、だって、だってぇ……」
「嫌なのか？ 瑠羽は酒姫失格だな。私に付いてくると言ったのは、どのお口だったかな」
「あ……」
「嫌ならやめるぞ」
「やっ、やめないで、遼牙さまっ、ごめ…なさい……」
再び泣き出した瑠羽。しかし遼牙はすぐに慰めることができなかった。やんわりと勃ち上がって、愛らしい自己主張をしている薄紅色の半身が、瑠羽がしゃくり上げるたびにぷるぷると震えるのだ。
遼牙は喉を鳴らした。こみ上げるのは性欲か食欲か。
「瑠羽……可愛い瑠羽……。私に全てを預けてくれ」
目をこすりながら頷く瑠羽にキスを落として、遼牙は掌で半身を包み込んだ。そして上下にゆっくり動かす。
「ぁっ……はぅん……んっ……りょ…き…さま……い、いやぁぁ……」
瑠羽は慌てて口を押さえる。遼牙はにやにや笑いながら、
「ん？ なんだ、瑠羽？」
「へん…だもん……そんなの、さわっちゃだめぇ……」
「どうして？」
「だって……き、汚いもんっ」
「汚い？ こんなに可愛くて魅力的なのに」
遼牙はうっとりとそう囁くと、扱く手に力を込めた。
「きゃんっ……あ……ぁ………」
手の中で徐々に硬さを増してゆく半身の先端を指の腹で強めにこすると、そこからとろとろと透明の蜜が溢れてきた。
「なっ……なに…これ………やぁだぁ……ヘンなものが出てきたよぉ……」
「ああ……美味しそうだ。きっと舌が蕩けるほど甘いんだろうな。瑠羽、舐めてもいいか？」
「え……えぇっ………」
もちろん瑠羽の返事など待つつもりもなく、羞恥と快楽の色に染まり上がった身体を一旦抱き上げて寝台の中央に横たえ、怖がらせないよう、逸る気持ちを抑えてそおっと覆いかぶさった。
そして、手は執拗に瑠羽の半身を嬲りつつ、胸から脇腹へ、さらにおへその周りへと舌を這わせて、最後に目的の場所へ辿り着くと、つるりとそれを咥えた。
「ひッ……いやあぁ……やめてやめてっ……おねがいっ」
首を振って涙をまき散らし、身をよじって逃れようとする。が、腰をがっしりと掴まれ、動くことすらできない。
「ぁ……ぁ……やぁぁぁ………」
遼牙は口の中の瑠羽にねっとりと舌を絡ませ、溢れる蜜の甘さを堪能しながら丁寧に愛撫する。意志に反して時折ぴくぴくと動くのが、可愛くてたまらない。
「りょ…きさ…ま……こわい、こわいよぉ……ぁ…なんか…ヘン、なのぅ……」
遼牙は一旦口を離し、
「怖がることはない。全て私に預けて。さあ」
優しく促すと、柘榴のような先端の割れ目にちゅっと吸い付いて、再び口に含んだ。
「はぁん……ぁっ、ふぅ………あぁ……い、やぁ……」
怖くない、怖くないと自分に言い聞かせたものの、これまでに襲われたことのない感覚の波濤に翻弄され、根源的な恐怖がじわじわと湧き上がる。自分が自分でなくなってしまうのではないか、股間から広がる甘い疼きに乱れ狂ってしまうのではないかという恐怖。そして―――
「あっ…あぁぁっ……いやぁぁっ、こわい、こわいっ」
根元を扱きながらやわやわと緩く歯を立てる遼牙。この刺激に、何も知らない瑠羽の半身が持ちこたえられるはずがなかった。かすれた悲鳴を上げ、四肢をびくびくと震わせながら、ついに遼牙の口の中に初めての射精をした。
口腔に注がれる熱く甘い露を飲み干して、遼牙はゆっくり口を離した。
「あ……ああ……ぼく……っぅ、もうしわけありませ………う、うぅっ」
「瑠羽、何故謝るのだ」
「だって、だって……く、口の中に………」
そう、瑠羽は遼牙の口に排泄してしまったと思ったのだ。恥じ入るように身体を小さく丸めて、かたかた震えている。
「違うんだよ、あれは瑠羽の甘くて美味しい蜜なんだ。これからも私に飲ませてくれ」
「本当…に……？」
遼牙は微笑って頷くと、
「瑠羽はよくがんばったな。今夜はここまでだ。続きはまた、瑠羽がもう少し慣れたら―――」
「い、いやですっ。ちゃんと、全て教えてくださいっ」
「瑠羽、お前にはまだ―――」
「お前にはまだ無理、お前にはまだ早い……その言葉はもう聞きたくないの……遼牙さま………」
遼牙は、頬を紅潮させ瞳を潤ませて訴える瑠羽をじっと見つめた。そして無言のまま帯を解き、長衣の前合わせを寛げてそのまま下に落とし、脱ぎ捨てた。
均整のとれた精悍な身体。嫌味でないほどの筋肉は蒼い陰翳を帯びて、妖美ですらあった。この胸に無邪気に顔をうずめ、この身体に抱かれて眠っていたのかと思うと、頬が赤らむのを感じる。瑠羽は思わず目を伏せた。すると、
「あっ……」
さっきよりも荒々しく組み敷かれ、耳に首に胸に、きつい口づけが落とされる。瑠羽はくすぐったさとちりっとした痛みに喘ぎを漏らし、腰をくねくねとよじった。
「淫らな身体だ」
遼牙は、自分が咲かせた花を満足そうに見下ろした。瑠羽の裸身。月彩を浴びた肌は真珠の肌理と耀きを湛えて、ちょっと触れただけで指にしっとりと馴染む。
遼牙は感嘆の溜め息を捧げると、傍らに置いてある香油の瓶を取って蓋を開けた。恐らく、鞘葉が用意させたものだろう。全く、目端の利く女である。
遼牙は瑠羽の膝裏に手をかけて持ち上げ、華奢な身体を折り曲げると、脚の間に身体を差し込んで覆いかぶさった。そして深く口づけてから身体をずらし、露わになったちっちゃな蕾にちゅっと吸い付いた。
「やっ……な、なに？」
未知の部分への未知の刺激に、ほとんど蕩けていた瑠羽の理性が蘇る。が、遼牙は構わずそこを攻め続ける。舌でとんとんと突いたり、襞をざらりと舐め上げたり。
「や、やめて……ほんとにやめて……」
切羽詰った声で哀願するも、遼牙の舌はますます大胆に、いやらしく動き回る。そしてついに襞を掻き分けて蕾の奥に侵入してきた。
「ひぁっ……ぁ………やだぁ……」
股間にある遼牙の頭を何とか押し返そうとするが、すでにこの刺激に追い上げられている瑠羽の手には全く力が入らず、遼牙の頭を撫でることしかできない。
そうしている間にも、瑠羽の半身は再び膨張を始め、先端には透明な雫がぷっくりと顔を覗かせた。もう瑠羽も、これを止めて欲しいのかもっとして欲しいのか、分からなくなっていた。
遼牙は突然舌を抜くと、素早い手つきで香油をすくい、ぐしょぐしょに濡れた蕾に指を１本突き入れた。
「い、痛っ…」
「少しの我慢だ、瑠羽……」
遼牙は苦痛の悲鳴を上げた瑠羽の唇に優しくキスをすると、指をゆるゆると回し始めた。奥の方から、つぷ、つぷ、という控え目ながらも淫猥な音が聞こえてくる。
「ぃ………ゃぁぁ………」
何をされようとしているか分からない。分かるのは、この痛みと不快感の奥に、これまで感じたことのない甘い熱が生じ始めていること。遼牙の指が内壁をこするたびに、それはじわじわと拡がっていった。
「もう１本……入るな」
遼牙は、目の前で涙をこぼす瑠羽の半身を口に含んで軽く吸った。すると、硬くすぼまっていた蕾が一瞬緩んだ。その隙に遼牙は指を１本増やして、内部でばらばらに動かして掻き回す。
ぬちょぬちょという艶音はもちろん、押し広げられた蕾は五分咲きの薔薇のように可憐で、遼牙をほとんど暴力的ともいえる激しさで追い上げた。もう、限界だった。
「瑠羽……瑠羽……愛している………ひとつになろう」
遼牙は、甘い囁きとは相反する性急な動きで指を引き抜き、息も絶え絶えでぐったりとした瑠羽の脚を抱え直した。そして、月夜の薄闇に紅く艶かしくその存在を誇示する綻びかけの薔薇に、血管を浮き上がらせた破裂寸前の自身をあてがうと、ゆっくり腰を進めていった。
「ひっ……ぃ……」
突然生じた灼けるような痛みに、瑠羽の口は悲鳴の形を保ったまま凍りついた。声も出ない。息もできない。
「ぃ……ぁぁぁっ………」
「くっ……ぅ」
瑠羽の内壁は、突然侵入してきた異物を排除するかのようにきつく締め上げてくる。猛り狂った遼牙の陰茎には、拷問に近い刺激だ。
「りょ…き…さま……いたい……いたいよぉ………」
「瑠羽、もう少しの我慢だ……息を大きく吸って……力を抜いて………」
遼牙の教えを素直に実行しようとする瑠羽に、愛しさが込み上げる。遼牙は愛している、と何度も囁きながら腰を進め、ようやく根元まで押し込んだ。
「瑠羽……分かるか？ 感じるか？ お前の中に私がいる」
瑠羽は涙をこぼしながら、小さく頷いた。
「りょうきさま……ひとつになれたの？」
「そうだ……。これが愛し合う者の秘密の務めだよ。最初は痛くて辛い……お前にこんな思いはさせたくなかった。許してくれ……」
瑠羽はふわりと笑って、
「ぼく……うれしい……ひとつになれて」
「瑠羽っ」
ここが臨界点だった。遼牙は月の魔物に取り憑かれたかのように形相を一変させ、腰を振って激しく打ち込み始めた。これまでの優しさや労わりは幻かと思えるほど執拗に、荒々しく、初心な粘膜を攻め上げる。
「うぁっ……ぁっ……ぁぁ……………きゃぁっ」
焦点の定まらない双眸で、豹変した遼牙を見上げていた瑠羽の反応が、ある一点を突いた瞬間に変わった。遼牙は敏くそれに気付き、そこを目がけて突き上げる。
「やあぁっ……あぁっ……あっ、あっ……そこいやぁっ……こわい、こわいっ……」
恐怖と苦痛と快感。相容れないはずのものがぐしゃぐしゃに絡まって瑠羽に襲い掛かる。しかし次第に、快感が大きく膨れ上がってきた。それにつれて内部の熱も、蠢きも激しさを増す。
今や完全に蕩かされた媚肉は、獲物を捕らえた触手のように遼牙に絡み付いて奥へ奥へと誘い込み、射精を促す。
「りょうきさまぁっ………あああぁーーーっ」
「瑠羽っ……っくぅぅ」
遼牙が本当の限界を覚った瞬間、二人の腹に挟まれぬるぬるの状態で勃ち上がっていた瑠羽の半身が、ぴゅるぴゅると白い糸を吐き出した。とほぼ同時に、遼牙もまた、瑠羽の奥に熱く濃厚な欲望をたっぷりと注ぎ込んだ。
それから遼牙は、これまで溜めに溜め込んだ欲望を、意識のない瑠羽の身体に幾度も浴びせた。
とろとろにぬめった花蕊に突き刺してこすり上げ、時にはその奥に、時には滑らかな雪肌の上に放出して、文字通り己れの色に染め上げていった―――
瑠羽が目を開けて最初に見たものは、不安そうに自分の顔を覗き込む愛しい人の黒瞳。
「瑠羽…身体はどうだ……まだ辛いだろう」
「遼牙…さま……だいじょうぶ………っつ、うぅっ…」
「馬鹿もの、無理をするんじゃない」
苦しそうに顔を歪める瑠羽にそっと口づけると、
「瑠羽、あんなことをされて……私のことが嫌いになったのではないか？」
おそるおそる訊ねてくる遼牙の顔と、これまでの自分の顔が重なって見える。嫌われるんじゃないかと不安で不安で仕方なかった、ずっと―――
瑠羽は軋む身体を叱咤して両腕を伸ばし、
「どうして？ 僕が望んだことなのに。遼牙さま、あなたともっと愛し合いたい……」
不安が大きかった分、反動の喜びは甚大だった。遼牙は感動に咽ぶ声で瑠羽の名を呼び、伸ばされた腕に自分のそれを絡めて、ゆったりと抱き合った。
二人の恋人の甘い生活は、これから始まる―――
（Fin）
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