First Christmas
一日遅れのクリスマス

２.

「長かった……」

冴季はやつれた呟きを漏らして、扉に手をかけた。約１週間、父の晃三に連れ回されてホテルやら料亭やらに出向き、追従笑いと脂ぎった握手に耐え忍んだ。そしてようやく解放され、泰水が待つ部屋に戻ってくることができたのだ。

「ただいま、泰水」

玄関に入り、室内に向かって声を上げた。しかし何故か無反応。ほんの少し尖った声で、

「おい、帰ったぞ。泰水！」

部屋にいることは分かっている。キッチンからクリームシチューの甘い香りが漂って、空っぽの胃を刺激した。もう一度声を張り上げようとした時、奥の部屋から泰水がちょんと顔を出した。

「お、お帰りなさい……」
「お前、何やってんだ」

顔を半分だけ出してもじもじする。冴季は乱暴に靴を脱ぎ捨ててどかどかと部屋に上がり、泰水の腕を掴んで部屋から引っ張り出した。

「ひゃぁっ」

悲鳴と共に冴季の胸に倒れ込む泰水。その姿を見て、逡巡する理由が分かった。

「うわ……すげえな………」

電話では聞いていたし、それを着た泰水の姿をそれこそもう何十回、何百回と思い描いては下半身を疼かせていたけれど、実物は想像を遥かに超えてエロ……もとい、愛らしかった。

「もお……なんで小野寺さんはこんな服を選んだのぉ………」

恥ずかしくて顔を上げられないのか、冴季の胸に顔を押し付け、剥き出しの膝と膝をすり合わせて腰をよじる泰水の姿に、冴季の疲労は一遍にふっとんだ。

「ほら、顔を上げろよ。もっとちゃんと見せてくれ」

冴季の求めに応じて、そろそろと顔を上げる。そして不安と羞恥が綯い交ぜになった大きな瞳を一心に向ける。このひたむきな眼差しに、冴季は何より弱かった。

「お前はほんとに可愛いな」

衒いのない本音の言葉が、泰水の心に真直ぐ届く。あっという間に顔が火照り、首から肩にかけて赤く染まってゆく。

襟ぐりが大きく開いたオフショルダーのデザインは、首から肩にかけてのラインを余すところなく見せつける。冴季はそのまろやかな曲線を指先でなぞって、噛み付きたい衝動を何とか抑えた。

「皇……おかしくない？」
「どこがおかしいんだよ。世界中でこのサンタ服が似合うのはお前だけだ。ああ……小野寺には足向けて寝られねえよ」

泰水は笑いながら両手を首に巻き付けて、

「お帰りなさい、皇」
「ただいま、泰水」

二人はしっかりと抱き合ったまま、１週間ぶりの温もりに憩うた。やがてどちらからともなく抱擁を解くと、泰水の身体を軽々と抱き上げた。

「こっ、皇っ？　どうするの？」
「うん？　久し振りなんだ。少しイチャイチャさせてくれ」

そのままリビングへ移動し、ソファに身体を沈める。もちろん泰水を抱いたまま。座った拍子に、帽子に付いたうさぎの耳がぴょんと跳ねた。

「ほら、そんな固くなってないでいつもみたいに甘えろよ」

冴季の膝の上で姿勢を正してちょんと座っている泰水。冴季がそう言うのも尤もだった。しかし、

「だって……なんかいつもと違うから………」

きっちりネクタイを締めたスーツ姿の冴季には、社会人の風格と雄の色気が備わっていた。こうして見ると、とても二つも年下とは思えない。

「どういう風に違うんだ？」

からかい半分で訊ねる冴季に、泰水は消え入りそうな声で正直に答えた。

「どういう風って………格好良くて、大人っぽくて、何だか遠い世界の人みたいで……」

続けてはあっと溜息をつき、

「ほんとに僕なんかが一緒にいていいのかなあ……って―――」

言葉の途中で、頬をむにと掴まれた。

「全く……まだそんなこと言ってるのか、お前は」
「ぅぅ……ごめん………」

冴季は頬をつねっていた手を離して上着を脱ぎ、ネクタイを無雑作に緩めた。

「これで落ち着いたか？」
「ん……でもこれはこれで色っぽくて、どきどきするかも………」
「何だよお前、俺にめろめろじゃねえか」
「うう、うるさぁい。めろめろで悪いか！」

顔を赤くして暴れる泰水を難なく拘束し、

「はは、やっといつものお前に戻ったな」

頬や瞼に綿毛のようなキスを幾つも落とす。その温かさや微かな息吹きに泰水はうっとりと目を閉じ、愛されている実感を噛み締めた。

「お前の身体……ケーキの上のサンタクロースみたいだな」
「何それ？　どういう意味？」
「もったいなくて食えない」

泰水はじろりと見上げて、

「そんなこと言って、結局食べるくせに」
「当たり前だ。頭からがぶがぶ食ってやる」

冴季は即答を返して、泰水の耳たぶにはむはむと食い付いた。泰水は「やぁ…だ」と甘えた抗議をして手を突っぱね、

「そうやってふざけてばっかり！　僕はクリスマスディナーの仕度で忙しいんだから。これ以上構ってられません」

そう言って膝の上からぴょんと飛び下り、「イーーーーッ」と思い切り顔をしかめてキッチンへ駆け込んでいった。冴季はきょとんと目を見開いて見送ったが、やがて肩を震わせ、

「くっ、くくく………可愛いヤツ………」

ほんのり温かくくすぐったい笑いの衝動に身を委ねた。




クリームシチューのパイ包み、自家製ローストチキン、魚介のパエリア、きのこと冬野菜の温サラダ。テーブルの上にずらりと並んだ料理に、さすがの冴季も目を輝かせた。

「すげえな……仕込みにずいぶん時間がかかったんじゃないのか？」
「そ、そんなことないよぉ……この位は僕だってささっとできるよ」

本当は前日から泊まり込んで仕込みに奔走していたのだが、照れ隠しとちょっと料理上手をアピールしたかったので、何でもない風を装ってみたりした。

「ほら、皇。座って座って。シャンパンで乾杯しよっ」
「おう」

フルートグラスに注がれたシャンパン、特別な夜の特別なディナー、赤と金のオーナメントが輝くクリスマスツリー、そして甲斐甲斐しく皿に取り分けてくれるうさ耳サンタ。

この光景を見て、誰が今日は12月26日で、街にはすでに門松が飾られ始めていると思うだろうか。二人はグラスの縁をチン、と合わせて、

「改めて、メリークリスマス」

恋する者に暦など関係ないのだ。




心ゆくまでクリスマスディナーを楽しんだ二人は、場所をリビングに移してクリスマスケーキを開けた。

「ほんとはこれも手作りしたかったんだけど……手が回らなくて………」

小声で弁解する泰水の頭をふわふわ撫でて、

「来年は俺も一緒に作るから。今年はお前にばかりやらせて悪かった」
「皇が……料理するの？」
「もちろんだ。今は特訓中だから大したものは作れねえけど。いずれ那津なんかよりずっと旨くて豪華な料理食わせてやるからな」

いつだったか、那津の料理上手を泰水が褒めそやして以来、冴季は秘かに特訓を続けていたのだ。

「すごぉい。一緒に作ったらきっと楽しいだろうね。今からわくわくしてきたよ」

泰水は輝く笑顔でそう言って、ケーキを切り分けた。しかしはたと手を止めて、上目遣いで見上げ、

「ね、皇。サンタの飴人形……欲しい？」
「ん？　そうだなあ、くれるならもらっておく」
「そ、そか……じゃああげるよ………」

がっくり項垂れつつも、ケーキの上に乗ったサンタの人形をつまんで冴季の皿に置く。冴季は笑いを噛み殺して、

「ったく……ほんとにお子様だな。ほら、サンタの人形欲しいんだろ？」
「ぅ……いらないもん」
「嘘つけ。ほら」

泰水のケーキの上にちょこんと乗せてやると、耳許に口を寄せて、

「その代わり、ケーキ食わせてくれ」

泰水はちょんと唇を尖らせながらも、デザートフォークでケーキをすくって冴季の口に運んだ。

冴季は泰水の手を包み込むように自分の手を重ねてフォークを握り、先端に刺さったケーキの欠片をぱくんと口内に収めた。

「皇ぉ、今度は僕に食べさせて」
「ああ。ならこっちに来いよ、ほら………」

手を差し伸べる冴季を見上げて恥ずかしそうに頷き、もそもそと移動してその膝の上に乗る。すると冴季は同じフォークにケーキを刺して、泰水の口許に。頬をほんのり羞恥の薔薇色に染めた泰水は、ふわんと唇を開いた。

しかし唇や舌に触れたのはしっとりしたスポンジでも滑らかな生クリームでもなく、冴季の熱い唇だった。

ケーキを味わおうと待ち構えていた舌は、戸惑いつつも冴季の舌に絡め取られ、その吸い上げに嬉々として委ねた。

「はぅ………っふ……ぅン…………」

肩にしっかりしがみついて、甘えた吐息と共に微かに腰を揺らす。冴季は堪らず、ひらひらしたワンピースの上からがしっと腰を掴み、自分の股間に引き寄せた。

「はっ………やぁ…だ……皇……熱ぅ…い………」
「ん？　どこが熱いんだ……？」
「どこって………」

布越しに感じる冴季の熱と鼓動。それが泰水の微かな膨らみにも伝播して、あっという間に高ぶらせた。

「皇の……おっきくていやらしいとこ………」
「いやらしいとこはねえだろ。お前が可愛いからいやらしくなっちまうんだよ」

耳たぶを食みながら囁くと、白いふわふわで縁取りされた裾の中に手を突っ込んで、下着を膝までずり下ろした。

「ゃっ……バカバカ、こんなところでっ………」
「今さら何だよ。ここで何回ヤッたと思ってるんだ」

冴季の言うのも尤もだった。何も言い返せず黙り込んでいるうちに、ルーズソックスと一緒にするすると脱がされてしまった。

「ソックスもいいけど、やっぱり生足には敵わねえよな」

真剣な声で感じ入ったようにそう言って、内股の滑らかな素肌を指先でなぞった。極上の手触りに思わず溜息がこぼれる。

「ああ……食いてえ………」
「ば…か……なにゆってるのっ………」

腰をよじって抗議しようとしたが、それに先んじて性器をすいと撫でられた。泰水は引こうとした腰をひくんと浮かせ、「はぅ…ン」と甘く切なく鳴いた。

その反応に気を良くした冴季は、まだ柔らかさの残る性器を手のひらで包み込んでふにゅふにゅと締めたり緩めたりした。

「あっという間に大きくなったぞ。今度は後ろを可愛がってやるから」

冴季はそう言ってローションを探したが、テーブルの上に目を留めてにたりと笑った。食べかけのケーキに手を伸ばし、生クリームを指ですくってそのまま泰水の谷間へ。

「こっ、皇？！　なに？　まさか………」
「生クリームだ。ローションよりずっと滑りがいい」

平然と答えて、クリームたっぷりの指をずぶずぶと埋め込んでゆく。太く骨ばった節に内壁を抉られる刺激に身悶えしながら、「食べ物粗末にしちゃだめっ」と育ちの良さを窺わせる言葉を口にする。しかし冴季はまたもや平然と、

「粗末にしてねえよ。ちゃんとお前の中に入ってる」
「そう…いう問題じゃないっ」
「ほぅら、こんなにひくひくして。ちゃんと咀嚼してるじゃねえか。旨いか？」
「も……バカぁ………ぁぁ……ぁ…ん………んっ………」

内壁に包まれた二本の指をグリッとひねると、筒全体がきゅぅっと収縮した。思わぬ締め付けに、一瞬だが理性を失いかけた冴季は、慌てて腹の底に気を溜めた。

「……おい、泰水。垂れてるぞ」

見れば、スカートの裾を持ち上げてピチピチに勃ち上がった竿の先端から愛液が溢れ、冴季の服の上に染みを作っていた。

「ご、ごめ……なさ……だって……ずっとがまん…してたから………」
「我慢してたのか。いい子だ」

ぷくぷくと蜜を溢れさせる先端を、指先で円を描くようにいい子いい子と撫でてやる。もちろん後ろに挿れた指をぐちゅぐちゅ掻き回しながら。泰水はもうダメと言わんばかりに首を振り、

「おねが…ぃ……も、挿れて………」
「今両手が塞がってるんだ。解放してくれ」

泰水はこくんと頷いて、冴季の股間に手を伸ばした。ベルトを外してジッパーに手を掛けると、布地の下で熱い塊がビクビクと蠢いた。泰水は思わず手を引いて躊躇する。

「恐がんなよ。確かにかなり……凄いことになってるけど」

泰水は再び頷いて、苦労しつつも何とか前を寛げた。そして下着をずらすと同時に、雄の濃厚な熱気をまき散らしつつ赤黒い塊が飛び出てきた。

泰水はそれを愛おしげに両手で掴み、ゆっくりと上下に扱く。すでに限界近くにあった冴季は生々しい呻きを漏らし、身中の熱渦に急かされるように泰水の腰を持ち上げた。そしてクリームに塗れた後孔に自身をゆっくりと沈めてゆく。

「はは………お前ん中……すげえ甘い………」
「ん、も…ぅ……嘘ばっかり………」

とろける声で反論しつつも腰を上下に揺らすと、どこからか甘いクリームの匂いが漂ってきた。

「ほんとだ……甘ぁい……」
「だろ？」

泰水の動きに応えるように、冴季も腰を突き上げる。ずちゅっ、ずちゅっと音がして、漂うクリームの匂いも濃厚になってきた。

「ああ………いい……いいよぅ………皇ぉ………」
「やすみっ……」

冴季の首に腕を巻き付けた泰水は、背中を美しくしならせて快楽を歌った。

「ぁぁ……いい……きもちいい………イクぅ……………」

最後に掠れた悲鳴を上げ、下半身をぶるんと震わせて射精した。冴季も腰をがくがくと揺らし、泰水の尻が潰れるほど強く押し付けて奥へ放出した。泰水はとろんとろんに溶けた身体を冴季の胸に預けて、

「やっぱり食べられちゃった」
「ああ。ケーキの上のサンタより甘かった」

途端に泰水はむぅっと膨れて、

「僕……まだケーキ食べてない」
「後で俺が食わせてやるよ。ちゃんと上の口からな」
「皇っ、下品！」
「うるせ。人のモノ咥え込んだまま暴れるな。ケーキのデコレーションみたいに大人しくしてろ」

言うが早いか繋がったまま身体を起こし、泰水の上に覆いかぶさった。そして嫌らしく笑い、

「クリスマスの夜はこれからだ。一晩かけて食い尽くすからな」

物騒な宣告を叩き付けると、サンタ服をゆっくり脱がせながら注挿を再開したのだった。（Fin）

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