真昼の情事
―休日編―
３.
純は心なしか淋しそうに微笑んで、
「怒ったの？」
「…………」
「だって……ほんとに可愛かったから」
「可愛いって言うな」
苛立たしげに遮ると、横を向いたまま悔しそうに唇を噛み締める。純はそんな雪仁の首に腕を回して、身体をぴったり寄り添わせた。そして昏く沈んだ声で、
「昔を懐かしむのは不安の表れなんだよ」
「純さん……？」
「君たちの年代は、あっという間に成長してしまう。そして僕の頭上を通り越してどんどん先へ進み、いずれは僕のことなど気にも留めなくなってしまう………」
雪仁は何とか反論しようと口を開いた。しかし巧い言葉が見つからない。きっと従兄弟ならこんな時、落ち着いた態度と含蓄のある言葉で不安に騒ぐ心を癒してあげるのだろう。
でも自分はただおろおろして、言葉に詰まって―――
「分かってる、雪仁くんはもう子供じゃない。ただ僕が、独り立ちした雪仁くんが離れてしまうのが恐くて、いつまでも子供なんだと思っていたいだけ。ごめんね、ずるい大人で……」
「本当にずるい人だ、あなたは」
怒りを抑え込んだ震える声で非難する。そして純の顔を上から見据え、
「勝手に俺が離れるとか先に進むとか決め付けて。それで勝手に不安がって。ずっと傍にいますと言ったって、どうせ信じてくれないんでしょう？」
「ゆきひとくん………」
「俺はっ、俺は成仁兄みたいに頭も良くねえし、あの人に比べりゃまだまだガキだし、あなたを安心させる気の利いた言葉も言えねえけど、でもっ―――」
言葉が感情に追い付かず、絶句してしまう。その代わり、華奢な身体が砕けるのではと思われるほど強く抱き締めて、感情の核を構成するたったひとつの言葉を繰り返した。
「でも……好きなんです。好きで好きで好きで…………」
「あ……」
「もう、どうしていいか分からない………」
身体が軋むほどの抱擁を、純は痛がる素振りも見せずうっとりと受け入れた。やがてゆるりと抱擁が解かれると、今度は熱い視線を絡ませた。
「純さん、俺………」
「ありがとう、それからごめんね。もうあんなこと言わないから……」
首を伸ばして、雪仁の唇にちゅっと吸い付く。そして柔らかな笑みを向け、
「でも、小さいころ可愛かったのはホントだからね。撤回しないもん」
雪仁は苦笑と共に頷いた。
「分かりました。あなたがそこまで言うのなら、きっと本当に可愛い子供だったんでしょうね。今はこんなに生意気だけど」
そう言って自分の身体をざっと流し、スポンジを取って泡立てた。
「今度は俺が、純さんの身体を洗ってあげます」
「えっ？ 僕はへいき、自分で…………ぁ、ゃぁっ……ん……」
もちろん純の辞退など聞き入れるわけもなく、泡塗れの手をいきなり股間に滑らせてそのまま握り込む。
「ぁっ、だめ、だめぇ………」
「じゃあ、大人しく洗われますか？」
「は、はい……」
雪仁は満足げに目を細めて、純の身体をくるりと反転させた。そしてまずは背中から。眩いばかりの白さを誇るしなやかな素肌を、愛情込めて磨いてゆく。
「純さん、痛くないですか？」
「ん……きもちいいよ。とっても優しくて………」
雪仁は嬉しそうに口許を緩めて、磨き終わった背中に湯を掛けた。泡が流された肌は水の珠を弾いて、みずみずしい光沢を放つ。
雪仁はそこに舌を這わせたい欲求を何とか抑え込んで、首の周り、腕を同じように磨き、後ろから腕を回して胸に取りかかった。
女性のような柔軟性も膨らみもない平坦な胸。なのになんでこんなに眩しいのだろう、美しいのだろう。雪仁は新たな泡を塗り込めて、滑らかな質感を感覚に刻み込むため、スポンジではなく指先で磨いていった。
「あ、やっ…ん………ゆきひとく…………」
「ん？ どうしました？ そんな可愛い声を出して」
愉しそうに問いかけながら、右手は脇腹をなぞり、左手は乳首をくにゅくにゅと揉みしだく。純は「はぁ…ん」と喘いで、
「もぅ………手が………えっちなのっ」
「えっちなのはあなたのカラダでしょう？」
雪仁が言うのも尤もだった。クリームみたいに肌理細やかな泡の中から、コリコリに勃ち上がった紅い乳首が恥ずかしそうに顔を覗かせている。視線を下へ移動させれば、いつもの桜色よりすこし赤みを帯びたペニスが、ゆったりと形を変え始めていた。
雪仁は誘われるように手を伸ばしてやんわり握り込み、石けんの滑りを借りてくちゅくちゅと上下に扱いた。
「あっ……あぁ、ん…………」
自ら脚を広げて腰をひくひく揺らす純の耳元に、唇を寄せて甘い問いを注ぎ込む。
「……気持ちいい？」
「んっ、ん………イイ………きもちいい………」
素直に答えたご褒美のつもりで、先端のささやかな割れ目を指先で刺激すると、純は背中を弓なりに反らせて「きゃんっ」と鳴いた。そのまま雪仁の胸に背中を預けてはあはあと荒い息を吐く。
すると白雪のような泡から飛び出した乳頭が、呼吸に合わせてぷるぷると揺れた。と同時に、純の分身を握っている雪仁の手に生温かくとろみのある液体が降りかかった。
見れば、紅く膨れた先端から透明の蜜珠が生まれてころんころんと転がり落ちている。
「なんで………あなたはこう……どこもかしこも可愛いんですか」
「年上に……かわいいってゆうなあ…………」
「何度でも言いますよ。本当に可愛い………もっと可愛い声を聞かせてください、さあ」
その号令と共に、純の蜜で濡らした指を後ろの割れ目に侵入させた。そしてまだ奥床しい固さの蕾に這わせ、指腹で襞を強めにこする。
「あっ、ああっ、あん………やァ…だ…………」
「可愛い声………もっと、もっと………」
雪仁はうっとりと呟きながら指を突き入れ、尺取虫のような動きをしつつ奥へ進めていった。そして根元まで押し込むと、激しく揺り動かして柔肉を掻き回し始めた。
「あああッ、やっ、やん、やだぁ………」
「もっと、もっと、純さん………」
指をいきなり３本に増やし、一気に根元まで押し込む。熱々でとろける粘膜にきゅぅっと締め付けられ、雪仁はたまらずいったん抜いた。
「火傷しそうです。あなたのアソコ」
はらはらと涙を流し、苦しそうにしゃくり上げながらいやいやと首を振る純。その儚くも可憐な風情に、雪仁の内に潜む暴虐の欲望がむくむくと覚醒した。
再び指を突き入れ、容赦なくじゅぶじゅぶ音をたてて出し入れする。純は折り曲げた脚で淡白色の湯気を蹴り、声を嗄らして嬌声を上げた。
「ああああーーーッ、ゆび、ゆびはいやァ………」
「何がっ……いいんですか………」
「んっ、んふっ………ぅ……ゆき…ひとく…の……おっきいので……犯し…てぇ……」
みっともないと思いつつ、ごくりと喉を鳴らす雪仁。精一杯の冷淡な声で、
「そんなに……犯されたいですか？」
「ああ………して、いっぱいして……ベッドの上で……めちゃくちゃにして………」
雪仁は返事をするのももどかしく指を抜いて、身体に付着する泡をきれいに洗い流した。
「純さん、立てますか……？」
「んん……だめぇ……も、とろとろなの………」
雪仁はいったん外に出て自分の身体を超高速で拭き、新しいバスタオルを広げた。そして浴室にいる純を抱き上げて大きなタオルの上に寝かせ、ふわふわと押さえて水気を拭ってやる。
純は時折くすぐったそうに「んふっ」と笑った。そんな綿毛のような笑い声が愛らしくて、雪仁は何度もその場で襲い掛かりそうになった。
しかしともかくベッドまで我慢するんだと言い聞かせ、ようやく全身を拭き終わると、せかせかと抱き上げて脱衣場を飛び出した。
「雪仁くぅん、寝室あっち」
純の指差す方へまっしぐら。そして寝室の扉を蹴り開けると、真っ昼間だというのにどこか淫靡な匂いのするダブルベッドの上に横たえた。
純はすかさず脚を大きく広げ、腰を浮かせてこれ以上はないほどの強力な誘いをかける。露わになった秘部は浴室で散々蕩かされたせいで柔らかくほぐれ、ぬるりと潤んでいた。
雪仁はベッドの上に飛び乗って、迷わずその部分に吸い付く。舌のざらざらした面をこすり付けて花びらの蠢きを堪能した後、指で左右に割り広げて尖らせた舌をねじ込んだ。
「ああああーーーーッ」
純は腰を跳ね上げ、シーツに爪立てて悶える。秘部に顔をうずめている雪仁にその艶めく姿態は見えないが、もし見ていたら暴発していたかもしれない。そのくらい、快楽に嬲られる純の身体は官能的だった。
「ああ……きて、きてぇ………」
溢れる蜜が顔にかかるのも構わず淫部を貪っていた雪仁だったが、純の切羽詰った誘いにようやく顔を上げた。
「望み通り犯してやるよ」
欲望の熱で荒れた低音を叩き付けると、今にも咆哮を上げんと涎を垂らす自身を掴み、ぬめる蕾を一気に咲かせた。
「キャアアアアアッ、ァ、ァァッ……………すご…い……すごいぃ………」
身体を二つ折りにされた純は、ほとんど真上から串刺しにされた。下肢をぶるぶると痙攣させて、下腹にずしりとくる重量を歓喜のうちに受け止める。
「くっ……そぉぉ…………」
挿れた瞬間に弾けてしまい、雪仁は不甲斐ない自分への悪態をつきながらもどくどくと注ぎ込む。そして全てを搾り出す前に本格的な注挿を始めた。
引き抜いては押し込むたびにゴブッ、ゴブッ、と重く濃密な水音が響き、放出したばかりの精液が溢れて滴る。白くもったりとした液体はいやらしく蛇行しつつ純の腹を舐め、胸を犯し、首筋にまで達した。
精に塗れた純の身体は余りに美しく、神々しいとすら感じる。その瞬間、雪仁の中で何かが切れた。ガツガツと注挿を速めたと思ったら、突然「目ぇつぶれ！」と命令した。
余りの激しさに朦朧としながらも、純は言われた通りぎゅっと目を閉じる。すると雪仁は純の中から引き抜いて、先端の照準を純の顔に合わせたまま根元を軽く扱いた。
「ぅっ……ぅ、ぅっ…………」
真っ赤に膨れた先端からびゅくびゅくと勢いよく噴き出た白濁は、純の顔や首に掛かって流れ落ちた。しかし純は嫌な顔せず、むしろうっとりと恍惚の表情で熱いシャワーを受ける。
やがて全て放出した雪仁は、凄まじい快楽の余韻に揺さぶられながらものろのろと手を伸ばし、純の瞼を拭ってやった。
「す、すみません……つい………」
今さらすみませんもないのだが、謝らずにはいられなかった。瞼や目の周りを指で丁寧に拭った雪仁はティッシュに手を伸ばそうとしたが、それに先んじて手を掴まれた。
「純さん？」
雪仁の戸惑いを措いて、純は掴んだ手を口許へ寄せて指をしゃぶり始めた。付着した精液を綺麗に舐め取った純は淡く笑い、「もっとちょうだい」とおねだり。雪仁が言われるがまま頬や首筋に付着している残滓をすくってやると、純は嬉しそうに目を細めて吸い付いた。
ちゅっちゅっと聞こえる可愛い音とは裏腹に、舌を指に絡めて舐め上げる仕草は淫らとしか言いようがない。雪仁は夢中でその姿に見入り、次々とすくっては純に舐めさせた。
純も嬉々として丁寧に舐め、さらに脚を広げてみせた。純の誘いを汲み取った雪仁は、空いている手で白濁をすくい、濡れた後孔にくちゅくちゅと塗り付けて押し込んだ。
上の口と下の口、両方で雪仁のモノを味わう純。この行為に二人とも徐々に高められ、気付いた時にはどうしようもないほど熱くなっていた。
「純さんッ」
雪仁は切ない叫びと共に上にのしかかり、今犯したばかりの花に灼ける楔を打ち込んだ。度重なる陵辱でやわやわに蕩けていたそこは難なく呑み込み、悦びのうちにぎゅっと締め付ける。
雪仁は、何度達しても一向に収まる気配のない飢えをそのままぶつけ、甘美な愛しい身体を何度も何度も責め抜いたのだった。
―――やっぱり……かわいい………
ようやく日も落ち、黄昏が辺りを包み始めた頃。目を覚ました純はそっと身体を起こして、隣で安らかな寝息をたてる雪仁の顔に見入っていた。
確かに身体も大きくなったし、骨格だって逞しい男性のもの。変声期を過ぎた低い声も、深みがあってセクシーだ。でも―――
「やっぱり……可愛い雪仁くんなんだよ………」
ゆうべは眠れなかったのだろう、今になってようやく安眠を得ることができたのか、起き出す気配すらない。
純はちらと時計に目をやって、もう少し寝かせてあげよう、と呟いた。そう、夜はこれからなのだ。
「今夜は……寝かせてあげないもん………覚悟しといてね」
甘えるような口調で物騒な宣告を下して、眠る雪仁の胸に顔を押し付けたのだった。
（Fin）
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