５.
「ぁ………やっ…ん…………」
執拗に唇や舌を吸われつつも、お尻を振って不埒な手を払おうとする。しかし陵辱の意志を持つ触手と化した隆矢の五指は、揺らぐことなく可愛い蕾へ真っ直ぐ向かう。
そして、重ねた唇の隙間から「やめてぇ…」と懇願する優里を措いて、ためらうことなく谷間の奥へ。ひくひくと蠢く蕾を指腹で強めにこすり、じれったい刺激を与えてから、襞を掻き分けてぐにゅ、ぐにゅ、と埋め込んだ。
優里は「んぁっ」と切ない声を上げて、腰をがくがくと揺らした。ようやく唇を解放した隆矢は深い息を吐いて、
「ああ……いつもより柔らかい。湯に浸かってたからだな。柔らかくて熱くてとろりとしてる。早くここをぐちゃぐちゃに掻き回してえ………」
その言葉を再現するかのように、埋め込んだ指を上下左右に揺り動かす。
「やッ……おに…ちゃ………ゆび、ゆびぃ………」
隆矢はにやりと笑って、
「指？ もっと増やして欲しいのか。しょうがない奴だ」
すかさずもう一本ねじり入れる。嫌がる優里とは裏腹に、その柔肉は媚びるようにねだるように二本の指にまとわり付いた。
「ふぁ…ン………あぁ…ん、ぁぁ………」
依然として上を向かされたままの優里は、半開きの唇から濃厚な喘ぎをとろとろとこぼす。隆矢はその濡れた唇を指でつい、となぞり、
「優里……すげえイヤラシイ顔してる……。これ以上俺を狂わせてどうすんだよ」
「んっ……ふぅ…ん…………ぉ…にいちゃまぁ………」
「………っ」
甘えた呼びかけに抑えていたものをあっさり掘り起こされてしまった隆矢は、せかせかと指を抜いて脱力しきった優里の身体を抱き上げた。そしてまだ綻んだままの唇にちゅっとキスを落とすと、そのまま風呂を後にした。
水気を拭ってまっさらな浴衣にくるみ、奥の寝室へ。優里を抱えたまま襖戸を開けると、そこには妄想そのままの艶めく世界が。
ぴったり寄り添って並べられた布団に、明かり障子から射し込む白銀の月光が濡れたような色沢を贈る。全ての調度品が薄闇の中で妖美な陰翳を帯びて、部屋の隅で焚かれている香も性感を高める媚薬のように嗅覚をくすぐった。
隆矢は逸る四肢を抑えてゆったりと室内に進み、優里の身体を布団の上に横たえる。そして上からのしかかると、脚を持ち上げて大きく開かせた。
「ああっ…」
優里は驚いてすぐさま閉じようとしたが、もちろん隆矢が許すはずもない。羞恥に耐えかねた優里は両手で顔を覆い、小さく首を振ってささやかな抵抗を示すしかなかった。
その処女めく仕草に情欲を煽られつつ、隆矢は優里の秘部をうっとりと観賞する。白い脚の付け根に咲いた、蠱惑の蜜花。
もちろん眺めるだけでは物足りない。この蠢きを、ぬめりを、じかに味わいたい。そんな原始的な欲求の虜となった隆矢は、脚を押さえたまま顔を近づけて迷わず吸い付いた。
「ひッ……」
嬲られる快感も貫かれる悦びも知っている。しかし今優里の花唇を襲っている刺激は、そのどれとも違う。何度も啄ばまれ、そのたびに爪先がびくん、びくん、と痙攣する。
「ぃ、ぃゃ…………おにいちゃぁん、なにしてるのっ…………」
するとその問いに答えるように、温かく柔らかいものがぐちゅっ、と押し込まれた。
「ああっ、いやぁ………やだぁ…………」
それがアナルの浅いところでうねうね蠢くと、無数の蟲が下肢を這い上がるかのようなおぞましくも甘美な快感が皮膚の上を滑る。隆矢が今何をしているのか、分からない振りをしようとしても無駄だった。
優里は羞恥と嫌悪と未知の快楽でどうしてよいか分からず、涙を振りまいて叫んだ。
「やだぁ……やめてよぉ………おに…ちゃ…の…バカぁ…………」
涙に詰まった苦しそうな声を耳にした隆矢は、潔く舌を抜いた。しかしすぐさま指を突き刺して、たぷたぷ音をたてつつ上下に揺らす。その動きに合わせるように優里の腰も跳ね上がり、蕾も徐々に緩んできた。
隆矢は名残惜しいのか、捲り返った襞にぬるりと舌を這わせるといったん手を離した。そして用意していたコンドームを取り出して隆々と反り返る自身にかぶせ、ローションを全体にたっぷりと塗り付ける。
「これで少しは……布団汚さずに済むかな………」
ゴムの内側できちきちに張り詰めた陰物は、やたらとグロテスクで淫猥だった。隆矢はその根元を無造作に掴んで優里の紅い潤みに宛がい、その熱さに酔い痴れながらずずっ、ずずっ、と押し込んでいった。
「んふぅっ、んんっ、んっ…………」
シーツにしがみ付き、苦しそうに眉根を寄せて太い楔による圧迫感に耐える優里。その表情は官能的と言うより他なく、隆矢はめらめらと燃え上がる劣情の焔に煽られて深く息を吐いた。
そして「いくぞ」と低く荒れた宣告を一方的に叩き付けると、優里の脚を抱えて容赦なく腰を押し進める。
優里の熟した肉は、つい最近まで貫かれる悦びを知らなかったとは思えぬほど淫らに収縮して、隆矢の昂ぶりにさらなる快感を刻み込む。隆矢が腰をねじりながらぐにゅぐにゅと押し込むと、待ち構えていたかのように包み込んできゅっきゅっと締め上げた。
「ぁぁ………おにいちゃまぁぁ………奥、奥ぅぅ…………」
いつの間にか脚を腰に絡めて、言葉通り奥へ奥へと誘う。しかし何を思ったか隆矢は、わざと腰を引いて浅いところで抜き差しを始めた。
じれったくてもどかしくて甘痒い感覚に身悶えしつつ、優里は不思議そうに隆矢の顔を見上げた。
「おにい…ちゃま……？」
「優里……俺の、名前を呼べ………」
「なま…え……」
隆矢は頷いて、深い注挿を再開する。鎮静化しかけていた快楽の熾火が再び燃え上がり、優里は腰をくねらせて喘いだ。
「ああ……ン、おにいちゃまぁ………」
「優里、名前呼べって……。でないと気持ちよくしてやらねえぞ」
「んんっ……だって、だって………」
羞恥と戸惑いに駆られて、いやいやと首を振る。すると隆矢は再び腰の動きを緩め、
「俺はお前の兄貴じゃない。恋人だ。違うか？」
「ちがわないっ。けど、けど…………お兄ちゃんはお兄ちゃんだもんっ。優しくてかっこいい………ぼくのだいすきなだいすきな隆矢おにいちゃんだもんっ」
「優里……」
真っ赤な顔で必死に言い募る優里に、また新たな愛情が湧き上がる。喘ぎ混じりの色っぽい声で名前を呼んで欲しかったのだが、何だかどうでもよくなってしまった。濡れた目尻に唇を寄せて涙を吸い取り、
「俺の大事な大事な優里……。愛してるよ」
想いを込めて囁くと、さっきまで敢えて避けていた優里の玉座を攻め始めた。
「あっ、ああっ………ィィ………きもちいいのぅ…………」
「優里……一緒にイクか……？」
優里はコクンと頷いて、濃厚な吐息の奥から「いっしょにイクぅ…」と甘えてみせる。隆矢は優里の腰を抱え、自らの股間に打ち付けるように揺らしつつ奥を掘り進める。
優里の愛液やローションで濡れた肌と肌がぶつかり、ぬちゃぬちゃと響く密な戯音が二人の性感を高め、やがて―――
「んぁっ、ああっ、あっ、あっ………イクぅっ………」
「ゆぅ…りっ………くっ、ぅ…………」
身体を貫く電流に悶えながら、二人同時に埒を明けた。勢いよく白濁を飛ばした優里は、隆矢の硬く盛り上がった肩や二の腕の筋肉に指を這わせつつ射精の余韻に微睡む。
やがて長い放出が終わったのか隆矢も深く息をつき、ゆっくり腰を引いて優里の中から自身を引き抜いた。
じゅる、と汁音を弾かせて現れたそれはまだまだ十分な硬度を保っていたが、取り敢えず中に溜まった精液を処分するためゴムを外す。
「ね……おにいちゃまぁ。それ、どうするの？」
「え？ どうするってそりゃ捨てるさ」
優里は悲しそうに目を細めて、
「捨てちゃうの……何だか可哀想………」
先端に溜まった白い液体、隆矢の種たちをじっと見つめた。隆矢は照れ臭そうに笑って、
「お前は何つうか……ほんとに可愛いこと言ってくれるよな。これは捨てちまうけど、また新しいのどんどん出てくるから安心しろよ。あ、それに―――」
ゴムの上部を縛ってゴミ箱に投げ捨て、優里の上に覆い被さる。そして濡れた胸に舌を這わせて、
「お前が飛ばしたやつは、俺が全部きれいに舐めてやるからな」
飛び散った白い飛沫を丁寧に舐め取ってゆく。
「ゃっ………だめぇ、そんなの舐めちゃ…………んぁっ、ぁ、ぁっ…………」
優里の抗議を封じるため、乳首に塗り付けてから指で挟んでコリコリと捏ねたり、先端を押し潰したり。案の定、射精直後で敏感な優里の身体は面白いようにビクビク跳ね、濡れた股間が隆矢の腹をこすってぬるぬる滑った。
その生温かい感触は隆矢を焚き付けるのに十分すぎるほど淫猥で、優里が放ったものを舐めるのも、自身に新たなゴムをかぶせるのも忘れて再びぐじゅぐじゅと突き刺した。
異物越しには感じることができなかった肉の潤み、蠢きを存分に味わいつつ、荒々しく腰を打ち付ける。
結局ゴムを用意した意味はなかったな…と、隆矢は快楽に占有されつつある意識の片隅で考えたのだった。
「んん………おにいちゃん……おにいちゃぁん………」
「………はいはい」
狂おしい交わりに耽った翌朝の寝言もやっぱり「おにいちゃん」かと、隆矢は苦笑い。
本当はこのまま時間を気にせずごろごろしていたかったけれど、団体行動だから仕方あるまい。隆矢は優里のおでこや鼻、まぶたにちょんちょんキスを落とし、甘やかな夢の世界から呼び戻した。
「おはよう、優里」
「ふわぁい……おはよ………」
眩しそうに薄く目を開けた優里は、隆矢の胸に丸い頬をぽよんぽよんと押し付けて幸せそうに笑った。が、珍しく眉間に微かな皺を寄せて、
「ね、おにいちゃん。なんでゆうべは……名前を呼べってゆったの？」
「ん？ お前はいっつもお兄ちゃん、お兄ちゃん、だろ？ たまにはこう色っぽく、誘うように名前を呼んでくれてもいいじゃないか。たかやぁ、きてぇ、とか」
浅かった眉間の皺はみるみるうちに深くなり、優里は顔を歪めて「いやっ」と叫ぶ。
「そ、そんな恥ずかしいことしないっ。お兄ちゃんはずっとお兄ちゃんなんだから！」
赤くふくれた頬をふにふにつまんで、
「だからお前はいつまでたっても子供扱いされるんだぞ。ガキガキぃ、おこちゃま優里。ちょっとは若女将を見習えよ」
「バカぁ」
狂おしい交わりに耽った翌朝とは思えぬほどの稚いじゃれ合い。隆矢は笑いながら優里の頬を引っ張り、優里は隆矢の胸をぽかぽか叩いていたが、布団の中の脚は離れることなく、ぎゅぅっと強く絡み合ったままだった。
荷物も全て運び、あとは帰りのバスに乗り込むだけ。
「お世話になりました」
亮さんが代表してお礼を言うと、送りに出てきた若女将は深く頭を下げた。そして、
「またぜひお越しください。従業員一同お待ちしております」
到着時に迎えてくれた時より和らいだ笑みを浮かべて、心からの挨拶を述べる。さらに隆矢と優里の方へそっと眼差しを向け、
「私も皆様には色々教えられることがありました。本当に感謝の言葉もございません」
事情を知らぬ亮さんは大きく瞬きをして、「い、いやぁ…」と曖昧な返事を返す。隆矢と優里はにっこり微笑んで頷きを返し、心の中で「お幸せに」と呟いた。
そしてバスに乗り込もうとした時、館内からばたばたと慌ただしい足音がして和彦が姿を現わした。自分も挨拶をしようと慌てて出てきたのだろう。すると若女将は声を張り上げて、
「おにいちゃんっ、早くぅ。ご挨拶するんでしょっ？」
叫んでしまってからはたと我に返り、真っ赤な顔で「失礼しました…」と頭を下げる。誰もが一瞬固まったが、次の瞬間温かい笑い声が沸き上がる。その中で優里は隣の隆矢をつんつんつつき、
「ほぅらね、やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ」
得意気に笑ってみせたのだった。
（Fin）
BACK TOP INDEX