いちごの戯れ

「あ、あの……尭村さん」

放課後、教室から出てきた純をまんまと拉致ることに成功した尭村は、そのまま門前で待っている迎えの車に乗り込もうとした。

しかしなぜか純は乗り込もうとせず、もじもじしつつ尭村の顔色を窺う。どうやら、何か言いたいことがあるようだ。それも、頼みごとの類いだろう。自分の願いや意思を伝えるのは、純にとってまだハードルが高いのだ。

尭村は立ち止まって純と向かい合い、

「ん？　どうした？」

言い出しやすいよう声を和らげて促した。こんな配慮ができる程度には、尭村もこの一年で成長したのだ。純は意を決したようにぱっと顔を上げ、

「あのっ、今日は何の日か知ってますか？」
「今日……か？」

尭村は眉をひそめて思考を巡らす。今日は1月15日。平日。以前は成人の日だったが、いつの間にか変わっていた。いや、そういうことではないのだろう。純がこう言うのだから、何かの記念日に違いない。しかし、

「初めてお前とヤッた日でもねえよな。初めてコスプレをさせた日か？　あ、この前のセックスが99回目で、今日やれば100回目とか。さすがに回数は数えてなかったな」
「ち、違います！　考えをそっちから戻してください！」
「そっちってどっちだ？　ん？」

恥ずかしさと憤慨で赤みを増した頬が可愛くて、ついねちねちと追及してしまう。純は案の定さらに赤くなって、尭村の視線から逃れるように俯いて答えた。

「だから……え、えっちなことから離れてください……」
「なんだ、そういうことじゃねえのか。なら、皆目見当がつかねえな」

尭村が正直に答えると、純は再び顔を上げ、

「今日の日付の語呂合わせから思いつきませんか？」
「語呂合わせ？　いいご、いいこ……いい子の日か？」

言いながら純の頭をいいこいいこと撫でてやると、嬉しさと恥ずかしさと子供扱いされた不満が混ざり合った複雑な表情で、純はぷるんと頭を振った。

「違います。い、ち、ご。いちごの日です！」

純には珍しくもったいぶった口調で告げると、どーだと言わんばかりに胸を張ってみせる。尭村は思わず脱力しそうになったが、どうやら純はすこぶる真剣のようだ。尭村は力なく頷いて、

「分かった分かった。お前にとっては重要な日なんだな。それで？　いちごの日には、何かしきたりみたいなものはあるのか？」
「いえ、そういうのはありません。ただ、いちごを美味しく味わうというだけで」

ここでようやく尭村はぴんときた。顔をずいと近づけ、

「つまり、俺にいちごを奢ってくれと。そういうことか」

純は小さく後ずさってあわあわと否定する。

「い、いえっ、奢ってほしいなんてそんなことは……」

尭村は冷ややかに目を細め、

「ふ…ん。ならいいぜ、俺一人で食うかな。せっかくいちごの日なんだから、奮発して高いブランドいちごでも買うとするか」

そう言ってさっさと車に乗り込もうとすると、ツンと上着を引かれた。見れば、純が切実な顔つきで上着の裾を掴んでいる。

「何だよ、離せよ」
「あのっ……ぼ、僕にもいちご……買ってくださ…ぃ……」

尭村は喉の奥でくぐもった笑いを響かせ、

「よく言えたな。ほら、行くぞ」

純の身体を抱き込むようにして、車内に連れ込んだ。






立ち寄った高級フルーツ店で、純のテンションは上がりっぱなしだった。目をらんらんと輝かせ、ガラスケースにはりついて、ブランドいちごを一途に見つめる。こういう物欲に囚われた姿は、他の人間なら浅ましく見えてしまうだろうが、純ならただ可愛いだけだ。

「うわ、紅ほっぺだ！　真っ赤でつやつやしてる～。ひゃあ、とちおとめ！　ロイヤルクイーンも甘そう～。わ、章姫ってこんなに細長いんだ」

このままいちごに萌える純を観賞してるのも悪くないが、はしゃぐ純の愛らしさに、尭村の雄の部分が早々に傍若無人を発揮し始めた。

「好きなの買ってやるから」とさりげなく急かし、言われるがまま注文して代金を支払うと、包みを嬉しそうに抱えた純を少々荒っぽく車に押し込めた。そして運転席の額賀に、とにかく家まで急げと命じる。純は何を勘違いしたのかにこにこ笑い、

「尭村さんも早く食べたいんですね～」
「ん、ああ」

早く食いたくてたまらねえよ、と声に出さず続けた。






「まずはそのまま食べて、それから練乳を掛けて食べるのが正しい順番ですよね」
「て言いながら、すでに食ってるじゃねえか」

尭村がすかさず突っ込むと、純はくすぐったそうに笑った。それから赤い粒をそっと差し出す。

「はい、尭村さんも。美味しいですよ」
「いや、俺はいい」
「え、食べないんですか？！」

驚きで無防備な半開きになった純の唇を軽く吸い、「これで十分だ」と笑えば、純はぱちぱちと瞬きしてからほんのり頬を染めた。いちごの色素が移ったかのような、艶めく紅。

思わず襲い掛かりそうになったが、さすがに今このいちごパラダイスから無理やり引き剥がすのは可哀想だと、珍しく理性がまさった。もちろん、右手で左手を、左手で右手を抑えるがごときぎりぎりの攻防だったが。

「じゃあ、そろそろ練乳～」

純は浮かれた口調でそう言いながら練乳を取り出し、いちごの上にとろとろと掛けた。そしてかぷ、と噛み付く。

「…………」

どうやら、至福を味わっているらしい。

「うまいか？」

陶酔の表情で頷く純の唇に、練乳の白い残滓。

「……おい、唇に白いの付いてんぞ」

この瞬間、尭村の声が最前からがらりと変化したことに、純は気づいていないだろう。恥ずかしそうに舌を出して、先でちろりと白いものを舐め取った。ここにおいて、尭村の中で繰り広げられていたぎりぎりの攻防に決着がついた。

「あきむ……ん、んっ……ぅ……」

新鮮な果汁とミルクの甘さ、そして唾液のとろみが混ざった口内は、まさに美味の極みだった。驚きから奥に引っ込んでいた舌をかすめるような愛撫で誘い出し、表面を強くこすり合わせれば、重ねた唇の狭間から熱く濡れた吐息がこぼれる。

その後を追うように唾液も滴り、口の中からひっきりなしに漏れ聞こえるぬめった水音もまた淫靡。最後の仕上げにと舌の付け根をあやすように舐めると、純は眉間を悩ましげに寄せて「ふぅ…ん」と綿菓子のような喘ぎを漏らした。

口づけをほどいた後も、純はしばらく放心状態で、床の上にぺたんと座り込んだまま肩を大きく上下させていた。酸素を求めてはあはあと喘ぐ口の端から、唾液の糸が伝う。

唇と同じほどに濡れた紫の瞳がふらふらと宙を彷徨うさまは、危うさと艶めかしさが混在して、さらなる陵辱の欲望に火をつけるのに十分すぎる光景だった。

尭村はその背後に回り、すっかり体温の上昇した身体を抱き締めた。純は力を抜いて、尭村の胸に背中を預けてくる。

しかし、温もりを分け合うだけで満足するつもりは毛頭ない。尭村はウエストに手を滑らせ、純の下半身を覆っているものをまとめて全て剥ぎ取った。

「……やッ！」

わずかなタイムラグは、状況を把握するのに頭が手間取ったからだろう。純は慌てて下穿きを取り返そうと手を伸ばしたが、その時にはすでに尭村が遠くへ放り投げていた。

立ち上がろうとするが、むろん無駄な足掻き。立ち上がるどころか膝を大きく開かれ、白くなめらかな内股をさらすことに。当然ながら、脚の付け根でやんわり存在を主張するピンク色の屹立も露わになった。

「あきむらさ…ん……ぱんつ、返してぇ……」

こうなった以上、いくら懇願しても無駄なことぐらい分かっているだろうに、それでも涙声で訴える純が可愛くて憎らしくて仕方ない。尭村は「返してやるよ、二時間後にな」とお決まりの台詞を黒い声で囁いて、あどけない色形を留めながらも雄々しい角度はしっかり保っている半身に指を絡めた。

軽くしごくと、太ももがびくびく蠕動し、雪花石膏の表てに淡い血色が広がる。それを丹念に視線で犯しながら、手の中で確実に硬起しつつあるものの先端を剥いてつるりとした部分を外気にさらした。そしてそこに、練乳を垂らす。白とピンク。色彩だけ見れば可愛いが、光景としては卑猥以外の何物でもない。

「ほら、お前の先っぽ、いちごみたいになったぞ。形も色も似てるだろ？」
「やだぁぁ、ちがう、いちごじゃないよぉぉ」

分かりきったことを必死の口調で告げる純に、尭村は獰猛な色の混じった笑みを向ける。そして手の中の果実にさらなる刺激を与えると、とぷとぷと溢れる愛液と練乳が混ざってほどよい濃度の潤滑油が出来上がった。

尭村はさらに純の脚を高く持ち上げて秘花を露出させてから、独自ブレンドの潤滑油を指先に取り、迷うことなく塗りつけた。

「ここ、ヒクヒクしてるぞ。ほら、指が一気に二本入った。はは、吸い込まれちまった」

粘ついた実況の声に、グチグチと襞が広げられる音がかぶさる。性器の付け根の裏側辺りを指で強めに押すと、腰がびくんびくんと跳ね上がる。と同時に白くて平らな下腹がうねうねと蠢き、その濃艶な風情に尭村は喉を鳴らした。

「そ…こ、だめぇ……イっ…ちゃうよぉ………」

眉間に皺を寄せ、快楽の暴挙に耐える表情もまた艶めかしく、押さえつけられたままの尭村の陰茎が、ぐつぐつと煮え出した。

しかしもうひとつ、やってみたいことがある。さっきから気になっている細長い形のいちご。ブランド名など忘れた。ただ、これなら入りそうだということで目に留まったのだ。

尭村は一粒手に取り、純の菊花へ。すでに根元まで埋め込み、好き放題やっている三本の指でぐっと広げると、酸素を求めて喘ぐ魚のようにひくつくそこにそっと押し込んだ。

純は「ひッ」と息を呑み、激しく頭を振って本気の抵抗を見せる。が、「動くと潰れるぞ」と一喝。赤い果実を半分ほど呑み込んだ秘弁を、円を描くようにぬるりと撫で、

「真のいちご好きなら、下の口でも味わいたいと思うはずだぞ。どうだ、ん？」

この状態で純にまともな返答ができるはずもなく、ただひくひくとしゃくり上げるだけ。それでもじっとして動かず、いちごを潰さないよう気をつけているのが分かる。

もちろん潰れずに済んでいるのは尭村が指でその部分を広げているからだが、そんな純の必死さが愛おしく、愛おしいがゆえにめちゃくちゃに犯したくなった。

あっさりいちごを抜いてから自身の前を素早く寛げ、発情の臭気をまき散らしながらぬぅっとそそり立った雄の上に、ほどよく緩んだ純のアナルを宛がい、そのままゆっくり落としてゆく。

「あ……あっ、あ、ああああーーーー！　す…ごぉ……いい……ッ」

狭くて熱い器官を押し広げてねじ込んでゆく感覚は、まさに犯すという表現が相応しい。しかし、尭村の形を覚えて久しい純のそこは、何度かこすり上げてやるだけでとろんとなった。

「あきむらさぁぁん……あっあ、ん……きもちいい……」

膝を下から抱えて上下に揺すると、宙に浮いた爪先がきゅっと丸まる。快感が全身に染み渡っているのが分かる。

「どうだ？　いちごとどっちが旨い？」
「ん、んっ……こっち……尭村さんのがおいしい」
「それはそれは。光栄だ」

囁くついでに耳を食み、耳孔を舌で舐め回してから本格的な注挿にスライドする。純の身体をがくがくと揺さぶりながら、タイミングを合わせて腹筋を使えば、二つの器官はぬちゃぬちゃ音をたててもつれ合い、途轍もない快楽を生み出した。

「く…っそ……ヤバい……」

ぬめった熱い肉が、奥へ奥へと引き込むように吸着しては締め付ける。純の首筋から匂う汗の混じった甘い体臭も蠱惑的で、股間から痛みを伴うほどの射精感が湧き上がった。

そこから絶頂までは、長い刹那。気づけば尭村は純の首筋に顔をうずめ、腰をびくびく痙攣させつつ中に放っていた。

自分の出したものが、純の中でとろりと動くのが分かる。収まりきらず結合部からにじみ出た精液が練乳に見えて、尭村は思わず苦笑を漏らした。

「純、大丈夫か？」

膝の上でくたっとなった純に声を掛けると、数秒遅れで「だいじょうぶですぅ」と返ってきた。そして背中を預けたままふわんと笑い、

「尭村さんも……おいしかった？」
「当たり前だろ。お前より旨いものなんて知らねえよ」

尭村がすかさず返すと、純はさらにふにゃあと笑み崩れ、「よかったぁ」と言ってちょんと唇を突き出した。

キスをねだる甘えた仕草に、尭村もつい顔が緩んでしまう。そして、いちご以上にみずみずしくつやつやした唇を、唇で挟み込むようにして優しく食んだ。さらに舌先をちろちろじゃれ合わせれば、当然のごとく――

「ひゃ？　尭村さ……またおっきくなって……」

入ったままのものが再びぐんっと反り返るのを、粘膜でダイレクトに感じ取ったのだろう。純は真っ赤になりつつも、「今度は顔を見ながらが……いいな」と呟いて潤んだ目で見上げ、尭村を完全にノックアウトしたのだった。






十年後――

「純、今日は何の日だ？」
「え、今日？」

尭村に問われた純は首を傾げ、

「一緒に住み始めたのは春だし、初めてえっちしたのも春だし、ええと、ええと……」

尭村は「やれやれ」と苦笑し、

「いちごの日だろ。昔は大騒ぎしてたくせに。忘れちまったのかよ」

そう言って、帰宅の途中に買っておいたいちごを差し出した。

「忘れてたくらいだから、これは要らねえか」
「いります！」

純は素早く奪い取り、一粒つまんで味わう。そして含蓄ある眼差しを尭村に向け、

「ね、成仁、練乳はいいの？」

尭村は喉の奥でくくっと笑い、

「どこに掛けて欲しいんだ？」

純は直接答えず、ただ隣に座って腰をすり寄せた。尭村は腕を回してさらに抱き寄せ、服の上から純の尻を撫で回す。

「後で、この奥にたっぷり注いで満たしてやる」
「後でじゃなくて、今がいいな。いちごは後回しで、ね？」
「お前も大人になったなあ」
「成仁こそ」

二人は顔を見合わせると、秘めやかな笑いを重ねた。

（Fin）

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