メイド日和
「それじゃ、行ってきまぁーす」
「はいはい。尭村さんに迷惑かけちゃダメよ。がんばってね」
「うんっ、がんばるよぉ」
にこにこ顔で早紀に手を振り、家を出る純。向かう先は尭村宅。早紀は「純たらはりきってるわねえ」なんて暢気なこと言ってるが、もちろん環は不安顔。
「ねえ、心配じゃないの？ あんな男の所に……」
「あらあ、尭村さんなら大丈夫よお。とてもしっかりした方だから」
何故か早紀には高評価の尭村先輩。環は不満を隠そうともせず、あれがしっかりしてるって言うならこの世から鬼畜と変態は消え去るわね、と独りごちて大仰な溜め息をついた。
途中で食材を買い込んだ純は、意気揚々と尭村家の門を叩いた。
週末は貴仁も額賀も不在で、家政婦も家の事情で暇をとっている、そう聞いた時純は小躍りして喜んだ。
休み中、尭村に温泉旅行へ連れていってもらったお礼がしたい、そう思ってうんうん唸りつつ思案していた時に耳にしたこの情報。純は一も二もなく飛び付いて、「じゃあ僕が家政婦さんやりますっ」と声高らかに立候補したのだった。
あの広い家に独りぼっちで淋しい尭村さんのために、お茶を出したりご飯を作ったりしてあげられる、そう考えたら嬉しくてわくわくして、甘えた声で「ね、いいでしょう？」とおねだりしたのだった。
対して尭村は、当初は驚いて「家政婦って、お前…」と絶句したのだが、すぐに何かを思い付いたのか「頼むよ、一人じゃ何にもできねえし」といかにも心細そうに訴えて、「はいっ」と元気いっぱい頷く純を抱き締めた。
その時尭村の顔には“いやらしい”としか形容しようのない笑いが浮かんでいたのだが、その理由について純は、のちに身をもって知ることになるだろう。
尭村はすぐに出てきた。両手に荷物の純を見て、
「けっこうな荷物だな。だから迎えに行ってやるって言ったのに」
「無免許運転はだめですっ。このくらい平気。男の子だもん」
誇らしげに胸を張る純を愛おしそうに見詰めて、中に招き入れる。どうやらこの上なく上機嫌のようで、彼にしては珍しく鼻歌混じりで純が買ってきた食材をしまい、そして自分の部屋に呼んだ。
「純、今日一日頼むぞ」
「はいっ、任せてください。何でも言い付けてくださいね」
「頼もしいな。それじゃあまず、これを着るんだ」
そう言って差し出したのは―――
「これって……ふわ、懐かしい………って、あれ？ 何で尭村さんが持ってるの？」
純のギモンも尤もだ。何故学園祭で着た（着させられた）メイド服を尭村が持っているのか。しかしその問いをうるさそうに払って「いいから着ろ」と畳み掛ける。
純はぶんぶん首を振って「やっ……やだもん……」と小声で反抗する。そしておそるおそる顔を上げると、予想通り額に翳を落とした尭村が、冷たい半目でこちらを睨んでいた。
「ほお〜、何でも言い付けてくださいと言ったそばから拒絶か。お前の言葉は本当に信用できねえな。いいぜ、これからお前の言うことなんて何ひとつ信じねえからな」
哀れ純は瞳に涙のベールを浮かべて、必死に反論する。
「ち、違うっ。あのね、僕は今日、家事をするために来たんです。だからそんなひらひらした服を着てたら、ちゃんとできない―――」
「馬鹿だな、純。いいか、このメイド服というものは、お仕着せの伝統として脈々と受け継がれているものなんだぞ。見た目はひらひらしてるかもしれねえが実は動きやすく、洗練された機能美の結晶なんだ」
「きのうび…？」
「そうだ。機能性とデザイン性、さらに耐久性まで計算されてこの形に落ち着いたんだ。それをお前、恥ずかしいから着たくないだなんて、伝統を踏みにじるような我がままを言っては駄目だ」
俯いて考え始めた純を、尭村は息を詰めて見守った。これで拒絶されたら、あとは押さえ付けて服を剥ぎ、裸とメイド服どっちがいいと脅迫するしかないだろう。が、
「―――分かりました。伝統は大事だもの。でも、笑わないでね……」
「伝統を笑うわけねえだろ」
厳かな声で答えつつも、頭の中では伝統を淫らに着崩した純が恥ずかしそうに頬を染めていたのだが。
「あ、あの……何か御用はございますか……？」
すーすーして心許ない膝をすり合わせ、もじもじと腰をくねらせて伺いをたてる。何だか学園祭で着た時よりさらにスカート丈が短くなっているような気もするが、とにかく今はメイドに徹しようと自分に言い聞かせた。
しかし尭村は何も答えず、ただこちらをじぃっと見詰めるだけ。
「あ、尭村さん……」
「ご主人様、だろ？ いや…旦那様の方がいいな。純、もう一度」
尭村の舐めるような視線は何だか恐いし、短いスカートは恥ずかしいし、純は泣き出しそうになったが使命感のお陰で何とかこらえた。
今日は尭村さんのお世話をしてあげるのがメインなのだから、着ているものなんて関係ない。そう自分を宥めて言う通りにした。
「何か御用はございますか………だ、旦那様…………」
「別に、ない」
純の使命感を嘲笑うような、余りに冷淡な答え。純を支えていた糸がぷつん、と切れた。泣くまい泣くまいと思うにつれて喉の奥が熱くなり、ついにその場で顔を覆ってしまう。
「っく………ぇっ、ぇっ………やっぱり、からかってるんだ………こんなカッコして……ヘンなやつだ、って笑って…………」
さすがに泣かれるとは思っていなかった尭村は慌てて立ち上がり、傍に駆け寄って震える肩をそっと抱く。しかし純の嗚咽は止まらない。
「ぼく……ぼくぅ………お世話してあげたいって………あきむらさん、一人でさびしいから………だから……何でもして………ふぇ、ぇぇっ………してあげたいの………お礼したいの…………」
この時、尭村はようやく気付いた。純が張り切って家政婦をやる、などと言った理由に。
「お前、あの旅行の礼がしたかったのか？」
純は両手で涙を拭いつつこくこく頷き、
「すごく……うれしくて楽しかったから……だからお礼しなくちゃって………でも、ぼく……なんにもできないから……こんなことしか………だから………ぅ、ぅぇっ、ぇ………」
尭村は無言のまま、ひらひらレースにくるまれてぷるぷる震える身体を腕の中に収めた。そしてぎゅっと力を込める。徐々に震えが収まってきたのを見て少し腕を緩め、
「そんなに、楽しかったのか？」
何度も何度も頷く純の頬を手のひらで包み込んで、上を向かせる。そして深い想いを込めて言い聞かせた。
「俺もだ。本当に楽しかった。だからそれで十分だろ？ 礼なんか要らねえんだよ。俺はお前と一緒に楽しい時間が過ごせただけで満足なんだ」
黒い瞳の真摯な輝きに浸されて、得も言われぬ甘やかな幸福感がじわじわと湧き上がってくる。純は幸せの余りどうしてよいか分からず、自分からぎゅっと抱き付いて頬を擦り付けた。
「分かったか？ だからそんな必死にならなくていいんだ」
「はい……。でもね、せっかくメイドさんの格好したんだもの、何かしたいなあ。お掃除とか、お料理とか―――」
尭村は「う〜ん」と唸って頭を巡らせた。料理といっても夕食の仕度にはまだ早いし、掃除も週一でハウスキーパーが来てるから特に汚れているところもない。だいいち、純にそんなことさせたくはない。
もともと、家政婦だなんて言って純を呼んだのはメイドの格好をさせるためで、ふわふわミニスカートにエプロンをした純が、ちょこまか動き回るのを眺めているだけで大満足だったのだ。さすが、変態の真骨頂。
「やっぱり……僕にできることは何にもないんだ…………」
再び落ち込んで項垂れる純。尭村は少し慌てて、
「そうだな、あの窓。ぴかぴかにしてもらえるか？」
途端に純は笑顔全開で「はいっ」と元気よく答える。そして教えてもらった場所に雑巾を取りに行き、早速窓磨きを始めた。
「んしょ、んしょ……」
そこはリビングとテラスに挟まれた大きな窓。純は床に膝を着いて、窓拭き専用の洗剤を吹き掛ける。そして乾いた布でキュッキュッとこすると、あっという間にぴかぴかに。
純は夢中になる余り、後ろに尭村がいるのも忘れて四つん這いになり、下の方を磨き始めた。必然的に尭村の視界では、白いペチコートの裾から覗く艶めかしい太ももが、窓を磨く動きに合わせてぷるぷると震える。早く食べて、と言わんばかりに。
―――これを食わねば男の恥、だよな
などと身勝手なモノローグを喉の奥で転がしつつ、尭村は立ち上がって純の真後ろに膝を着き、スカートの中に手を突っ込んで有無を言わさず下着をずり下ろした。
「ひゃあぁん」
純は驚きの余りぺたん、と座り込む。しかし尭村に無理やり起き上がらせられ、膝まで下ろされたパンツをするすると引き抜かれてしまった。
「や、やだ……返してよぉ………」
スカートの裾を押さえてもじもじしつつ、真っ赤な顔で催促する。対して尭村は冷たい顔付きで窓を指差し、
「まだ終わってねえだろ？ 途中で仕事を投げ出すなんてメイド失格だぞ」
純はパンツを返してもらうべきか窓拭きを続行するべきか悩んだが（悩むなよっ、とツッコミたくなるが）、また信用できないなどと言われるのは嫌だと思って大人しく窓拭きを再開した。しかし―――
「やだぁ………ァ、ン………やめ…てぇ………」
「どうした？ 窓拭くだけなのにそんな色っぽい声出して」
しれっとした口調で訊きながら、手のひらに伝わる滑らかさ、温もり、弾力性を愉しむ。スカートの裾はもちろん捲り上げられ、尭村の大きな手にふにふにと揉みしだかれた双丘は、羞恥のゆえか桃色に染まっていた。
「おら、ちゃんと拭けよ」
厳しく命令しつつ、尻たぶを掴んでぐいと割り開いた。
「やだやだッ、ばかぁ……」
涙を浮かべて抗議しながらも、窓を拭く手は止めない。メイドとしての使命感がそうさせるのか、ともかくちゃんと力を入れて磨き続けた。
しかし、尭村の不埒な手が前に回り、ちぢこまったペニスをゆるりと掴むとさすがに手は止まり、腰をひねって逃れようとした。
が、無駄な足掻きであることは一目瞭然。窓に押さえ付けられたまま、いいように可愛がられてしまう。
「あふっ……ふぅ、ん………やぁん……」
濡れた唇から漏れる熱い吐息が窓にかかり、白く淡く曇る。尭村は赤く染まった耳に舌を挿し込んでねっとりとなぶり、「ほら、窓拭きはどうした…」と囁く。すると純は雑巾を握った手をぴく、ぴく、と動かして磨こうとした。
そんな一途さが可愛くて、ますます虐めたくなってしまう。まずは手のひらの中で熱く脈打ちながら硬くなり始めた半身を少し強めに扱いて、愛液を搾り出した。
そしてその蜜状にとろける液体を指先ですくって固くすぼまった蕾に塗り付け、そのまま指をねじりつつ埋め込んでいった。
「いやぁ……やあぁぁ…………」
突然の異物感に声を上げ、腰を引こうとする純。尭村はすかさず片手で引き戻して、自分の膝を純の膝の内側に差し込む。そしてぐっと割り開いた。
すると、指を根元まで呑み込んだ秘孔がひくひくと恥ずかしそうに悶えるのがよく見えた。ごくりと喉を鳴らした尭村は、指をぐりぐり回してまだ固い蕾をほぐし、タイミングを見てもう一本指を挿入した。たぷたぷと音をたてて掻き回しながら、
「純、今お前の中に何本入ってる？」
「ぁ…ん、しらない………しらないもん…………」
「なるほど、これじゃあよく分からねえか。ならこれでどうだ？」
指をばらばらに動かして襞をこすり上げ、奥のささやかな膨らみをそっと掠める。案の定、純は背中を反らして「きゃんっ」と鳴き、ふにふにと啜り泣きを始めた。
「ほら、何本だ？」
「ふぇぇ………ぇっ……にほん……二本入ってるの…………」
尭村は「よくできました」と言って、ご褒美のつもりなのか急所を巧みに攻め始めた。
「やあっ、ああっ、だめ、も…だめぇぇ…………」
溢れた愛液が幹と双玉を伝って滴り、綻びかけた蕾に降りかかる。指を出し入れするたびにぐちゃぐちゃと音をたてて蜜が弾け、飛び散って、太ももやニーソックスに細かな染みを作った。
「ああっ、ああん……だめ……ソコだめぇ…………」
純の手からついに雑巾が滑り落ちた。そのまま窓に爪を立て、腰をぬめぬめと振って尭村の情欲を煽る。
「なんだ……もう窓拭きは終わりか………？」
荒く熱い息の奥から精一杯皮肉めいた声を出して、何とか優位を保とうとする。しかし窓に胸を押し付けて腰を高く上げ、くいっ、くいっ、と上下に揺らして艶めく誘いをかける純に、尭村は敗北の実感を噛み締めた。
張り詰めた前は、ジッパーを押し上げてビクビク蠢いている。もう少し待てよと逸る自身を宥めて、奥を抉る指に力を入れた。
「きゃふっ………ぅぁっ……ぁっ、ぁっ………ぃゃぁぁぁ…………」
きゅぅっと後ろがすぼまったと思ったら、小刻みに腰を震わせて射精した。勢いよく放出された白濁は全て窓にかかり、微かな湯気をあげつつとろとろと滑り落ちた。
ぺたん、と床に座り込んだ純は、その生々しい痕跡をぼぅっと眺めていたが、すぐに我に返ってえぐえぐ泣き始めた。
「ごめ……ごめ…なさい………窓……よごしちゃった…………」
捲くり上がったスカートの奥からぐしょぐしょに濡れた股間を晒して、目をこすりながら泣くメイド。しかも窓にはたった今放った精液。これを目眩く倒錯と呼ばずして、何と呼ぼうか。
「ひゃッ―――」
尭村は宥めるのも忘れて純を抱き上げ、ソファの上に投げ出した。そして足首を掴んで大きく広げ、
「この淫乱なメイドを……どうしてやろうか………」
「ごめんなさぁい………ゆるして………」
紅く熟した花唇にぬるぬると指を這わせて嫌らしく問う。
「また指がいいか？ それとも―――」
純は脚をひくんと震わせて悶えつつも、
「ゆびはいや……尭村さ……旦那様の……太いので犯してくださ―――」
言い終わるより先に、尭村は前を解放してカチカチに反り返ったモノを掴み、幾重にも重なったペチコートの奥から甘い誘惑を仕掛ける秘部にずぶずぶと押し込んでいった。
「あああぁ…………はぅ、ふ……ぅ、ン………イイ………もっと…………」
純も腰を跳ね上げて応え、自分を犯している雄をさらに深く咥え込もうとする。尭村は腰を緩めに使いながら、ブラウスのボタンに手を伸ばしてプチプチと外していった。
三段レースのブラウスの下から覗く白い肌に指を滑らせ、ツンと勃ち上がった乳首を指でクリクリ捏ね回す。さらにブラウスを大きく肌蹴てワンピーススカートの胸当てをずり下ろすと、ぴょこんと桜色の乳首が飛び出してきた。
密かに夢見ていた以上の艶姿に、突き刺した雄の鼓動も質量もぐんぐん増してゆく。
「んぁっ……ぁぁ………すご…すごいの……あきむらさぁん…………」
旦那様だろ、と指摘する余裕はもはやなかった。クチャクチャと音をたてて喘ぐ結合部は灼けるように熱く、出し入れするたびにきゅっきゅっと絡み付く襞が途轍もない快感を植え付ける。
「純ッ……今日は覚悟しろよ………一日俺の言うなりだからな………」
いつも言うなりだもん、という反論は、喉の奥で蕩けてしまった。代わりに「あぁん」と甘く悶えて、徐々に激しさを増す尭村の腰に脚をぎゅうっと巻き付けたのだった―――
で、結局どうなったかと言うと―――
「純、飯ができたぞ。起き上がれるか？」
「はぁい……んと……だいじょうぶですぅ………」
「馬鹿。無理すんなよ。まだ辛いだろ？ ほら、俺に掴まってゆっくり起きるんだ」
言われた通り尭村の首に腕を回し、ゆっくり起こしてもらう。そして尭村が作ってくれたとろけるホワイトシチューに目を輝かせ、
「うわぁ……美味しそう………」
「だろ？ ああ、ちょっと待て。このままじゃ熱いぞ。冷ましてやるから」
「尭村さぁん、早く、早くぅ。お腹すいたの〜〜」
「わかったわかった。まったくお前は………」
などと言いつつ、でれでれと目尻を下げて食べさせてやる。そして、
「食ったら風呂に入れてやるからな。その後は映画でも観るか。DVD借りてきたから―――」
「嫌っ。尭村さん怖いの見せようとするんだもん」
「へえへえ。お前に合わせてディズニー借りてきたから。あの不気味な魚のやつ」
「わーい、ニモだぁ。じゃあ観るっ」
純はにこにこ笑いつつも、尭村にシチューを食べさせてもらう。完全に当初の目的を忘れている二人だったが、
「ほら、ニンジンも小さく切っておいたぞ。これなら食えるだろ？」
「はぁーい」
何だか幸せそうだから、まあこれでいいのだろう、きっと。
（Fin）
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