REUNION
１３.＜最終話＞
薔薇の東屋で繰り広げられる痴態は、薔薇の香気より甘く花弁の手触りより艶めかしい。荒々しい愛撫により衣を乱され、火照った柔肌を薄闇に晒す瑠羽は、濡れた喘ぎをこぼしつつ四肢を駆け巡る快感に耐えていた。
お仕置きなのだから当然と言わんばかりに、勃ち上がりつつある瑠羽自身の根元にリングをはめた遼牙は、柔らかな身体を背後から抱いて脚を大きく開かせ、蜜塗れの股間を好きなように嬲っていた。
両手の人差し指を蕾に埋め込んでぐりぐりと掻き回し、興奮のため厚みを増した花びらを指で挟んでこする。そのたびに瑠羽は切ない鳴き声を上げて、必死に許しを乞うた。
しかし遼牙は陵辱の手を止めず、それどころかわざと指使いを激しくしてたぷたぷと嫌らしい音を弾かせた。
「すごいな……お前の蜜が滴って、私の上着がぐしょぐしょになってしまったぞ。これ以上汚されては困る。蜜を出すのをやめなさい」
そんなことできないと分かっていながら、遼牙は厳しい口調で無理難題をふっかける。もちろん、そのあとの瑠羽の反応が余りに可愛いから虐めてしまうだけのことで。
瑠羽は真っ赤な顔でうんうん唸った挙句、
「ごめ…なさぁい………とまらないの………ふぇっ、ぇっ…………いっぱい……出てきちゃうの…………」
「瑠羽は私の言い付けに従えないのか？ そんないやらしい蜜をたくさん出して………ああ、また出てきた」
言いながら遼牙は、埋め込んだ指で奥の膨らみをクリ、とこする。瑠羽は悲鳴を上げて首を振り、
「やだああぁぁ………奥をクリッてしちゃいやぁぁ…………」
いやと言いつつも、腰をひくひくと跳ね上げて遼牙の指を奥へ誘う。しかも指先に尋常でない熱と蠢きが伝わって、さすがに遼牙も我慢の限界を感じた。
ずるずると指を引き抜いて前を寛げ、別人格が宿っているかと錯覚するほど凶暴なオーラを放つ陰茎を瑠羽の潤みに宛がった。
「瑠羽、そのまま腰をゆっくり落としなさい。そう、ゆっくり………」
痺れるような快感に翻弄されつつも、言い付けに従って腰を下ろす。蕾の入口に熱い鼓動を感じて、瑠羽は喉をひくん、とふるわせた。
この後どんな刺激に、暴力的な電流に襲われるか知りすぎている瑠羽であったが、もちろんここで止めるわけにはいかない。遼牙の言葉通り、ゆっくりと腰を沈めていった。
「ぅぁ…………ァ…ン…………んんっ……………」
「るう……まだだ……もっと、深く…………」
グプグプ……と粘液の絡み合う音をこぼしつつ、遼牙自身が瑠羽の中に侵入してゆく。そしてついに根元まで収まり、深く繋がったまま遼牙の上に座る姿勢になった。
しかし遼牙は腰を揺らして打ち付けようとはせず、前に回した手で瑠羽の半身にいたずらを仕掛ける。するとそれに反応して、遼牙を包み込む肉の壁がうねり、悶え、注挿によるものと変わらぬ快楽を植え込んだ。
遼牙は喉の奥で低く呻きつつ、瑠羽の蜜壷をじっくり堪能する。
「ァ………ァ………りょ…きさま……もぅ……………」
「もう、なんだ…？ ん？」
「もぉ………だめ…ですぅぅ…………」
「欲しい……のか……？」
瑠羽は何度も何度も頷く。確かに腕の中の身体は焼きたてのシフォンケーキのように熱くふわふわで、甘い馥りを放ち、力を入れて抱き締めたらしゅわしゅわっと蕩けてしまいそうだった。瑠羽の限界が近いことが分かる。
「では瑠羽、望み通り奥を掻き回してあげよう。その代わり、少し腰を浮かして見せてくれ。お前と私が繋がっている部分をじっくり見てみたい」
瑠羽はふわんと頷いてテーブルに手を付き、お尻を浮かせた。遼牙はすかさず腰を抱えて、緩やかな注挿を始めた。
紅く充血して微かに腫れ上がった襞が押し込まれたり引き出されたりという艶めく光景が、遼牙のすぐ目の前で繰り広げられる。
「ああ……薔薇よりずっと綺麗な瑠羽の花びらがよく見える。薔薇も嫉妬しているぞ」
太い楔にぬめりを帯びて絡み付く花びらを指でざらりと撫でると、瑠羽は背中を反らせて「くふぅん…」と鳴いた。
その愛らしい反応を目を細めて賞翫した遼牙は、徐々に腰の動きを早めて瑠羽をさらなる高みへ導こうとした。
「ぁっ………ぁぁ………ふぁっ、ぁっ、ぁっ………りょ…きさまぁぁ………」
ぬちゃぬちゃと淫音を漏らす結合部の熱がさらに上昇を始め、宙に浮いた瑠羽の足は爪先まで反り返り、時折ビク、ビク、と痙攣する。その不安定な足を自分の両脇に付かせて腰を抱え直し、遼牙は激しい突き上げを始めた。
「ああっ、ああん、いやああッ…………」
目眩く快楽に今にも囚われそうになったその時、ぱふ、という音と共に瑠羽の背中から小さな羽が飛び出した。
「おやおや、何やら可愛いものが生まれたぞ」
遼牙は嬉しくてたまらない様子で、突き上げを止めぬまま生まれたての羽にそっと指をうずめた。それは温かくてふわふわで、遼牙の律動に合わせてぴく、ぴく、とはためく。
そのまま指を滑らせて羽の付け根を愛撫すると、瑠羽は嬌然と悲鳴を上げて啜り泣きをこぼした。そう、ここも蕾の奥やペニスと同様、瑠羽の性感帯なのだ。
「やあああぁぁ……りょうきさま、りょうきさまぁっ…………」
「達くか？ 瑠羽………」
「んっ、イク、イクのぉ………」
言葉だけでなく、背中の羽をぱたた、と震わせて答える瑠羽。
「可愛い羽を見せてくれたからな、お仕置きはここまでにしてやろう」
股間に手を回して根元のリングを外し、素早く腰を抱え直してガツガツと突き上げる。
「キャアアアアッ、あっ、あふっ、ぅっ………ふぅっ…ん………イイ、もっとしてぇ……………」
テーブルにかりかりと爪を立て、真っ白な羽をぷるぷる震わせ、涙声でおねだりする瑠羽に、遼牙は四肢が灼け付くような愛しさを覚えた。
「私は……お前だけのものだよ…………」
そして奥の玉座を角度をつけて抉ると、瑠羽は悲鳴を上げて腰を痙攣させ、白い液体をぴゅっ、ぴゅっと飛ばした。
「はぁ………ぁ…ぁぁ…ん………ん……………」
同時に放ったにもかかわらず、瑠羽が放出を終えてもまだ、遼牙は腰を揺らして奥へ注ぎ込んでいた。
「ぁぁ…………すごいの……りょうきさまぁ…………」
ようやく全て注ぎ終えた遼牙は、抜く気配すら見せずそのまま自分の上に座らせて、後ろからぎゅっと抱き締めた。
すると小さな羽が遼牙の胸に押されて潰れ、そこから熱気を帯びた芳気がふわんとたちのぼった。思わず夢見心地になるが、慌てて身体を離して謝った。
「すまない、瑠羽。痛くなかったか？」
「ふえ？ どこが…ですか？」
「今、羽を潰してしまった。大丈夫だったかな？」
瑠羽は目をぱちぱちさせてからふふっと笑い、
「はぁい、痛くないですぅ……」
遼牙を安心させるため、ちっちゃな羽を元気よくぱたぱたさせてみせた。その無邪気な仕草の愛らしさに、鎮まったばかりの雄が再び激しい食欲を見せ始めた。
「ふぁっ、ぁっ………りょうきさま……ぁ、ん………」
「ん？ どうしたのだ、瑠羽………」
「お尻の奥が……どくん、どくん、ってゆってますぅ…………」
遼牙は「それはそれは」とまるで他人事のように答えると、瑠羽の膝裏を後ろから抱えて上下に揺らし、自分も腰を突き上げて座ったまま注挿を始めた。
「ひぁっ、ぁ……ん、も…やぁぁ…………」
嫌と言いつつも股間の宝物は一途な反応を見せる。ピク、ピク、と恥ずかしそうに揺れながら、あっという間に天を向いた。さらに先端からぷぅっと透明の雫が現れ、とろとろと滑り落ちた。さらにひとつ、またひとつ。
「まったくお前は………どこまで私を虜にしたら気が済むのだ………」
際限なく溺れてしまう自分の不甲斐なさを瑠羽のせいにして、遼牙は苛立ちすら感じられる言葉を吐き出す。次から次へと瑠羽の愛液が滴って、結合部は再びクチャクチャと喘ぎを漏らし始めた。
「んんっ……だめ、だめぇぇ…………」
「何が……駄目なのだ？」
「ここで……イッちゃだめだもんっ………お花にかかっちゃうよぉ………」
確かに、先刻はテーブルに掛かってとろとろ滴り落ちたが、今の体勢だと二人を囲む薔薇の花たちに掛かってしまうかもしれない。
「お花……汚しちゃうよお……………」
遼牙の激しい突き上げを受けながら、えぐえぐ泣き出す瑠羽。その耳許に唇を寄せて、
「汚すだなんてとんでもない。花も瑠羽の甘い甘い蜜を掛けられて、きっと悦ぶに違いないぞ……」
「んっ…く………ほん…と………？」
「ああ。だから気にせず気持ちよくなりなさい、さあ」
遼牙は腰をひねりながら瑠羽の奥を掻き回し、遼牙しか知らぬ秘密のポイントを巧みに刺激した。
瑠羽はたちまち喉を反らせて艶めかしく鳴き、そして真っ赤に膨れた先端から白く細い放物線を描いてみせた。
「おお、あんな所まで飛んだ。瑠羽は元気いっぱいだな。よしよし、いい子だ」
紅い花弁に滴る白い雫を満足げに眺めて、遼牙ももうひとつの花の奥に先刻と変わらぬ熱さ、激しさで劣情を注ぎ込んだ。
日が沈み、ようやく本格的な闇が広がり始めた時間だというのに、テラスで寄り添う二人の身体はすでに心地よい倦怠に包まれていた。
薔薇の東屋で幾度も交わり、濃厚な精を捧げ合った遼牙と瑠羽は、その甘美な余韻に浸りつつうっとりと抱き合っていた。
「んん………りょ…きさまぁ…………」
遼牙の胸の中で極上の微睡みと戯れながら、瑠羽はさらに両手を伸ばして甘えてみせる。遼牙は「大きな赤ん坊だな」などと呆れたように言いつつも、腰に腕を回してさらに身体を密着させ、おでこや耳についばむようなキスを繰り返す。
冴えた三日月も隙のない闇も、ふにゃふにゃと蕩けてしまいそうなほどの甘い睦み合い。だから遼牙がその問いを口にしたのも、そんな戯れの延長に過ぎなかった。
「瑠羽よ、これで私の疑いは晴れたが、お前はどうなのだ？ 青琳に閨務めを求められたりはしなかったのか？」
もし力づくで瑠羽を抱いていたら、あの男のことだから勝ち誇った笑みと思わせぶりな口調で得意気に言い触らすに決まっている。それに瑠羽だって、自分に黙っていられるはずがない。
そう考えていた遼牙が、本気でその可能性を危惧して問い質すわけがない。ちょっとした意地悪、瑠羽を困らせて真っ赤に膨れた頬が見たい、そんな軽い気持ちで口にしたに過ぎなかったのだ。しかし―――
「あ………僕……ぼく…………」
途端に瑠羽は蒼褪め、遼牙の腕の中で哀れなほどちぢこまってカタカタ震え出した。戯れの甘さをそのまま反映して緩みきっていた遼牙の表情は、見事なまでに豹変した。
「まさか………瑠羽っ、どうなのだ、正直に言いなさいッ」
「ごめ…なさい………ぼく…………」
「謝るのは後だっ、あの男に何をされた？！ 言うんだッ」
雷鳴のごとき怒声は瑠羽の皮膚を粟立たせ、内臓を鷲掴みし、四肢を強張らせた。
瑠羽は恐怖と不安のせいか、言葉を拒絶するように上顎にぺったり張り付いてしまった舌を必死に動かして、
「お尻を………ぅっ…く………ゆび…で………それから……ヘンなのみものを………ふぇ、ぇっ…………」
「なん…だとぉ………？」
「むりやり……飲ませられて………ぅぇ、ぇっ…………そしたら………からだの中があつくなって………むじゅむじゅして………おしりの奥がじんじんして………それで、それで…………」
あの時の記憶と今の遼牙の怒り、二つの脅威に晒されて、瑠羽はとうとう泣き出した。しかし遼牙は宥めてやる余裕もないのか、ぎりぎりと歯噛みしてさらに厳しく追及する。
「それでどうしたのだッ。あの男に抱かれたのかっ」
瑠羽は首がちぎれるほどぶんぶん振って、必死に否定する。
「しないもん、ぼくっ。遼牙さま以外のひとはいやあッ」
遼牙はほんの少し怒りを収めて、震える指で瑠羽の涙を拭った。瑠羽がしていないと言うのなら、それは事実だろう。この純真無垢な子が、自分に対して嘘をつけるとは思わない。しかし―――
「お前の言う変な飲み物、それは恐らく媚薬の類いだろう」
「び…やく……？」
聞き慣れぬ言葉に、瑠羽はくしゅくしゅと鼻をすすり上げながら首を傾げる。
「そうだ。それを飲んだ者を興奮させ、淫らな気持ちにさせる薬。一般の民にも流布してはいるが、王族である青琳が所有するものならばよほど強力なものに違いない。それを飲まされて、お前が耐えられるとは思えん。瑠羽よ、正直に言いなさい。本当にあの男と閨を共にしてはいないのか？」
涙で曇った瞳の向こうから一途な眼差しを向け、ひたすら頭を振り続ける瑠羽。信じよう、信じたい。だが―――
「では、どうやって耐えたのだ。身体の奥から湧き上がる熱を、疼きを」
「真朱が……まそおがね………消してくれたの……だからぼく…………」
初めて聞く名前に、遼牙は敏感に反応した。無理もない。瑠羽の口から、自分の知らぬ男の名が出てきたのだ。心穏やかに対応できるはずがない。
「誰だそれはっ」
「わ、わかんない………真っ赤な目でね………か、かどーしゅでね………それで……えと……えと…………」
遼牙は、身体中の血が音をたてて凍る感覚を味わった。瑠羽の口から出た言葉。
「カドゥーシュ、だと……？」
しかし瑠羽は自分の言葉が与えた影響にも気付かず、何とか遼牙に分かってもらおうとたどたどしく説明を続ける。
「ぼくの……お父さんを知っててね……それで翼が黒くてね―――」
「瑠羽ッ」
瑠羽の言葉を鋭く遮って、その肩を強く掴んで揺さぶった。
「お前はその男に会ったのかッ？」
ぎりぎりと掴まれた肩が痛かったけれど、瑠羽は何とか堪えて頷いた。
「その男はお前に何と言った」
「また……近いうちに会うだろう、と………お父さんやお母さんのことを聞かせてくれる、って―――」
「駄目だッ。いいか瑠羽、会ってはならん、その男には決して会っては――」
「それはできませんね」
遼牙は素早く瑠羽を腕の中に収め、声のした方を、つまりは頭上を睨んだ。
「お前はっ………」
奈落の常闇を想わせる黒き翼を悠然と波打たせ、音もなく遼牙の眼前に降臨する。そして紅い虹彩をすっと絞って妖艶な笑みを向け、
「紫衛那王、はじめまして。俺の名は真朱。火の塔を司る一族の長。つまり……」
遼牙から視線を逸らさず、一歩、また一歩と近付く。
「神聖高位魔族です。………瑠羽と同じ」
遼牙もまた、真朱から目を逸らさず堂々と見返した。頭の中が徐々に冴え渡り、四肢に力が漲るのが手に取るように分かる。
いつかはこういう時が来るに違いない―――瑠羽の守護天使の名を知った時点で、すでに予感はしていたのだ。
「それはそれは。炎の天使ハスマルや闇の情婦ベイバロンの庇護を受けし炎帝が、この私に何用かな」
遼牙はゆったりと微笑みつつも拳に気を溜め、その肉体を鞘として身中深く収めている龍舌刀を召喚した―――
（Fin）
＊読了ありがとうございました。
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