―小さな花屋のその後―
５.
「お……にいちゃん……？」
あっという間に全裸にされた優里は隆矢の豹変に思考が付いてゆけず、ぽわんと口を開けて見上げるばかり。その間に隆矢は自分の着ているものを全て脱ぎ捨て、勢いよく覆いかぶさって優里の唇に噛み付いた。
チュクチュクと音をたてながら舌を絡め唾液を注ぎ、そうしながらも乳首を乳輪ごとつまんでクリクリ捏ね回した。
「んぅっ、んっ、ん…………」
口を塞がれたままの優里は腰をびくんびくんと跳ね上げて、快感に裏打ちされた痛みを訴える。するとぐしょぐしょに濡れた股間が隆矢の茂みにぶつかって、ぬるりと滑った。
その余りに淫猥な感触に反応したのは優里だけではなかった。隆矢も思わず喉の奥で呻き、唇を離して深く息を吐いた。
視線を下方にずらすと、大きさも色も光沢も違う二つのモノが触れ合って震えているのが見える。隆矢は手を伸ばしてまとめて掴み、ぐりぐりとこすり合わせた。
途端に下肢が麻痺しそうなほどの電流が生じて、慌てて腹の底に力を入れる。突然の刺激に優里も対処しきれず、切ない悲鳴を上げて隆矢にしがみ付いた。
「なあ……分かる…か？ 俺とお前のアレが、ぎゅっと抱き合ってんだぜ」
「んっ、ん………わか…るぅ……でも、でも………ああ…………」
二つまとめてゆったりと上下に扱く。すると優里もそれに合わせて腰を振り始めた。
無意識の反射なのだろうが、その動きの淫らさ、快感に耐える表情の艶めかしさはとても正視に堪えるものではなく、隆矢はついに目を閉じて頭を振った。
駄目だ、もう限界だ。これ以上我慢したら………気が触れてしまう。
「優里、もう一度言う。お前とひとつになりたい」
「おにいちゃま……」
「最初は痛くて苦しいぞ。それでも―――」
言い終わるより早く、優里が身体を起こして抱き付いてきた。
「だいすき、隆矢お兄ちゃん………」
「……っく…………」
不覚にも泣き出しそうになり、隆矢は喉をぐっと締める。恥ずかしがりやで臆病で繊細な優里が、自分を信頼して全てを委ねてくれたのだ。震える声で、
「俺もだ、優里。愛してる………」
いつか言おうと思っていた。ありきたりだけど特別な、不思議な矛盾を孕んだ言葉。隆矢はそれを迷うことなく捧げて、優里の身体をそっと押し倒した。そして脚を持ち上げて身体を二つ折りにすると、優里の秘部が露わになった。
散々指で蕩かしたそこはぐじゅぐじゅに濡れて紅く潤み、密林に咲く花のように蠱惑的。清らかな白い肌との鮮やかすぎる対照に獣の本能を揺さぶられた隆矢は、まさに鬼気迫るといった勢いで天井を睨んでいる自身を掴んで蜜塗れの花芯に宛がった。そしてうねる襞を掻き分けつつゆっくり押し込んでゆく。
「ヒィッ……ぃ、ぃぁ、ぁ、ぁ…………」
「ゆう…り……締めすぎだ、力抜けっ」
瞬きもせず、濡れた瞳で一心不乱に隆矢を見つめる優里。隆矢の言葉が届いていないのは明らかだった。
まだほんの先端部分しか含ませていないのに、不穏な熱気を孕んだ異物に恐れをなした優里の秘部はぎゅっと締め付けて奥へ進ませまいとする。
隆矢はいったん腰を止め、やや萎えかけていた優里の性器を巧みに扱いた。その快感に緩んだ隙を逃さず、再び腰をずいっと進めて最も太い部分を埋め込んだ。
「ぁ……ぁ、ぁ………おにい…ちゃ…………」
大きく見開いた双眸からはらはらと涙を流す儚い風情に、一瞬心が痛む。しかしここでやめるわけにはいかない。隆矢はひゅっと息を吸って、ずぶずぶと奥まで貫いた。
「やああああッ、あ、あっ、あ…………」
激しく腰が跳ね、先端からはとぷとぷと蜜が溢れる。
「ゆ…り………すげ…え………」
ついさっきまで処女のように頑なだった肉壁が、老獪な触手に豹変した。うねうねと蠕動しつつ精査するように絡み付いて、もっと激しく、もっと深くと催促する。
「優里……痛い、か？」
痛くないわけがないことは分かっている。そもそもこういうことに使う場所ではないのだ。でも訊かずにはいられなかった。今さら「痛い」と言われても、やめることなどできないと分かっているのに。
こういう中途半端な優しさを見せてしまう自分に嫌悪を覚えつつ、それでも隆矢は「ごめんな…」と謝った。が、
「ん……ちょっと痛い、けど……うれしい。おにいちゃまがいるの。僕の中で、とくんとくんってゆってるの…………」
そう言って幸せそうに微笑む優里を見た瞬間、隆矢の胸腔に熱い奔流が流れ込んだ。今度は抑えることができず、瞳からぽつぽつと温かい涙が溢れてゆく。
「優里、ありがとう………ありがとう………」
これ以外の言葉が見つからない。何度も何度も傷付けて、しかもこんな辛い行為を強いている自分に対し、揺るぎない愛情を捧げてくれる。
「おにいちゃん、泣かないでっ…………ね？ 僕は大丈夫、大丈夫だから―――」
「……だから？」
「………続き、して？」
隆矢は晴れやかに笑って「愛してる」と囁くと、ゆったりとしたストロークで優里の奥を穿ち始めた。
ぬちゃ、ぬちゃ、という粘着質な音に呆気なく煽られ、気付いた時には腰をがくがく揺らして上から打ち込んでいた。
「きゃあん、あッ、ああん、あん、ソコ、ソコいやあああ………」
シーツにしがみ付き、髪を振り乱して嬌然と鳴く優里の艶姿に、隆矢はこれまで感じたことのない劣情の高まりを覚える。
恐ろしい。やはり愛情と狂気は紙一重なのか―――
「優里ッ、優里ぃッ」
「おにいちゃん、おにいちゃぁん…………ァッ、やああああぁぁ…………」
「うっ……ぐ、ぅ…………」
ぎりぎりに押し込んだまま腰を小刻みに揺らし、優里の奥にどぷどぷと注ぎ込む。ほぼ同時に達した優里の粘膜は激しく収縮し、隆矢の精の最後の一滴まで残さず搾り取った。
「ふぁ…ん…ぁ、ふ……ぅ………」
優里は腰をひくんひくんと跳ね上げて、自分の胸に白い飛沫を降らせる。それがとろとろと流れて首筋を舐め、シーツに吸い込まれていった。
「はは……すんげえ出た………」
隆矢は深い満足感をにじませてそう呟くと、腰を引いて自身を引き抜いた。するとぐぶ、とこもった水音と共に濃厚な精液が溢れ出て、優里の太ももや腹を濡らしてゆく。
それを目にした瞬間、ずきんと股間に痛みが走り、あっという間に再び勃起した。
「ああ……一回で収まるはずねえよな………」
隆矢はこれから始まる長い長い夜を予感した―――
―――胸にかかるさらさらの髪が心地よい。指を挿し込んでそっと撫でてやると、「んっ…」と鼻にかかる吐息を漏らし、
「おにいちゃまぁ………それゆうりのプリンなの………」
「ぶっ」
そういえば、小さい頃よくプリンの取り合いをしたよなと思い出した隆矢は、耳に唇を寄せて、
「優里、プリン食っちまうぞぉ」
すると優里は険しく眉根を寄せて「だめっ」と叫び、その声に弾かれるようにぱちっと目を開けた。
「おはよう、優里」
「おにいちゃま……えと、えと………」
目をくるくるさせて戸惑う優里の唇にぷちゅ、とキスを落とし、そのまま華奢な身体を抱き寄せた。素肌の触れ合う感触に眩暈にも似た幸福感を覚えて、深く息をつく。
「おにいちゃまの身体、あったかい………」
優里も恥ずかしがることなく、積極的に肌をすり寄せてはうっとりと呟く。悪魔に魂を売った男が時よ止まれと言いたくなるのは、きっとこんな瞬間だろう。
「優里、身体は大丈夫か？ どこか…痛いところはないか？」
優里はぽっと頬を染めつつもはっきりした口調で「大丈夫」と答える。が、すぐにもじもじして、
「まだ……あの……おにいちゃまが中にいるみたいな感じはあるけど……」
スマートな男なら、「ばぁか」と笑って額をコツン、とやるのかもしれない。しかし隆矢はカチンと硬直し、生々しい音をたてて唾を呑み込んだ。
―――優里っ、お前は可愛すぎるぞっ
そんな内心の騒擾を覚られまいと、わざとらしい空咳を繰り返してから年上の威厳を演出する低い声で、、
「そ、そうか…うむ。初めてだからな。まだ慣れないんだろう。優里、気持ち悪かったら風呂に浸かって―――」
「ううん。へいき。おにいちゃまとひとつになれた証なんだよ。気持ち悪いわけないよ。すっごく…嬉しいの。だから―――」
自ら脚を絡ませてゆったりとこすり付け、
「もう少し……こうさせていて。ね……？」
「うっ……ゆうりぃ………」
年上の威厳、崩壊。隆矢はへにょへにょに目尻を下げて、優里の顔や肩に柔らかなキスをいくつも落とした。
その時、キャビネットの上に置かれたくまのキーホルダーが目に入った。隆矢は嬉しそうに目を細め、
「優里、鍵ありがとな……」
優里はぴくんと肩を震わせておそるおそる顔を上げ、
「受け取って……くれるの？ 迷惑じゃない？」
「ばか。なんで迷惑なんだよ。こんな……嬉しい贈り物は初めてだ」
隆矢の言葉に勇気を得た優里は、それでも怯えた口調で「もう怒ってない…？」と訊ねる。隆矢は抱き締める腕に力を込めて、
「怒ってたわけじゃない。嫉妬しただけだ。嫉妬と不安。お前を……あの男に取られるんじゃないかと」
我ながら情けない言い草だと思ったが、隆矢は正直に伝えた。すると優里は少し考えた挙句、
「でもね、お兄ちゃんに鍵を渡すよう背中を押してくれたのは有栖川さんなんだよ」
「えっ？」
「迷惑かもって悩んでた僕に、そんなことないよって、きっと喜んでくれるから渡しなさいって言ってくれたの。だから僕……」
隆矢は思わず額を押さえて、「大人の余裕かよ…」と呟く。しかしすぐに自分の言葉を否定した。
―――いや、違うな……そうじゃない……
有栖川は、優里のことを心から愛しているのだ。優里に幸せになって欲しい、いつも笑顔でいて欲しい。そのためなら、自分が不利になるような助言も厭わないのだろう。
そして何より優里というのは、そんな損得勘定を超越した愛情を人に抱かせてしまう人間なのだ。
「分かったよ、優里。もうあいつに近付くなとか、そんなことは言わない」
「ほんと？ 有栖川さんと仲良くしてもいいの？」
「ああ」
隆矢は覚悟を決めた。優里を奪われるかもしれないという不安を解消するには、自分が努力するしかないのだ。もっともっといい男になって、優里を幸せにする。そうして自分に自信をつけることで、不安も消えてゆくはずだ。
―――あんたに借りができちまった。でも絶対に負けねえからな
姿の見えぬライバルに向かって、揺るぎない決意を叩き付けた。しかし、そんな隆矢の想いを知ってか知らずか、優里はにこにこ笑いながら、
「じゃあ早速あとで連絡しなくちゃ。ご飯にね、誘ってくれたのー。デザートが15種類もあるイタリア料理のお店でね―――」
「……ちょっと待て、優里。あいつと二人で食事に行くのかっ？」
優里は目をぱちぱちさせて、「うん」とあっさり頷く。隆矢はがばと起き上がって、
「だっ、だめだだめだっ。そんな、二人でなんて………よし、俺も行く！ 俺も一緒に行くからなっ」
優里は最初は驚いていたものの、すぐにぱぁっと顔を輝かせて、
「うんっ。お兄ちゃんも行こぉ。みんなで美味しいものを食べるの。そしたらもっと仲良くなれるよ。ねっ？」
嬉しそうに隆矢に抱き付いた。そして―――
「………なんで君まで来るんだ。僕は優里さんと二人で―――」
「おおっ、この渡り蟹のパスタ旨えなあ。ほら優里、蟹の身をとってやるから」
「わーい♪」
渋い顔付きの有栖川に、笑顔全開の隆矢と優里。カップル率100パーセントのお洒落なイタリアンレストランで、男３人仲良く食事中。しかし、周りからの視線は何故か妙に温かい。
「わ、このピザ、７種類のチーズが使われてるんだって。すごーい」
「げ、この緑のソース、すげえ旨い」
高テンションの二人に比べて、明らかに不機嫌そうな有栖川。優里は心配そうにその顔を覗き込んで、
「あの……余り食べてないですね。もしかして体調が………」
食前酒のせいかほんのり紅く染まった頬やくるんと見開いた瞳に、思わず笑みがこぼれる。有栖川は大人の色気を感じさせる優雅な所作で否定し、
「いいえ。優里さんが美味しそうに食べている姿に見惚れていただけですよ。僕はそれだけで満足なので―――」
「ほらっ、優里。蟹の身取ってやったぞっ」
「あ、ありがとー、お兄ちゃん」
「…………」
笑顔を保ったまま、こめかみに青い血管を浮き上がらせる有栖川。
―――ここの支払いは沢村酒店のツケにしてやろうかっ
大人気ないと思いつつも、心の中で叫んでしまう有栖川だった。
（Fin）
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