「瑠羽、こっちへ来なさい」
「は……はい……」
「早く来いと言っているんだ」
ほとんど叱責にも似た遼牙の鋭い呼びかけに、瑠羽は跳ね上がった。そしてぱたぱたと遼牙のもとへ駆け寄る。
今朝はいつも通り、優しくて穏やかで、ちょっとえっちな王様だったのに、日中の公務を終えて執務室から出てきた時には、額は険のある陰翳を帯びて、目は据わっており、苛立たしさを露わにした歩みで瑠羽の部屋にやってきた。そしていきなり、これである。瑠羽の戸惑いも当然だといえよう。
「遼牙さま、あの……なにか………」
遼牙さまは体調が優れないのかもしれない。だからこんなに苛々していらっしゃるんだ。瑠羽は心配そうに遼牙を見上げ、爪先立って手を伸ばし、額に手を当てようとした。が、その手を乱暴に取って強く握ると、
「ずいぶん楽しそうにしていたな。そんなにあの男が気に入ったのか？」
「あの男……？」
「聖楽隊の胡琴弾きだ」
「あ、安良（やすら）さま」
「ほう、そういう名前なのか、知らなかったな」
遼牙は口許を歪めて嫌らしい嗤いを浮かべると、瑠羽を上から睨んだ。
「あの男とずっと一緒にいたのだろう。胡琴に合わせて歌うお前の声が、長らく聞こえていた」
瑠羽は真っ青な顔で唇を震わせながら、
「申し訳ありません……お仕事の邪魔に……今後はもう二度と―――」
「馬鹿者！ そんなことを言いたいのではないっ」
「ひっ」
瑠羽は飛び上がって、ぶるぶると震え出した。いつもなら、ここまで瑠羽を怯えさせることはしない。しかし遼牙には、苛立ちを抑えきれない理由があった。
昨夜から城内に逗留している聖楽隊のリーダーである胡琴弾きは、先刻あろうことか遼牙に直談判を敢行したのだ。瑠羽の歌声の素晴らしさを褒め称え、このような才能を城内に閉じ込めておくのは勿体ない、芸能の神への冒涜だと暗に遼牙を非難し、瑠羽を我々に預けてくれないかと言ってきたのだ。
もちろん遼牙は即断った。だが男は侮蔑も露わに遼牙を見据え、
「賢王の令名が泣きますぞ。王の酒姫とはいえ、魂は自由のはず。才能を磨き、多くの聴衆を魅了することこそが、瑠羽の幸せではないのですか？」
「分かったようなことを。あれにとって、私の傍にいることが何よりの幸福なのだ」
「本人に質してもいないのに？ 畏れながら申し上げますが、さきほど中庭で私と戯れておりました瑠羽は、とても楽しそうでしたが」
「それはそれは。あれの相手をしてくれて感謝する。日中は公務で、なかなか一緒にいてやることができなくてな。瑠羽もいい暇潰しになっただろう」
胡琴弾きは物凄い目で遼牙を睨むと、短い挨拶を投げつけて御前を去った。己れの才能と魅力を過信している者に特有の、傲岸不遜な振る舞い。遼牙は咎める気すら起こらなかった。
しかし嫉妬心は別。自分が仕事をしている間、瑠羽は他の男と楽しく戯れていたのだと思うと、鳩尾の辺りからむらむらと、物騒な熱が湧き上がってくる。それをそのまま瑠羽にぶつけてしまったというわけだ。
「楽しかったか、瑠羽。私のいない間に他の男と……」
遼牙が嫉妬しているなどと思いもつかない瑠羽は、何と答えてよいか分からず、ただ震えるしかできない。そうしている間にも、遼牙の表情は徐々に険しさを増してゆく。そしてついに、唇を歪めてにやりと笑うと、
「瑠羽……どうする？ 大人しくお仕置きを受けるというなら、許してやらんこともないが」
もちろん瑠羽は、その提案にすがりついた。
「う、受けます、遼牙さま……だからどうかおゆるしを―――」
「分かった。私の部屋に来なさい」
遼牙はくるりと振り向くと、すたすたと自分の部屋へ行った。瑠羽も慌ててその後を追った。
「その長椅子の上に乗って、脚を大きく開きなさい」
遼牙は部屋に入るなり、威厳に満ちた声で命令した。瑠羽は言われた通り長椅子に座って、膝をちょっと開いた。
「聞こえなかったのかな。その上で、衣の裾をまくって、脚を大きく開きなさい。そう、お前のいやらしい蕾が露わになるくらい大きく……瑠羽、返事は」
「はい……仰せのままに……」
瑠羽はほとんど泣きそうになりながらも、遼牙の言葉に忠実に従った。長椅子の背もたれに身体を預け、脚をＭ字に大きく開いてみせた。まくり上げた衣の裾で、真っ赤に染まった顔を隠しつつ。
遼牙は、瑠羽の細い足首を掴んで上に引き上げ、腰を浮かせて蕾を目の前に晒してみせた。
「何だ？ 瑠羽。これだけでもう興奮しているのか？ ひくひく動いているぞ」
遼牙は笑いを含んだ声で囁くと、固く閉じたままの蕾にざらりと舌を這わせた。
「ゃ……ぁ………」
瑠羽は顔を隠したまま、小さく首を振る。その初々しい羞恥を堪能した遼牙は、香油を滴らせた指で入口をからかいながら、ぷつりと奥へ突き入れた。
「あっ……やぁん………」
まずは１本。中で回しながら内壁を刺激してやる。
「瑠羽……自分で膝を押さえていなさい」
そう言い付けると、遼牙は空いた手で瑠羽の半身を扱き、その快感で緩んだ蕾にもう１本指を加えてさらなる刺激を与えた。
―――くちゅ、くちゅ、くちゅ
熟れ始めた花唇は、淫らな音と共に遼牙の指に絡みつく。しかし遼牙の目的はそれではなかった。あっさりと指を引き抜くと、酸素を求める魚のようにぱくぱくと喘ぐ後孔に、碧色のガラス玉を繋げたようなものを押し込んだ。それは香油と瑠羽の蜜によって、大した抵抗もなくつるりと収まった。
「ひぃっ……ん、な、なに……遼牙さまぁ………」
しかし遼牙はそれには答えず、満足げに頷くと、
「さあ、瑠羽。いつまでそんな格好をしているんだ。脚を下ろして、ちゃんと立ちなさい」
「は…はい……」
もうお仕置きは終わったのかと戸惑いながらも、瑠羽は衣を直して立ち上がった。が―――
「ひゃうっん…………ぁ………ぁぁ………」
嬌声を上げて再び床にぺたりと座り込む。
「あ……あぁぁ………な…に……りょ…き…さまぁ………」
瑠羽は甘い吐息をこぼしながら、腰を微かに振っている。もっと奥へ、もっと奥へと誘うかのように。遼牙は思わず目を細めた。
「どうしたんだ、瑠羽。その淫らな動きは」
「ぁ……りょうきさま……ヘンなのぅ……おしりの奥がね………ぁっん……」
「瑠羽、早く立ちなさい」
瑠羽は朦朧とした様子で頷くと、長椅子に手を掛けてまず膝立ちになった。しかし、
「きゃぁっ、ぁ……ん、んっ………イイ……あぁ………」
膝立ちのまま、背中を反らせてゆったりと腰を揺らめかす瑠羽。その姿は聖と淫の両極を併せ持ち、遼牙は心打たれる思いがした。しかしお仕置きの最中だということは忘れず、
「おお、忘れるところだったな」
瑠羽に近寄って衣の裾をからげ、幼さを残しつつもすっかり勃ち上がった半身に、金のリングをはめた。
「勝手に解放されては、お仕置きの意味がなくなるからな」
そして快楽と羞恥の涙で濡れた頬に唇を寄せ、
「瑠羽、今日は一日、このままでいなさい。リングを外すことも、中の碧玉を取り出すことも許さん。今夜は酒宴もないしな。簡単なことだろう？」
瑠羽は喉を震わせてしゃくり上げるだけで、言葉を返すこともできない。
「瑠羽、返事はどうした」
「は……ぁ……は…い………んっ」
「では瑠羽、これから部屋着に着替えようと思う。手伝ってくれ」
「は…い……」
瑠羽は立ち上がろうとしたが、動いたり身体にちょっとでも力を入れると、蕾の奥の碧玉がぐりぐりと動いて敏感な部分をこすり上げるのだ。瑠羽は涙をこぼしながら「あぁん」と喘いだが、何とか立ち上がって衣装部屋へ行った。遼牙はその後を、にやにや笑いながらついていく。
「さあどうしようかな。瑠羽、あそこにある帯を取ってくれ」
「はい……」
瑠羽は棚の上の方にある帯を取ろうと、爪先立って手を伸ばした。が、
「やあっ……ぁ……あぁ………」
悲鳴を上げて座り込む。遼牙はわざと厳しい声で、
「何をしている。早くしなさい」
「も…もうしわけございません……っう……ふぇ………」
泣きながら何度も立ち上がろうとするが、そのたびに碧玉が動き、瑠羽の玉座を攻めるのだ。
「あ…あぁっ……りょ…きさま……ごめんなさ……おこらないで………」
艶かしい哀願を振りまいて、平伏する瑠羽。そうしながらも、おそらく無意識のうちに腰は揺らめき、控え目ながらもくちゅくちゅという淫音が衣の奥から漏れ聞こえてくる。
「瑠羽、たったそれだけのことができないのか？ やはりお前は酒姫失格―――」
「でっ、できます、できます……りょうきさまっ………」
瑠羽は叫ぶと、そのまま自分の手に噛み付いた。
「なっ、何をしているっ」
遼牙はさすがに慌てて駆け寄ると、手を引き剥がした。小さな手には、痛々しい歯型がくっきりと。しかし瑠羽は首を振って、猶も手を噛もうとする。
「やめなさい、瑠羽っ」
「いやっ、できるもん、ちゃんとできるもん。酒姫失格じゃないもんっ」
瑠羽は噛んだ痛みで、与え続けられる刺激から気を逸らそうとしたのだ。
「ずぅっとおそばにいるのぉ………やあぁぁ………」
遼牙は瑠羽の身体をそっと抱き起こすと、半開きの濡れた唇に喰らいついた。
「ぁ……んっぅ…………っふ」
唇を離すと、舌と舌を繋ぐ唾液の糸がきらきらと輝いた。遼牙はそれを絡め取るようにもう一度軽く唇を重ねる。見れば、瑠羽の衣にはすでに染みができていた。
「瑠羽……欲しいか？」
「ほしい……りょうきさまぁ………」
遼牙は迷わず瑠羽を抱き上げて、寝室へ向かった。
「すごい……瑠羽、とろとろだぞ。熟れきった柘榴のようだ」
服を脱ぎ、四つん這いになった瑠羽は、ひくひくと激しい収縮を繰り返す花唇を遼牙の目の前に晒していた。中で動く碧玉に合わせて控え目ながらも淫らに腰を振ると、奥の方からチュプチュプと可愛い喘ぎが漏れ聞こえてくる。遼牙のお仕置きは、まだ続行中なのだ。
遼牙はその部分に舌を這わせて襞の蠢きを味わうと、指をずぶりと突き入れて奥の碧玉をさらに奥へ押し入れたり引き戻したりした。
「ああっ、だめ、だめぇっ」
瑠羽は激しく腰を痙攣させて、与えられた快感の大きさを訴える。可哀想なほど膨れ上がった半身は、未だ解放を許されていない。
「奥の収縮は、入口以上だ………瑠羽、いつの間にこんないやらしい身体になったんだ………」
もちろんそれは、自分が仕込んだのであるが、その分かりきった事実を確認するたびに、遼牙は言いようのない悦びに浸されるのだ。
「りょうきさま、りょうきさまぁっ」
「瑠羽、どうして欲しいんだ。言ってみなさい」
もし、根元を縛めているリングを外して欲しいと言ったら、遼牙はお仕置きを暫く続行するつもりだった。しかし―――
「りょうきさまのがいいのぉ……おねがいっ………」
「瑠羽っ」
愛しさが込み上げる。遼牙は挿れたままの指を器用に曲げて中の碧玉をずるずると引きずり出し、代わりに、ずいぶん前から涎を垂らして喘いでいる己れの陰茎を突き刺した。
「きゃあぁぁっ、ああっ、ああぁっ」
「ぅ………」
遼牙は余りの快感に、言葉を失った。獰猛な花びらはきゅっきゅっと蠢いて、猛り狂った肉棒にさらなる狂気を植え込む。突き入れるたびに聞こえる、ぐちゅっという濃密な汁音に、鼓膜も破裂しそうなほど興奮してしまう。
「あぁ……ぁぁ………ぁ…」
瑠羽は半分意識が飛びかけているのか、半開きの唇からは微かな喘ぎが聞こえるだけだった。
「瑠羽……一緒にいこう………」
遼牙もまた、朦朧としたまま呟くと、リングを外した。
「ああっ、ああああぁぁーーーッ」
「っくぅぅ……」
１秒の誤差もなく、二人は同時に達した。もちろんその後も、遼牙は幾度も体位を変えては瑠羽を犯し、夕餉の時間も忘れてこの甘美な身体を味わうのに没頭した。
―――その翌日
遼牙と瑠羽は、中庭の東屋で遅い朝食をとっていた。昨夜の“お仕置き”の余韻か、甘い倦怠を身体中に灯した瑠羽は、遼牙の膝の上に座って身体を預け、食べさせてもらっていた。
パンを小さくちぎってこけもものジャムを乗せ、瑠羽の口に運ぶ遼牙は、そうするのが楽しくてならない様子で、熱心に世話をしていた。
「お食事中失礼いたします。聖楽隊の安良とかいう者が、陛下にお目通りを願いたいと申しておりますが」
「ああ、あの男か。構わん、通せ」
ほどなくして、相変わらずの倣岸な笑みを湛えた男が近づいてきた。
「昨日は失礼いたしました。我々は今日の午後、こちらを発ちます。その前にご挨拶をと思いまして」
男は明らかに、遼牙ではなく瑠羽に向かって話していた。それに気付かぬほど、遼牙の目は濁ってはいない。
「胡琴弾きよ、言いたいことがあるならはっきり申せ。遠慮は要らん」
男は少し驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの作り物めいた笑みを浮かべて、
「ではお言葉に甘えて。瑠羽、私たちは今日ここを発つ。もし良かったら、一緒に来ないか？」
「え？」
瑠羽は驚きの余り、口をぽかんと開けたまま男を見つめた。
「君の歌は素晴らしい。私が指導すれば、もっともっと磨かれて、大陸中の聴衆を魅了する歌姫になれるだろう。こんな、狭い城内に閉じ込められているのは勿体ないよ。昨日も、陛下にご進言申し上げたんだ。きっと分かってくださるに違いない」
男は勝ち誇ったように微笑んで、瑠羽に手を伸ばした。しかし、
「い、いや……遼牙さまぁ……」
瑠羽は怯えたように身を引くと、遼牙の胸にすがりついた。しかし遼牙は厳しい声で、
「瑠羽、自分で決めなさい。前にも言ったはずだ。お前と私は対等なのだと。私は何も強制しない」
「……遼牙さまは、もう要らないの？ 僕のこと………」
瑠羽の瞳から大粒の涙がはらはらとこぼれ落ちた。遼牙はそれをそっと指ですくうと、
「そんなことは言っていない。私は―――」
「いやああぁぁっ、ここにいる、ここにいるのぉっ、ずっと、ずぅっと…おそばに………っく………いるの………やだよぉ………どこにも行かないっ」
瑠羽は苦しそうに嗚咽を呑みこむと、遼牙の顔を見上げた。
「だめ？ ここにいちゃだめ？ りょうきさまぁ……僕、僕、お仕置き受けます、朝も寝坊しません、遼牙さまのガウンくしゃくしゃにしません、あと、あと………」
遼牙は瑠羽の腰に腕を回して、ぎゅっと抱き締めた。そしてあやすように背中を撫でながら男を一瞥し、
「胡琴弾きよ、まだ何か言いたいことがあるか？」
「……いえ、何もございません。お世話になりました」
男は深く一礼すると、その場を去ろうとした。が、
「瑠羽……君の声は本当に素晴らしいんだ。必ず、賞賛を集めることができる」
負け惜しみだろうか、いや、彼の本音だろう。淋しそうに告げた。しかし瑠羽は涙を拭いながら、
「安良さま……では、あの小鳥たちは誰のために、何のために歌うの？ 賞賛を集めるため？ 僕は、自分と愛する人の悦びのために歌います」
男は虚を衝かれたように固まったが、表情を和やかに緩めて、
「君は、籠の中の鳥ではないんだね。瑠羽、幸せに……」
今度こそ、本当に去っていった。
「瑠羽、さあこっちを向いて。もう泣きやんだな。では私のために歌ってくれ、悦びの歌を―――」
瑠羽は嬉しそうに頷くと、珊瑚色の唇を微かに震わせて歌を紡いだ―――
雲雀は歌う 薔薇色の雲のために
鶯は歌う 菫色の風のために
シリンは歌う 瑠璃色の夜のために
私は歌う 愛の色に染まったあなたのために―――
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